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第3話「首輪と契約」
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目が覚めたとき、最初に感じたのはシーツの滑らかな感触だった。
最高級のシルクだろうか。肌に触れる布地が、驚くほど心地よい。
レオは重いまぶたを押し上げ、ぼんやりと周囲を見回した。
見覚えのない天井。黒曜石を削り出したかのような高い柱。窓の外には紫色の空が広がっている。
「……どこだ、ここ」
つぶやきながら身を起こそうとして、首元に違和感を覚えた。
手をやると、冷たく硬い金属の感触がある。
首輪だ。
鎖などはついていないが、重厚な金属の輪が首にぴったりと嵌まっている。
「なんだこれ……外れない……」
両手で掴んで引っ張るが、微動だにしない。それどころか、力を込めようとすると、首輪から奇妙な波動が流れ込み、体内の魔力が霧散させられてしまう。
「無駄だ。それは魔封じの首輪。お前の魔力に合わせて特注で作らせた」
部屋の奥、豪華なソファから声がした。
レオは弾かれたように視線を向ける。
そこにいたのは、ワイングラスを片手にくつろぐ魔王ベリアルだった。
部屋着のような、ゆったりとしたローブをまとっているが、その下にある岩盤のような筋肉は隠しきれていない。座っていても、その巨大さは圧倒的だった。
「起きたか、眠り姫。丸二日も眠っていたぞ」
「二日……」
レオは愕然とした。
そんなに時間が経っていたのか。戦況はどうなった。俺が戻らなければ、軍は混乱しているはずだ。
「俺をどうする気だ。捕虜にして拷問でもするか」
レオはベッドの上で構えた。武器はない。魔力も使えない。だが、戦う意思だけは失っていなかった。
ベリアルはグラスを置き、ゆっくりと立ち上がった。
その動作だけで、部屋の空気が圧縮されるような威圧感がある。
「拷問? ククッ……そんな野蛮なことはしない。言ったはずだ。『飼ってやる』と」
ベリアルが近づいてくる。
一歩、また一歩。
レオは後ずさりしようとしたが、背中がベッドヘッドに当たって止まる。
「寄るな」
威嚇するように叫ぶが、ベリアルは意に介さず、ベッドの縁に腰を下ろした。
それだけで、キングサイズのベッドが大きく沈み込む。
レオの身体が、傾斜に沿ってベリアルの方へと滑り落ちそうになる。
近い。
改めて見ると、そのサイズ差に戦慄する。ベリアルの手のひら一つが、レオの顔と同じくらいの大きさがあるのだ。
「怯えるな。怯えた肉は固くなる」
「怯えてなど……いない」
「嘘をつけ。お前の匂いが変わっている。甘い香りの中に、酸っぱい恐怖が混じっているぞ」
ベリアルは楽しげに笑い、レオの顎を太い指ですくい上げた。
強制的に上を向かされる。
真紅の瞳が、レオの青い瞳を覗き込む。
「取引をしよう、勇者よ」
「……取引だと?」
「そうだ。お前は今、ヒートの熱に侵されている。今は薬で抑えているが、いずれまた発作が起きるだろう。このままではお前は苦痛で死ぬか、理性を失って獣のようになる」
レオは奥歯を噛み締めた。
その通りだ。今も、体の奥底でくすぶっている熱を感じる。いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているようなものだ。
「そこでだ。余がお前に魔力を与えてやろう。アルファの魔力は、オメガのヒートを鎮める特効薬となる」
「……代償は?」
「余にも魔力を寄越せ。身体を繋ぎ、魔力を循環させるのだ。お前の純粋な聖なる魔力は、魔族である余にとって極上の味だからな」
つまり、そういうことだ。
身体を売れ、と言っているのだ。
カッと頭に血が上る。
