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13.クルト、頑張る
しおりを挟む今日は大変な目に遭ったよね。
コンラートは大勢の前であんなこと言っちゃうし・・・
『・・・だから、コジマの素顔、楽しみにしてな!!』
なんでわざわざハードル上げるかな・・・
しかもウラ婆に確認したら、私が自分から魔法の存在を口にしたわけじゃないから問題ないとか言うしさ。
実際、「この魔法ももうすぐ完全に解けるだろうさ」とか言ってたし。
完全に解けたら、みんなに私の顔が見えるようになるんだってー。
そもそもこのニホンザル顔だってさ、適当に決まったんだよ?
あの日、私がこの世界に来てまだ間もない時にウラ婆がさ、
「あんたの国でちょっと怖いかなぁってくらいの生き物を想像してみな?」
とかいきなり言うから、思わずニホンザルを思い浮かべたんだけどね。
実は昔、家族で行った山歩きで猿にポテチを袋ごと奪われたことがあってさー。
あれ、結構なトラウマなんだよね。
で、その時思い浮かべたニホンザルのイメージで、ウラ婆が私に魔法をかけたらしいの。
だから他の人には私の顔がニホンザルに見えてるってわけ。
ーーギイィ
扉が開いて、クルトが顔を覗かせた。
「あ、いらっしゃい」
「はぁ・・・」
重いため息と共に現れたクルト。
いつも通りと言えばそうなんだけど、
「目の下のクマ、ひどいね」
昼間、マーケットで会った時にも思ったけど、クルトにはしばらくマッサージしてあげられなかったもんね・・・
「・・・色々と済まなかった」
「なんでクルトが謝るの?」
「いや、俺は王都の騎士だから・・・」
慣れた動作で服を脱ぎながら、申し訳なさそうに頭を下げたクルト。
「クルトは何も悪くないよ。ただカッコいいだけ。モテる男は色々大変だよね」
私が戯けて言うと、今度は少し照れたように目を逸らしてしまった。
なぁに、急に意識されたら私も照れるじゃないの。
「ほら、ここに寝転んで」
治療台をポンポンと叩いて、早く横になるよう促した。
洗浄の魔法が施された魔法陣の上に立ったあと、治療台の上にうつ伏せたクルト。
「今日もラベンダーでいい?」
いつもならすぐ眠りに落ちるから、これを聞くこと自体久しぶりなんだけど、
「いや、今日は出来たらスッキリした香りがいい」
ってなことを言ったので・・・起きてたいのかな?と思ってペパーミントのオイルを用意した。
いつもなら、とっくに寝息が聞こえてるんだけど、今日のクルトはやっぱり違うみたい。
背中一面、いや全身に疲労を示す灰色のモヤモヤを分厚く広げているのに寝ないのね。
「だいぶお疲れだね」
「ああ、正直辛かった・・・」
ハハ、騎士なのに弱音吐いちゃってるよ。
「よく眠れないの?」
私がなんの気無しに聞いたら、
「ああ、コジマが・・・」
って、言ったあと口をつぐんじゃったし。
私はいつものようにまずは広い背中を中心から外側へ、下から上へと撫で上げながら灰色のモヤモヤを腕の方へ、腕の方へと追いやっていく。
「んんッ」
おおう・・・
起きてるクルトから漏れ出たイケボ。
なんだろ、ちょっといやらしいことしてるみたい・・・
途端に、あの夜のお貴族様を思い出してしまった私は、首をぶんぶん横に振って気を散らした。
「どうした?」
「んーん、なんでもないよ」
まずは上半身の疲れを両腕に満遍なく移動させていると、
「俺、コジマのことが好きだ」
って、なんだって?
明日の天気を話すようにサラリと出てきたから・・・
なんてことないように話したってことは、人としてって感じだよね?
今日のこともあって励ましてくれてる?
「・・・あ、うん。私もクルトのこと好きだよ」
「いや、違うんだコジマ。そんな、人として、とかじゃなくだな・・・」
え、じゃあどう言う・・・
そこで治療台に寝転んでたクルトがガバッと上体を起こした。
しーんと、静まり返った室内にペパーミントの爽やかな香りが満ちてる。
「お、俺は剣の腕を磨くくらいしか取り柄のない、気の利かない男だ。でもコジマの事は最初からなんか、力になってやりたいってずっと思ってて。そんなこと、全部俺の勝手な押し付けだって分かってるんだが、こないだコジマの素顔を見てからはその気持ちが抑えきれなくて・・・」
え、どうしよう。
翡翠のような髪をして、アクアマリンのような澄んだ水色の瞳をしてるこの、みんなの憧れ、青の騎士様が・・・私を?
どうしたのよ、急に・・・
今までずっと寝てたじゃないの。
来たら早々に寝息を立てて、いつも背中向けてたあなたが、なんで今は起きてて私に好きとか言うのよ・・・
「コジマ、こないだ王弟殿下になんかされたのか?」
へ?
王弟殿下って・・・?
もしかして・・・
「シトリンの瞳の・・・」
「あぁ!」
思わず声が出てしまったらクルトもビックリしたみたい。
「やっぱりなんかされたのか?」
「いやいや、まさか!」
「なんか、やけに気に入られてた様子だったが?」
え、そうなの?
ウラ婆は何も言ってくれないから知らないんだよね。
っていうか、あれを思い出させないで!
頭をもう一度ブンブン横に振って、なんとか記憶からあのそそり立つアレを追い出そうと頑張るんだけど、
「コジマ?」
って、覗き込むクルト自身、パンツ1枚なんだけど!!
「うわぁ、大丈夫!変なことなんてされてないから、ってか、したほうなの!」
「えっ!?」
「っっ!!」
固まるクルトに、言葉を失う私。
目に入ってきたクルトの股間はお貴族様と違って盛り上がっていなくて、私はとにかくそれにすごく安心してしまった。
っていうかあんた、どこ見てんのよ!
ちなみにヴィルだったら、いつもちょっと盛り上がってる・・・
あ、そういえば今日のお昼にコンラートが持っていた剣はヴィルのじゃないかな?って、今こんな時に思い出したりして・・・
「もう、クルトってばあまりほじくり返さないで!あれは治療だから仕方なかったの!そうでなきゃ、あんな・・・」
「あんな?」
興味津々と言った顔で覗き込むのやめて!
イケメンのドアップ、ヤバいから!
「っだー、もう!なんでもないの‼︎」
私はクルトの両肩をガシッと掴んで、なんとかうつ伏せの姿勢に誘導した。
渋々ながら、もう一度寝転んでくれたクルト。
「クルトはさ、いつも以上に疲れてんだから」
私はマッサージを再開して、疲れた上半身をまずは入念に、徹底的に、しつこいくらい撫でまくった。
「ふぅ、やっと半分か・・・」
気づけば、クルトはようやくいつものように健やかな寝息を立てていた。
好きだ、なんて生まれて初めて言われた。
こないだ、コンラートも私に体当たりでなんか叫んでくれてたけど。
好きとは言われなかったから。
こんなに綺麗な人が、私なんかを。
なんか、よくわからないけど、なんか、ちょっとホワホワする・・・
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