2 / 7
2
しおりを挟む
「怖かったぁ~」
「どうしたの?真っ青な顔して」
「マルクス様よ…確かに私がミスしたのは悪いけど、あんな言い方ってないわ」
お昼に差し掛かった頃、一人のメイドが作業部屋へと戻ってきた。
洗濯物を畳みながら、レイラはマルクスという単語に思わず耳を傾ける。
マルクス様。
ルカルド侯爵様の右腕、侯爵家の専属騎士でもある。
国が育てる騎士団の訓練生の中でも優秀者として表彰され、侯爵家から引き抜かれた人物だ。
実力者であり、剣術では彼の左に出るものはいないと言われる。とても優秀な方。
笑った姿は誰一人見た事がなく、冷たい瞳で淡々と話すマルクス様は、メイドたちの間では怖い人物として恐れられていた。
今日は特に、ルカルド侯爵様のパーティーというだけあって失敗は許されない。そのせいか、朝からピリピリした様子だった。
「マルクス様、相変わらず怖がられているわね」
「…そうみたいね」
私の隣で作業をしていたメイドのサシャが、他のメイドたちの様子を見ながらこそっ耳打ちしてくる。
「ねぇ、レイラ。私と今日の当番変わってくれない?」
そう言って、今日の当番表を渡してきた。
サシャは、パーティーの配膳係だったはず。どうして私に?
不思議そうな顔をしたからか、サシャはクスッと笑いながら続けた。
「私の担当、騎士たちの場所なの。噂のマルクス様もそこに含まれてる」
「…っ!」
それって…
ハッとしてサシャの方へと顔を向けると、ニヤニヤしながら手を差し出してきた。
「あなたの作る美味しいクッキーで取引してあげる」
「全くもうっ」
ふふっと顔を見合わせて笑った。
サシャは、同時期にこの屋敷に入ってきた同期であり、幼なじみであり、大切な友人だ。
レイラがマルクスに想いを寄せていることも知っていた。
今日は朝からパーティーの準備で憂鬱だったけど、頑張れそう。
レイラは嬉しくて思わず頬を綻ばせた。
***
夕方になり、屋敷では使用人たちがパーティーの準備で慌ただしく動いていた。
他に準備し忘れてることはないかな。
そんなことを考えながら、会場に運ぶ荷物を持ちながら廊下を歩いていた時、目の前にサッと現れた人影にぶつかってしまった。
その姿を見た瞬間、心臓が強く音を立てる。
「マルクス……様」
今日は特別なパーティーだからだろうか。
いつもは下ろしている前髪をサッと横に流し、綺麗にまとめられている。
騎士の正装姿のマルクスの姿を見て、レイラは思わずまじまじと見つめてしまった。
「…怪我はないか?」
レイラを少し見下ろしながら静かにマルクスが言う声で、ハッとしてレイラは後退りする。
「だ、大丈夫…です。ぶつかってしまって申し訳ありません」
「謝るな。俺が飛び出したからだろう」
淡々とした冷たい話し方。
けれど、優しさが滲み出ている。
本当に冷たい人が、先に心配の言葉が出てくるはずがない。
「マルクス様も、怪我は…」
「マルクス、探したぞ」
その時、背後から声がした。
マルクスはその相手に向かってサッと頭を下げる。
「申し訳ありません」
「相変わらず固いな。これからパーティーなんだから、お前も今日は楽しんでくれよ。…誰かと思えば、レイラじゃないか」
ルカルド侯爵様の正装の姿は初めて見る。他の御令嬢やメイド達が見たら、失神するんじゃないかと思うほど、美しかった。
神々しいと言うのは、この方のためにある言葉のようだ。
本当に、全てを持っているお方だわ。
私のような、下っ端のメイドの名前まで覚えてくださっている。
性格までもが美しいお方。
この方の奥様になる御令嬢は、どんなお方なのだろう。
「ルカルド侯爵様、本日はお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。…レイラから私にプレゼントはあるかい?」
「えっ??」
思ってもいない言葉に、思わず声を発してルカルド侯爵様を見つめた。
プレゼント?
メイドである私が、ルカルド侯爵様に?