「ふざけるな。誰が貴様ごときに……」
「ごとき、か。敗者が随分と大きな口を叩く」
ベリアルの指に力がこもる。顎が砕けそうなほどの力ではないが、逃げられない絶対的な拘束力がある。
「拒否権があると思っているのか? お前は捕虜だ。余がその気になれば、無理やりにでも従わせることができる。だが、余は同意の上での行為が好みなのだ。美味い食事は、楽しく味わいたいからな」
ベリアルの顔が近づく。
唇が触れそうな距離。
熱い吐息がかかり、レオの心臓が早鐘を打つ。
悔しいが、ベリアルの言うことは理にかなっていた。
このまま拒絶しても、力ずくで犯されるだけだ。そうなれば、尊厳も何もかも失うことになる。
それに、身体が求めてしまっているのだ。
目の前のアルファに対し、本能が「服従しろ」と叫んでいる。
「……条件がある」
レオは震える声で言った。
「なんだ? 言ってみろ」
「俺を……人として扱え。ただの肉人形にはなるつもりはない」
「ほう。誇り高いことだ。いいだろう、約束する。余はケチな男ではない。気に入ったものは大切に扱う主義だ」
「それと……人間界への攻撃を、一時中断しろ」
ベリアルは少し驚いたように眉を上げたが、すぐにニヤリと笑った。
「よかろう。どうせ今は、お前という極上の獲物を味わうのに忙しいからな。雑事に構っている暇はない」
あっさりと了承されたことに拍子抜けしたが、これで最低限の守るべきものは守れた。
「……わかった。その条件で、受けてやる」
レオが告げると、ベリアルは満足そうに目を細めた。
「賢明な判断だ。では、早速始めるとしようか」
ベリアルがレオの身体を押し倒す。
圧倒的な質量の前に、レオはなす術もなくシーツに沈み込んだ。
覆いかぶさる影。
逃げ場のない檻の中で、勇者と魔王の、奇妙な契約が成立した瞬間だった。
「覚悟しろよ、レオ。余は貪欲だぞ」
初めて名前を呼ばれた。
その低く響く声に、レオの背筋が甘く痺れた。
もう、後戻りはできない。
最高級のシルクだろうか。肌に触れる布地が、驚くほど心地よい。
レオは重いまぶたを押し上げ、ぼんやりと周囲を見回した。
見覚えのない天井。黒曜石を削り出したかのような高い柱。窓の外には紫色の空が広がっている。
「……どこだ、ここ」
つぶやきながら身を起こそうとして、首元に違和感を覚えた。
手をやると、冷たく硬い金属の感触がある。
首輪だ。
鎖などはついていないが、重厚な金属の輪が首にぴったりと嵌まっている。
「なんだこれ……外れない……」
両手で掴んで引っ張るが、微動だにしない。それどころか、力を込めようとすると、首輪から奇妙な波動が流れ込み、体内の魔力が霧散させられてしまう。
「無駄だ。それは魔封じの首輪。お前の魔力に合わせて特注で作らせた」
部屋の奥、豪華なソファから声がした。
レオは弾かれたように視線を向ける。
そこにいたのは、ワイングラスを片手にくつろぐ魔王ベリアルだった。
部屋着のような、ゆったりとしたローブをまとっているが、その下にある岩盤のような筋肉は隠しきれていない。座っていても、その巨大さは圧倒的だった。
「起きたか、眠り姫。丸二日も眠っていたぞ」
「二日……」
レオは愕然とした。
そんなに時間が経っていたのか。戦況はどうなった。俺が戻らなければ、軍は混乱しているはずだ。
「俺をどうする気だ。捕虜にして拷問でもするか」
レオはベッドの上で構えた。武器はない。魔力も使えない。だが、戦う意思だけは失っていなかった。
ベリアルはグラスを置き、ゆっくりと立ち上がった。
その動作だけで、部屋の空気が圧縮されるような威圧感がある。
「拷問? ククッ……そんな野蛮なことはしない。言ったはずだ。『飼ってやる』と」
ベリアルが近づいてくる。
一歩、また一歩。
