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第11話「伝説の霊薬」
クラウスが不在の屋敷は、広すぎて寒々しかった。
ルカはベッドの上で過ごす時間が増えていた。医師の処方した薬で痛みを散らしているが、体のだるさは増すばかりだ。
窓の外、王都の雨はしとしとと降り続いている。
北の空はどうだろうか。雪が降っているのだろうか。
ルカは毎日、地図を広げてクラウスの旅路を想像した。
今日はこの辺りか。魔獣に襲われていないか。凍えていないか。
不安で押しつぶされそうになる夜は、クラウスの枕を抱きしめて、残された匂いを吸い込んだ。
「早く帰ってきてよ……スパダリなんでしょ……」
独り言が涙声になる。
クラウスがいなくなって初めて、ルカは自分がどれほど彼に依存し、愛していたかを痛感した。
自分の人生は「余り物」だと思っていた。いつ終わってもいいと。
でも今は違う。
生きたい。
クラウスと一緒にお茶を飲みたい。庭を散歩したい。くだらない話で笑い合いたい。
(生きたい……!)
ルカは薬学の知識を総動員し、自分の体を維持する方法を考えた。ただ待っているだけじゃ駄目だ。クラウスが命がけで薬草を持って帰ってくるまで、絶対に命の灯火を消してはいけない。
ルカは使用人に頼み、屋敷の研究室から様々な器具と書物をベッドサイドに運ばせた。
「ルカ様、あまりご無理をなされては……」
「いいんだ。これが俺の戦いだから」
ルカは自らの血液を採取し、毒素の数値を分析し、食事療法と魔力による循環補助を組み合わせた延命プログラムを構築した。
自分は天才薬師だ。自分の体くらい、自分でコントロールしてみせる。
一方、北の果て。
猛吹雪の中を、クラウスたちは進んでいた。
視界は真っ白で、一歩間違えればクレバスに転落する極限状態。
「閣下! これ以上は危険です! 一度キャンプに戻りましょう!」
部下の叫び声がかき消される。
「だめだ! ルカには時間がないんだ!」
クラウスは先頭に立ち、剣で雪を切り裂きながら進んだ。
彼の頬は凍傷で焼け、体力は限界に近づいていた。だが、その瞳だけはギラギラと輝いていた。
途中、巨大な白狼の群れに襲われた。
「邪魔をするなァァァ!!」
クラウスは咆哮し、鬼神の如き強さで狼たちを蹴散らした。
彼は知っていた。自分がここで倒れれば、ルカも死ぬ。二人の命は繋がっているのだ。
数日の過酷な探索の末、彼らはついに『銀の森』の最深部に到達した。
そこは、吹雪がピタリと止み、神秘的な静寂に包まれた氷の洞窟だった。
洞窟の中央、蒼い光を放つ泉のほとりに、一輪だけ咲く花があった。
水晶のように透き通った花弁。月光を集めたような輝き。
『雪月花』だ。
「あった……」
クラウスはその場に膝をついた。安堵で全身の力が抜ける。
震える手で、慎重に花を採取する。
その冷たさと美しさは、ルカの儚げな横顔に似ていた。
「待ってろよ、ルカ。今、帰るからな」
クラウスは花を特殊なケースに収め、愛おしそうに胸に抱いた。
王都の屋敷では、ルカの容態が急変していた。
高熱が出て、呼吸が浅くなる。
「ルカ様! しっかりしてください!」
使用人たちの悲鳴が遠く聞こえる。
ルカの意識は、暗い水底へと沈んでいくようだった。
(もう、だめかな……)
視界が暗転する。
その闇の中で、懐かしい声が聞こえた気がした。
『ルカ!』
扉が乱暴に開かれる音。冷たい風と、血と雪の匂い。
そして、何よりも愛しい、あの針葉樹の香り。
ルカは薄く目を開けた。
そこには、ボロボロの姿で、しかし誇らしげに微笑むクラウスが立っていた。
「約束通り、戻ったぞ……」
その手には、白く輝く花が握られていた。
ルカはベッドの上で過ごす時間が増えていた。医師の処方した薬で痛みを散らしているが、体のだるさは増すばかりだ。
窓の外、王都の雨はしとしとと降り続いている。
北の空はどうだろうか。雪が降っているのだろうか。
ルカは毎日、地図を広げてクラウスの旅路を想像した。
今日はこの辺りか。魔獣に襲われていないか。凍えていないか。
不安で押しつぶされそうになる夜は、クラウスの枕を抱きしめて、残された匂いを吸い込んだ。
「早く帰ってきてよ……スパダリなんでしょ……」
独り言が涙声になる。
クラウスがいなくなって初めて、ルカは自分がどれほど彼に依存し、愛していたかを痛感した。
自分の人生は「余り物」だと思っていた。いつ終わってもいいと。
でも今は違う。
生きたい。
クラウスと一緒にお茶を飲みたい。庭を散歩したい。くだらない話で笑い合いたい。
(生きたい……!)