侯爵様と目が合うと、ニコッと優しくて微笑まれる。その笑顔に、これまで何人の女性が虜になったのだろうか。
優秀であることはもちろん、女性の扱い方もお上手だ。私のような使用人にさえ、そのような笑顔を見せてくださるのだ。
「私からルカルド侯爵様へプレゼントだなんて、恐れ多いことです。本日たくさんの贈り物が届いておりますので、後からお渡しを…」
「そっか…それは残念だ」
ルカルド侯爵様は微笑みながらもどこか寂しそうな顔をしている。
今日はおめでたい日だと言うのに、どうしてそんな顔をされるのかしら?
「…レイラ、後から話がある」
「話、ですか?」
一体なんだろう。
何か、粗相をしてしまったのだろうか。
不思議に思いながら、視線は気づくとマルクス様の方へと向いてしまう。
正装姿は久しぶりに見る。
なんて、格好いいんだろう。
「…マルクス、そろそろ行こうか」
「はい」
「レイラ、後から呼ぶから来てくれるかい?」
「分かりました」
頭を下げて、二人を見送る。
少しだけ、マルクス様の方へと視線を向けると、目が合ったような気がした。
その瞳は、気のせいか少しだけ寂しげだった。
「どうしたの?真っ青な顔して」
「マルクス様よ…確かに私がミスしたのは悪いけど、あんな言い方ってないわ」
お昼に差し掛かった頃、一人のメイドが作業部屋へと戻ってきた。
洗濯物を畳みながら、レイラはマルクスという単語に思わず耳を傾ける。
マルクス様。
ルカルド侯爵様の右腕、侯爵家の専属騎士でもある。
国が育てる騎士団の訓練生の中でも優秀者として表彰され、侯爵家から引き抜かれた人物だ。
実力者であり、剣術では彼の左に出るものはいないと言われる。とても優秀な方。
笑った姿は誰一人見た事がなく、冷たい瞳で淡々と話すマルクス様は、メイドたちの間では怖い人物として恐れられていた。
今日は特に、ルカルド侯爵様のパーティーというだけあって失敗は許されない。そのせいか、朝からピリピリした様子だった。
「マルクス様、相変わらず怖がられているわね」
「…そうみたいね」
私の隣で作業をしていたメイドのサシャが、他のメイドたちの様子を見ながらこそっ耳打ちしてくる。
「ねぇ、レイラ。私と今日の当番変わってくれない?」
そう言って、今日の当番表を渡してきた。
サシャは、パーティーの配膳係だったはず。どうして私に?
不思議そうな顔をしたからか、サシャはクスッと笑いながら続けた。
「私の担当、騎士たちの場所なの。噂のマルクス様もそこに含まれてる」
「…っ!」
それって…
ハッとしてサシャの方へと顔を向けると、ニヤニヤしながら手を差し出してきた。
「あなたの作る美味しいクッキーで取引してあげる」
「全くもうっ」
ふふっと顔を見合わせて笑った。
サシャは、同時期にこの屋敷に入ってきた同期であり、幼なじみであり、大切な友人だ。
レイラがマルクスに想いを寄せていることも知っていた。
今日は朝からパーティーの準備で憂鬱だったけど、頑張れそう。
レイラは嬉しくて思わず頬を綻ばせた。
***
夕方になり、屋敷では使用人たちがパーティーの準備で慌ただしく動いていた。
他に準備し忘れてることはないかな。
そんなことを考えながら、会場に運ぶ荷物を持ちながら廊下を歩いていた時、目の前にサッと現れた人影にぶつかってしまった。
その姿を見た瞬間、心臓が強く音を立てる。
「マルクス……様」
今日は特別なパーティーだからだろうか。
いつもは下ろしている前髪をサッと横に流し、綺麗にまとめられている。
騎士の正装姿のマルクスの姿を見て、レイラは思わずまじまじと見つめてしまった。
「…怪我はないか?」
レイラを少し見下ろしながら静かにマルクスが言う声で、ハッとしてレイラは後退りする。
「だ、大丈夫…です。ぶつかってしまって申し訳ありません」
「謝るな。俺が飛び出したからだろう」
淡々とした冷たい話し方。
けれど、優しさが滲み出ている。
本当に冷たい人が、先に心配の言葉が出てくるはずがない。
「マルクス様も、怪我は…」
「マルクス、探したぞ」
その時、背後から声がした。
マルクスはその相手に向かってサッと頭を下げる。
「申し訳ありません」
「相変わらず固いな。これからパーティーなんだから、お前も今日は楽しんでくれよ。…誰かと思えば、レイラじゃないか」
ルカルド侯爵様の正装の姿は初めて見る。他の御令嬢やメイド達が見たら、失神するんじゃないかと思うほど、美しかった。
神々しいと言うのは、この方のためにある言葉のようだ。
本当に、全てを持っているお方だわ。
私のような、下っ端のメイドの名前まで覚えてくださっている。
性格までもが美しいお方。
この方の奥様になる御令嬢は、どんなお方なのだろう。
「ルカルド侯爵様、本日はお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。…レイラから私にプレゼントはあるかい?」
「えっ??」
思ってもいない言葉に、思わず声を発してルカルド侯爵様を見つめた。
プレゼント?