レオは後ずさりしようとしたが、背中がベッドヘッドに当たって止まる。
「寄るな」
威嚇するように叫ぶが、ベリアルは意に介さず、ベッドの縁に腰を下ろした。
それだけで、キングサイズのベッドが大きく沈み込む。
レオの身体が、傾斜に沿ってベリアルの方へと滑り落ちそうになる。
近い。
改めて見ると、そのサイズ差に戦慄する。ベリアルの手のひら一つが、レオの顔と同じくらいの大きさがあるのだ。
「怯えるな。怯えた肉は固くなる」
「怯えてなど……いない」
「嘘をつけ。お前の匂いが変わっている。甘い香りの中に、酸っぱい恐怖が混じっているぞ」
ベリアルは楽しげに笑い、レオの顎を太い指ですくい上げた。
強制的に上を向かされる。
真紅の瞳が、レオの青い瞳を覗き込む。
「取引をしよう、勇者よ」
「……取引だと?」
「そうだ。お前は今、ヒートの熱に侵されている。今は薬で抑えているが、いずれまた発作が起きるだろう。このままではお前は苦痛で死ぬか、理性を失って獣のようになる」
レオは奥歯を噛み締めた。
その通りだ。今も、体の奥底でくすぶっている熱を感じる。いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているようなものだ。
「そこでだ。余がお前に魔力を与えてやろう。アルファの魔力は、オメガのヒートを鎮める特効薬となる」
「……代償は?」
「余にも魔力を寄越せ。身体を繋ぎ、魔力を循環させるのだ。お前の純粋な聖なる魔力は、魔族である余にとって極上の味だからな」
つまり、そういうことだ。
身体を売れ、と言っているのだ。
カッと頭に血が上る。
「ふざけるな。誰が貴様ごときに……」
「ごとき、か。敗者が随分と大きな口を叩く」
ベリアルの指に力がこもる。顎が砕けそうなほどの力ではないが、逃げられない絶対的な拘束力がある。
「拒否権があると思っているのか? お前は捕虜だ。余がその気になれば、無理やりにでも従わせることができる。だが、余は同意の上での行為が好みなのだ。美味い食事は、楽しく味わいたいからな」
ベリアルの顔が近づく。
唇が触れそうな距離。
熱い吐息がかかり、レオの心臓が早鐘を打つ。
悔しいが、ベリアルの言うことは理にかなっていた。
このまま拒絶しても、力ずくで犯されるだけだ。そうなれば、尊厳も何もかも失うことになる。
それに、身体が求めてしまっているのだ。
目の前のアルファに対し、本能が「服従しろ」と叫んでいる。
「……条件がある」
レオは震える声で言った。
「なんだ? 言ってみろ」
「俺を……人として扱え。ただの肉人形にはなるつもりはない」
「ほう。誇り高いことだ。いいだろう、約束する。余はケチな男ではない。気に入ったものは大切に扱う主義だ」
「それと……人間界への攻撃を、一時中断しろ」
ベリアルは少し驚いたように眉を上げたが、すぐにニヤリと笑った。
「よかろう。どうせ今は、お前という極上の獲物を味わうのに忙しいからな。雑事に構っている暇はない」
あっさりと了承されたことに拍子抜けしたが、これで最低限の守るべきものは守れた。
「……わかった。その条件で、受けてやる」
レオが告げると、ベリアルは満足そうに目を細めた。
「賢明な判断だ。では、早速始めるとしようか」
ベリアルがレオの身体を押し倒す。
圧倒的な質量の前に、レオはなす術もなくシーツに沈み込んだ。
覆いかぶさる影。
逃げ場のない檻の中で、勇者と魔王の、奇妙な契約が成立した瞬間だった。
「覚悟しろよ、レオ。余は貪欲だぞ」
初めて名前を呼ばれた。
その低く響く声に、レオの背筋が甘く痺れた。
もう、後戻りはできない。
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