ルカは薬学の知識を総動員し、自分の体を維持する方法を考えた。ただ待っているだけじゃ駄目だ。クラウスが命がけで薬草を持って帰ってくるまで、絶対に命の灯火を消してはいけない。
ルカは使用人に頼み、屋敷の研究室から様々な器具と書物をベッドサイドに運ばせた。
「ルカ様、あまりご無理をなされては……」
「いいんだ。これが俺の戦いだから」
ルカは自らの血液を採取し、毒素の数値を分析し、食事療法と魔力による循環補助を組み合わせた延命プログラムを構築した。
自分は天才薬師だ。自分の体くらい、自分でコントロールしてみせる。
一方、北の果て。
猛吹雪の中を、クラウスたちは進んでいた。
視界は真っ白で、一歩間違えればクレバスに転落する極限状態。
「閣下! これ以上は危険です! 一度キャンプに戻りましょう!」
部下の叫び声がかき消される。
「だめだ! ルカには時間がないんだ!」
クラウスは先頭に立ち、剣で雪を切り裂きながら進んだ。
彼の頬は凍傷で焼け、体力は限界に近づいていた。だが、その瞳だけはギラギラと輝いていた。
途中、巨大な白狼の群れに襲われた。
「邪魔をするなァァァ!!」
クラウスは咆哮し、鬼神の如き強さで狼たちを蹴散らした。
彼は知っていた。自分がここで倒れれば、ルカも死ぬ。二人の命は繋がっているのだ。
数日の過酷な探索の末、彼らはついに『銀の森』の最深部に到達した。
そこは、吹雪がピタリと止み、神秘的な静寂に包まれた氷の洞窟だった。
洞窟の中央、蒼い光を放つ泉のほとりに、一輪だけ咲く花があった。
水晶のように透き通った花弁。月光を集めたような輝き。
『雪月花』だ。
「あった……」
クラウスはその場に膝をついた。安堵で全身の力が抜ける。
震える手で、慎重に花を採取する。
その冷たさと美しさは、ルカの儚げな横顔に似ていた。
「待ってろよ、ルカ。今、帰るからな」
クラウスは花を特殊なケースに収め、愛おしそうに胸に抱いた。
王都の屋敷では、ルカの容態が急変していた。
高熱が出て、呼吸が浅くなる。
「ルカ様! しっかりしてください!」
使用人たちの悲鳴が遠く聞こえる。
ルカの意識は、暗い水底へと沈んでいくようだった。
(もう、だめかな……)
視界が暗転する。
その闇の中で、懐かしい声が聞こえた気がした。
『ルカ!』
扉が乱暴に開かれる音。冷たい風と、血と雪の匂い。
そして、何よりも愛しい、あの針葉樹の香り。
ルカは薄く目を開けた。
そこには、ボロボロの姿で、しかし誇らしげに微笑むクラウスが立っていた。
「約束通り、戻ったぞ……」
その手には、白く輝く花が握られていた。
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