メイドである私が、ルカルド侯爵様に?
侯爵様と目が合うと、ニコッと優しくて微笑まれる。その笑顔に、これまで何人の女性が虜になったのだろうか。
優秀であることはもちろん、女性の扱い方もお上手だ。私のような使用人にさえ、そのような笑顔を見せてくださるのだ。
「私からルカルド侯爵様へプレゼントだなんて、恐れ多いことです。本日たくさんの贈り物が届いておりますので、後からお渡しを…」
「そっか…それは残念だ」
ルカルド侯爵様は微笑みながらもどこか寂しそうな顔をしている。
今日はおめでたい日だと言うのに、どうしてそんな顔をされるのかしら?
「…レイラ、後から話がある」
「話、ですか?」
一体なんだろう。
何か、粗相をしてしまったのだろうか。
不思議に思いながら、視線は気づくとマルクス様の方へと向いてしまう。
正装姿は久しぶりに見る。
なんて、格好いいんだろう。
「…マルクス、そろそろ行こうか」
「はい」
「レイラ、後から呼ぶから来てくれるかい?」
「分かりました」
頭を下げて、二人を見送る。
少しだけ、マルクス様の方へと視線を向けると、目が合ったような気がした。
その瞳は、気のせいか少しだけ寂しげだった。
22
あなたにおすすめの小説
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
声を聞かせて
はるきりょう
恋愛
動物の声が聞こえる彼女と冷たい第二王子の物語。完成しました。
「……反対されない、というのは、寂しいことだと思いますの。だから…私が反対してさしあげます」
サーシャは最上級の笑顔を浮かべた。そして、思い切り息を吸い込む。
「何でも思い通りいくと思うなよ、くそ王子!!」
「サ、サーシャ様!?」
なりゆきを見守っていたハリオが慌てたようにサーシャの名を呼んだ。一国の王子への暴言は不敬罪で捕まりかねない。けれど、言わずにはいられなかった。
そんなサーシャの言動にユリウスは一瞬目を丸くし、しかしすぐに楽しそうに笑った。
「お前面白いな。本当に気に入った」
小説家になろうサイト様にも掲載してします。
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
初夜った後で「申し訳ないが愛せない」だなんてそんな話があるかいな。
ぱっつんぱつお
恋愛
辺境の漁師町で育った伯爵令嬢。
大海原と同じく性格荒めのエマは誰もが羨む(らしい)次期侯爵であるジョセフと結婚した。
だが彼には婚約する前から恋人が居て……?
孤独なもふもふ姫、溺愛される。
遊虎りん
恋愛
☆☆7月26日完結しました!
ここは、人間と半獣が住んでいる星。いくつかある城の1つの半獣の王と王妃の間に生まれた姫は、半獣ではない。顔が『人』ではなく『獣』の顔をした獣人の姿である。半獣の王は姫を城から離れた塔に隠した。孤独な姫ははたして、幸せになれるのだろうか。。。
愛は契約範囲外〈完結〉
伊沙羽 璃衣
恋愛
「カヴァリエリ令嬢! 私はここに、そなたとの婚約を破棄することを宣言する!」
王太子の婚約破棄宣言を笑顔で見つめる令嬢、フェデリカ。実は彼女はある目的のために、この騒動を企んだのであった。目論見は成功したことだし、さっさと帰って論文を読もう、とるんるん気分だったフェデリカだが、ひょんなことから次期王と婚約することになってしまい!?
「婚約破棄騒動を仕向けたのは君だね?」
しかも次期王はフェデリカの企みを知っており、その上でとんでもない計画を持ちかけてくる。
愛のない契約から始まった偽りの夫婦生活、果たしてフェデリカは無事に計画を遂行して帰ることができるのか!?
※本編43話執筆済み。毎日投稿予定。アルファポリスでも投稿中。旧題 愛は契約に含まれません!
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる