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番外編
並外れた能力
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「御令嬢をあの魔法騎士の訓練場へ…ですか?」
「あぁ、そうだ」
「あの訓練場は騎士達しか入れないのはご存知でしょう。何を言い出すのかと思えば、一体どういう…」
「今日訓練用に捕獲した怪物を倒してもらう」
「は…?」
「話は以上だ。下がれ」
「は?いや、あの、意味が分からな…」
オレフィスが言い終わる前に、ルカは颯爽と執務室から出ていった。
オレフィスは訳がわからないまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
倒すための練習用に生きたまま捕獲した怪物を、御令嬢に倒してもらう?
…ルカ皇太子、忙しさでついに頭がおかしくなったのか?
今日からマルスティア伯爵令嬢がこの宮殿に来ると聞いた時は、騎士達含めこの宮殿の皆が混乱した。
ルカ皇太子の王妃候補として呼ばれたのだろうか。しかし、何故マルスティア伯爵令嬢なのだろうか。ルカ皇太子の浮いた話は今まで聞いてこなかったが、いつの間にか御令嬢と恋仲になっていたとは。
一番近くで仕えておきながら、全く知らなかったとは情けないな。
そんなことを思いながら訓練場へと向かっていた時、急に執務室に呼ばれたかと思うとさっきの命令を受けた。
一体どういうことなんだ?
訳がわからないまま訓練場へと向かうと、マルスティア伯爵令嬢は先に着いていたようだった。
困惑した表情を浮かべ、不安そうに辺りを見渡している。
そりゃそうだ。
ここはか弱い御令嬢が来る場所ではない。
一生関わることすらない場所のはずだ。
「マルスティア伯爵令嬢様」
オレフィスは怖がらせないよう出来る限り優しい声で声を掛けた。
マルスティアは一瞬目を大きく見開いたかと思うと、ほぅっとした表情でオレフィスを見つめた。
慣れない眼差しに困惑しつつも、恐らく恐怖で混乱しているんだろうと思い直し、怪物を倒して欲しいと伝える。
マルスティアは困ったような表情で、それはできないと答えた。
それはそうだ。
御令嬢に怪物が倒せるはずがない。
…しかし、妙だな。
普通の御令嬢であれば、怪物の姿を一目見ただけでも泣き叫びながら逃げ出すと思っていたが…
目の前にいる、いかにもか弱そうな御令嬢は戸惑った表情をしながらも、全く怯えるそぶりすら見せない。
怖がっているのか?
それとも…
いや、まさかな。
他の騎士達も、訓練の時間が削れていくことにやや苛ついている様子だった。
騎士達も怪物達を倒す日々に疲れが溜まっているのだろう。
御令嬢に聞こえるような声でコソコソと嫌味を話す者もおり、横目で睨む。
そんな雰囲気も、御令嬢があっという間に吹き飛ばしてしまった。
「嘘、だろ…」
思わず声が出るほど、マルスティア伯爵令嬢はいとも簡単に怪物を倒してしまった。私も動けないほど、あっけなく。
他の騎士達を見ると、開いた口が塞がらないようだ。ポカンとしている。
目を見開いて、怪物とマルスティアを何度も交互に見る者もいた。
私も、その内の一人だった。
信じられない…
「え、えへ?」
何故かとぼけようとするマルスティアに、オレフィスはマルスティアの手を握った。
あぁ。
ルカ皇太子様は分かっていたのか。
彼女の、恐ろしいほどの力に。
***
「あの、ルカ皇太子様」
「なんだ?」
「毎回毎回、睨むのをやめてくれませんか」
「…私がいつお前を睨んだ?」
「今です」
「……マルスティアと随分仲が良さそうではないか」
これで何度目だろうか。
マルスティア伯爵令嬢は聖女となり、この私を横目でなお睨んでいるルカ皇太子様の婚約者になった。
近く結婚式も盛大に行われる予定だ。
そんな幸せいっぱいであろう中で、何故かルカ皇太子様は私に敵意を向けてくる。
騎士の訓練場での訓練を終えてマルスティアと今後の訓練について話しながら廊下を歩いていると、毎回この執務室へと呼び出されるのだ。
私とマルスティア伯爵令嬢…いや、聖女様と一緒にいるのが気に入らないらしい。
「心が狭いお方だ」
「何か言ったかオレフィス?」
「…なんでもありません」
まぁ、なんとなくだが理由は分かる。
聖女様は私の顔が好みらしい。
自慢ではないが、モテる方ではある。
パーティーに参加すれば護衛騎士でありながら御令嬢達から囲まれることもあった。
…なんて。
聖女様の専属メイドのノワールからこっそり教えてもらったのだ。
『聖女様はオレフィス様が〝推し〟だそうです』
『推し…?』
『はい。慕っている方という表現とはまた違ってですね。なんと言いますか、顔が好みなのだそうです。もちろん、聖女様がお慕いしていて、お好きなのは皇太子様ですよ。オレフィス様のお顔が好みなんですって。大事なことなので2回お伝えしましたわよ。そうそう、私もオレフィス様〝推し〟です』
ふふふっとノワールはまるで息子を見るかのように私を見て、楽しそうに笑う。
〝推し〟か。
よくわからないが、好みの顔だと言われて悪い気はしない。
ルカ皇太子様もそれに薄々気づいているようだった。
様々な御令嬢達から熱い視線を向けられ、男の私から見ても完璧な外見と権力、富を持つルカ皇太子に嫉妬される日が来るとは。
…これもまた、悪い気はしない。
オレフィスはニヤリと笑うと、訓練場へと戻るのだった。
「あぁ、そうだ」
「あの訓練場は騎士達しか入れないのはご存知でしょう。何を言い出すのかと思えば、一体どういう…」
「今日訓練用に捕獲した怪物を倒してもらう」
「は…?」
「話は以上だ。下がれ」
「は?いや、あの、意味が分からな…」
オレフィスが言い終わる前に、ルカは颯爽と執務室から出ていった。
オレフィスは訳がわからないまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
倒すための練習用に生きたまま捕獲した怪物を、御令嬢に倒してもらう?
