あなたはずっと、私の光

ベル

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「怖かったぁ~」

「どうしたの?真っ青な顔して」

「マルクス様よ…確かに私がミスしたのは悪いけど、あんな言い方ってないわ」

お昼に差し掛かった頃、一人のメイドが作業部屋へと戻ってきた。
洗濯物を畳みながら、レイラはマルクスという単語に思わず耳を傾ける。

マルクス様。
ルカルド侯爵様の右腕、侯爵家の専属騎士でもある。

国が育てる騎士団の訓練生の中でも優秀者として表彰され、侯爵家から引き抜かれた人物だ。

実力者であり、剣術では彼の左に出るものはいないと言われる。とても優秀な方。

笑った姿は誰一人見た事がなく、冷たい瞳で淡々と話すマルクス様は、メイドたちの間では怖い人物として恐れられていた。

今日は特に、ルカルド侯爵様のパーティーというだけあって失敗は許されない。そのせいか、朝からピリピリした様子だった。


「マルクス様、相変わらず怖がられているわね」

「…そうみたいね」

私の隣で作業をしていたメイドのサシャが、他のメイドたちの様子を見ながらこそっ耳打ちしてくる。

「ねぇ、レイラ。私と今日の当番変わってくれない?」

そう言って、今日の当番表を渡してきた。
サシャは、パーティーの配膳係だったはず。どうして私に?

不思議そうな顔をしたからか、サシャはクスッと笑いながら続けた。


「私の担当、騎士たちの場所なの。噂のマルクス様もそこに含まれてる」

「…っ!」


それって…
ハッとしてサシャの方へと顔を向けると、ニヤニヤしながら手を差し出してきた。


「あなたの作る美味しいクッキーで取引してあげる」

「全くもうっ」

ふふっと顔を見合わせて笑った。

サシャは、同時期にこの屋敷に入ってきた同期であり、幼なじみであり、大切な友人だ。

レイラがマルクスに想いを寄せていることも知っていた。

今日は朝からパーティーの準備で憂鬱だったけど、頑張れそう。
レイラは嬉しくて思わず頬を綻ばせた。


***


夕方になり、屋敷では使用人たちがパーティーの準備で慌ただしく動いていた。

他に準備し忘れてることはないかな。

そんなことを考えながら、会場に運ぶ荷物を持ちながら廊下を歩いていた時、目の前にサッと現れた人影にぶつかってしまった。

その姿を見た瞬間、心臓が強く音を立てる。


「マルクス……様」


今日は特別なパーティーだからだろうか。
いつもは下ろしている前髪をサッと横に流し、綺麗にまとめられている。

騎士の正装姿のマルクスの姿を見て、レイラは思わずまじまじと見つめてしまった。


「…怪我はないか?」


レイラを少し見下ろしながら静かにマルクスが言う声で、ハッとしてレイラは後退りする。


「だ、大丈夫…です。ぶつかってしまって申し訳ありません」

「謝るな。俺が飛び出したからだろう」


淡々とした冷たい話し方。
けれど、優しさが滲み出ている。

本当に冷たい人が、先に心配の言葉が出てくるはずがない。


「マルクス様も、怪我は…」

「マルクス、探したぞ」


その時、背後から声がした。
マルクスはその相手に向かってサッと頭を下げる。


「申し訳ありません」

「相変わらず固いな。これからパーティーなんだから、お前も今日は楽しんでくれよ。…誰かと思えば、レイラじゃないか」


ルカルド侯爵様の正装の姿は初めて見る。他の御令嬢やメイド達が見たら、失神するんじゃないかと思うほど、美しかった。

神々しいと言うのは、この方のためにある言葉のようだ。

本当に、全てを持っているお方だわ。

私のような、下っ端のメイドの名前まで覚えてくださっている。
性格までもが美しいお方。

この方の奥様になる御令嬢は、どんなお方なのだろう。


「ルカルド侯爵様、本日はお誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。…レイラから私にプレゼントはあるかい?」

「えっ??」


思ってもいない言葉に、思わず声を発してルカルド侯爵様を見つめた。

プレゼント?
メイドである私が、ルカルド侯爵様に?

侯爵様と目が合うと、ニコッと優しくて微笑まれる。その笑顔に、これまで何人の女性が虜になったのだろうか。

優秀であることはもちろん、女性の扱い方もお上手だ。私のような使用人にさえ、そのような笑顔を見せてくださるのだ。


「私からルカルド侯爵様へプレゼントだなんて、恐れ多いことです。本日たくさんの贈り物が届いておりますので、後からお渡しを…」

「そっか…それは残念だ」


ルカルド侯爵様は微笑みながらもどこか寂しそうな顔をしている。
今日はおめでたい日だと言うのに、どうしてそんな顔をされるのかしら?


「…レイラ、後から話がある」

「話、ですか?」


一体なんだろう。
何か、粗相をしてしまったのだろうか。
不思議に思いながら、視線は気づくとマルクス様の方へと向いてしまう。

正装姿は久しぶりに見る。
なんて、格好いいんだろう。


「…マルクス、そろそろ行こうか」

「はい」

「レイラ、後から呼ぶから来てくれるかい?」

「分かりました」


頭を下げて、二人を見送る。
少しだけ、マルクス様の方へと視線を向けると、目が合ったような気がした。

その瞳は、気のせいか少しだけ寂しげだった。
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