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番外編

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「クラスト、悪い事は言わない。あの令嬢との婚約は諦めたほうがいいんじゃないか?」


いつだっただろうか。毎晩徹夜しながら公務に励む僕に、兄が心配そうな表情でそう言った。


「...それはできないよ」


「相手は男爵令嬢だろう?それに、お前のことを愛してくれている相手なのか?」


「それは...」


僕にとって彼女はとても大切な愛しい存在だ。けれど彼女から見た僕はどうなのだろう。


会うたびに綺麗になるマリー。愛しいと思う度に、僕は彼女から愛されていないことを自覚する。


彼女が僕に興味を持つような仕草や言葉をかけてもらったことはない。今は認めてもらえている婚約だって、今回任されている公務次第では解消になる可能性もある。


そうなったら彼女は、別の誰かの元へ嫁ぐことになるのだろうか。


僕以外の男のものに、なるのだろうか。


...いやだ。
そんなことは許さない。


愛されなくてもいい。そばにいて欲しい。ただ、彼女が欲しい。


「それでも、いいんだ」


「...そうか」


兄はまだ納得していないような表情をしながらもそう呟く。


正直、辛い日もあった。マリーに会いたくてたまらない日もあった。


マリーと会えた瞬間、疲れが嘘のように吹き飛んでいく。


こうしてマリーと会える僕は、彼女を妻として迎えることができる僕は幸せだと思った。





「....様、クラスト様っ」


「...ん...?」


「大丈夫ですか?」


「マリー....?」


「すみません、うなされていたので...」


心配そうな表情で僕を覗き込むマリー。僕は思わず目の前にいるぎゅっとマリーを抱きしめた。


...夢、か。


今こうして抱きしめているマリーは、僕を好きだと言ってくれた妻だ。


「マリー....大好きだ」


マリーは一瞬ピクッと反応したがすぐにぎゅっと僕の背中に腕を回して言った。


「私も、大好きです」


幸せで、幸せで。
泣きそうになる。


あの頃の自分に伝えたい。マリーとこんなにも幸せな時間を過ごせる日が来るのだと。


抱きしめていた腕を緩めて、僕はマリーの頬に手をかける。


どちらともなく顔を近づけ目を閉じる。


いつも触れ合っているのに、どうしてこんなにも泣きそうなほど幸せなのだろうか。


夢を見ていたからかもしれない。今日は余計にそう思う。


「んっ...」


息をしようとする彼女の唇の隙間から舌を入れる。


そのまま、マリーをじっくりと味わった。少し前までは受け身だったのに、いつしか彼女の方からも求めてくれるようになった。


それが嬉しくて仕方ない。好かれているのだと、愛されているのだと実感する。


「はぁっ....マリー。これからもずっと、僕の妻でいてくれ...」


「はいっ...もちろんです」


涙を浮かべながらマリーは微笑む。僕はマリーを抱きしめて、そのまま安心して眠りについた。
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