…ルカ皇太子、忙しさでついに頭がおかしくなったのか?
今日からマルスティア伯爵令嬢がこの宮殿に来ると聞いた時は、騎士達含めこの宮殿の皆が混乱した。
ルカ皇太子の王妃候補として呼ばれたのだろうか。しかし、何故マルスティア伯爵令嬢なのだろうか。ルカ皇太子の浮いた話は今まで聞いてこなかったが、いつの間にか御令嬢と恋仲になっていたとは。
一番近くで仕えておきながら、全く知らなかったとは情けないな。
そんなことを思いながら訓練場へと向かっていた時、急に執務室に呼ばれたかと思うとさっきの命令を受けた。
一体どういうことなんだ?
訳がわからないまま訓練場へと向かうと、マルスティア伯爵令嬢は先に着いていたようだった。
困惑した表情を浮かべ、不安そうに辺りを見渡している。
そりゃそうだ。
ここはか弱い御令嬢が来る場所ではない。
一生関わることすらない場所のはずだ。
「マルスティア伯爵令嬢様」
オレフィスは怖がらせないよう出来る限り優しい声で声を掛けた。
マルスティアは一瞬目を大きく見開いたかと思うと、ほぅっとした表情でオレフィスを見つめた。
慣れない眼差しに困惑しつつも、恐らく恐怖で混乱しているんだろうと思い直し、怪物を倒して欲しいと伝える。
マルスティアは困ったような表情で、それはできないと答えた。
それはそうだ。
御令嬢に怪物が倒せるはずがない。
…しかし、妙だな。
普通の御令嬢であれば、怪物の姿を一目見ただけでも泣き叫びながら逃げ出すと思っていたが…
目の前にいる、いかにもか弱そうな御令嬢は戸惑った表情をしながらも、全く怯えるそぶりすら見せない。
怖がっているのか?
それとも…
いや、まさかな。
他の騎士達も、訓練の時間が削れていくことにやや苛ついている様子だった。
騎士達も怪物達を倒す日々に疲れが溜まっているのだろう。
御令嬢に聞こえるような声でコソコソと嫌味を話す者もおり、横目で睨む。
そんな雰囲気も、御令嬢があっという間に吹き飛ばしてしまった。
「嘘、だろ…」
思わず声が出るほど、マルスティア伯爵令嬢はいとも簡単に怪物を倒してしまった。私も動けないほど、あっけなく。
他の騎士達を見ると、開いた口が塞がらないようだ。ポカンとしている。
目を見開いて、怪物とマルスティアを何度も交互に見る者もいた。
私も、その内の一人だった。
信じられない…
「え、えへ?」
何故かとぼけようとするマルスティアに、オレフィスはマルスティアの手を握った。
あぁ。
ルカ皇太子様は分かっていたのか。
彼女の、恐ろしいほどの力に。
***
「あの、ルカ皇太子様」
「なんだ?」
「毎回毎回、睨むのをやめてくれませんか」
「…私がいつお前を睨んだ?」
「今です」
「……マルスティアと随分仲が良さそうではないか」
これで何度目だろうか。
マルスティア伯爵令嬢は聖女となり、この私を横目でなお睨んでいるルカ皇太子様の婚約者になった。
近く結婚式も盛大に行われる予定だ。
そんな幸せいっぱいであろう中で、何故かルカ皇太子様は私に敵意を向けてくる。
騎士の訓練場での訓練を終えてマルスティアと今後の訓練について話しながら廊下を歩いていると、毎回この執務室へと呼び出されるのだ。
私とマルスティア伯爵令嬢…いや、聖女様と一緒にいるのが気に入らないらしい。
「心が狭いお方だ」
「何か言ったかオレフィス?」
「…なんでもありません」
まぁ、なんとなくだが理由は分かる。
聖女様は私の顔が好みらしい。
自慢ではないが、モテる方ではある。
パーティーに参加すれば護衛騎士でありながら御令嬢達から囲まれることもあった。
…なんて。
聖女様の専属メイドのノワールからこっそり教えてもらったのだ。
『聖女様はオレフィス様が〝推し〟だそうです』
『推し…?』
『はい。慕っている方という表現とはまた違ってですね。なんと言いますか、顔が好みなのだそうです。もちろん、聖女様がお慕いしていて、お好きなのは皇太子様ですよ。オレフィス様のお顔が好みなんですって。大事なことなので2回お伝えしましたわよ。そうそう、私もオレフィス様〝推し〟です』
ふふふっとノワールはまるで息子を見るかのように私を見て、楽しそうに笑う。
〝推し〟か。
よくわからないが、好みの顔だと言われて悪い気はしない。
ルカ皇太子様もそれに薄々気づいているようだった。
様々な御令嬢達から熱い視線を向けられ、男の私から見ても完璧な外見と権力、富を持つルカ皇太子に嫉妬される日が来るとは。
…これもまた、悪い気はしない。
オレフィスはニヤリと笑うと、訓練場へと戻るのだった。
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