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9.森の家にて
しおりを挟む『しばらく森の家に行ってな』
ウラ婆にそう言われて、かれこれ1週間になる。
あのお貴族様がやってきた日の翌日から森の別荘へ来てるんだけど、あの人また来ると行けないからって念のために隠れてんの。
ここは私がこの世界に来て最初に連れてきてもらった場所なんだ。
ログハウスっていうのかな、丸太で組みたてられた二階建ての別荘で、魔女の森の中に建ってるの。
普通の人はこの森に立ち入る事も出来ないんだって。でもウラ婆の店とはゲートが繋げてあるから、私とウラ婆は一瞬で行き来できるんだよ。魔法ってすごいよねー。
私はあの日、バレー部の部室から出たらこの森にいたんだ。
持ってきたのは部活日誌と首に掛けてたタオルだけ。あ、あと、このジャージ上下もね。
「ふんふーん♪♪」
ジャージに身を包み、あの頃流行ってた歌を口ずさみながら、天板を取り出す。
部屋中に満ちる甘い香り。
今日は退屈しのぎにクッキーを作ってみましたー。
この世界へきてもう3年目だもの。
帰りたくてしょうがない時期はとっくに過ぎて、家族のことを思うと涙が出る日はあるけど、もう諦めはついてるの。
焼き上がったクッキーをカゴに取り、庭へ出てテーブルにお茶を用意した。
ウラ婆、まだかなぁ?
なんて考えてるとカサカサって音がして、庭の入り口にはなぜか鍛治職人のコンラートが立ってました。
「え?」
「おわっ⁈」
私の声とコンラートの声が重なる。
「えっ、ちょっ、なんでここにいるの⁇」
これまでのこと、そしてこないだのこと。コンラートに対するイメージは最悪で・・・とっさに背を向けて走り去ろうとしたんだけど、
「待ってくれ‼︎」
って呼び止められて、無視すれば良かったのに思わず立ち止まってしまった。
カサッて草を踏む音がしたから、
「近づかないで」
とだけ声をかけたら、
「・・・わかった」
って、コンラートはいつもと違う落ち着いた声で答えてくれたからちょっとだけ安心できた。
「先に言っとくけど、ここに来たのは偶然だ。俺もこの森にはよく入るんだ、素材探しで・・・」
へぇ、普通の人間は入れないんじゃないの?って疑問に思ってると、
「俺は混ざってるから、エルフの血」
って付け足して言った。
「そうなんだ・・・」
よくわかんないけど、別にコンラートにさほど興味はない。
エルフの血が入ってると、この森に入れるのかな。
エルフって妖精?だから、火の精霊ちゃんを肩に乗せてるのかな?
って少し考えたくらいで、会話を続ける気はなかった。
「・・・じゃあ」
って、もう一度この場を離れようとしたらーー
「悪かった‼︎‼︎‼︎」
コンラートの大声に、森の鳥たちが何十羽か飛び立っていった。
それくらいのデカさだった。
「今までずっと、お前の気を引きたくて酷いことばかり言った‼︎!!」
なになに??
突然、何??
思わず振り返ってコンラートの顔を見る。彼との距離は10メートルくらいかな、ちゃんと顔は見えてる。すごい真剣な顔してるし。
「コジマは・・・そりゃその姿はめっ、め、めちゃくちゃかっ可愛いけどっ、前のサル顔の時だってお前はすっごく輝いてた‼︎‼︎」
「ちょっ」
なんなの?
突然、一体何の告白ですか⁇⁉︎
「俺、エルフが混じってるからわかるんだ‼︎ コジマの魂の色が見えてんの‼︎ お前は、ずっと、いつも、頑張ってた‼︎‼︎」
「・・・」
「2年前、初めて見た時、悲しみで真っ青に染まってたお前が、いつからか俺の軽口に笑って仕方なさそうに返してくれて・・・・・俺、なんかっ、それがすごい嬉しくて、だんだん調子ン乗り過ぎたっ‼︎」
そんな、大声で叫ばなくても・・・
「お前が、マッサージの店始めて、本当はすぐ行きたくて、でも俺、バカだからあんな・・・ンで・・・行けなくて・・・」
急に小声になったし・・・
「最近のお前は、お前の魂の色は‥‥」
そこで黙って、俯いてしまったコンラート。
何?焦らしてんの?
どんな色なのか教えてよ、気になるじゃない。
「何色なの?」
私が声を掛けると、俯いていた顔を嬉しそうに上げて・・・何それ、尻尾見えそう・・・
「ピンクと、オレンジと・・・なんか、混ざってて明るいやつ!」
って、なんだそれ。
「プハッ」
「わ、笑うなよ!本当に綺麗なんだぞ、今だって‼︎」
なんか、必死になって説明してるコンラートが憎めなくて。
なんか、少しだけど可愛いって思ってしまった。
大声で叫ぶとか、ちょっと部活っぽかったし?
久しぶりに、なんかそういう若い男子のアホな感じに触れて、私も気が抜けたのかな。
気づいたら、声かけちゃってたよねー
「ねぇ、お菓子食べてく?」
って。
そしたら、「いいのか?」って言ってるそばからテーブルまで駆け寄って来て、ちょっと近い!って後悔し始めてたところに、
「おやまぁ、いつの間にそんな関係に?」
なんて、言われちゃって・・・
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どうせウラ婆、今、イヤらしく笑ってんでしょ?
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