アマビエ・ライク・ア・サムシング

宮塚恵一

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第2話 ドアストッパー

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 一年の間、色々とあった。あたしは会社で昇進して、給料が倍近くになったし、その余裕でできた時間とお金で、恋人と一緒に海外旅行に行ったりもした。
 お金ができたら買おうと思っていた株券の価格も高騰して、その分更にお金ができたりして、順風満帆であったせいもあり、あたしのもとに不幸が起こる、なんて白昼夢かもしれない予言のことなんてすっかり記憶の彼方で、気付けばまた梅雨、つまり五月雨の頃になった。

 だからこんなことは予想していなかったし、予想することもできなかった。

 いつものように仕事に疲れ、家に帰った時のことである。
 ちょうどプロジェクトがひと段落して、久々に早く帰ることができ、ちょっと奮発して自宅でビデオチャットでも友達と開きながら酒盛りするか、なんて考えてコンビニに寄って何本か酒とツマミを買ってから、帰路についた
 そしてコンビニ袋を引っ提げながら、家に到着し、鍵を開けて中に入ろうとして、あたしはあることに気づいた。

 鍵がかかっていない。

 まさか、急いでいたからって鍵をかけるのも忘れて仕事に出たか? 不用心なことをしたものだ、と軽く考えたあたしは普通に家に入り、リビングに行くと、バッタリと出くわした。

 目出し帽を被った人間が、リビングにある箪笥を漁っていた。

「え」

 思わず声を出してしまったあたしに、目出し帽の人物もこちらに気づいた。
 あたしは咄嗟にスマホを出して、警察なり誰かに連絡を入れようとしたが、あたしの家に侵入した目出し帽の不審人物は、あたしからスマホを奪い、床に投げる。

 そしてあたしの腕を掴み、乱暴に引っ張る。
 ヤバい、完全に強盗だ。
 そこまでは理解できたが、強盗の腕の力は強く、振り解けない。助けを呼ぼうにもスマホは奪われたし、固定電話も別の部屋だ。

「しばらくここでじっとしてろや」

 目出し帽で顔を隠した男が、あたしを乱暴にウォークインクローゼットの中に押し込んだ。

 ヤバい。このクローゼットは外側に、南京錠で鍵をかけられるようにしている。多分、この強盗も、家漁りをしていてそれを知ったのだ。このままではクローゼットに閉じ込められてしまう。
 あたしは抵抗しようと腕は動かせずとも、と脚をバタつかせたが、壁をガツンと蹴っただけで、目出し帽の強盗に何をすることもできなかった。

「まさか帰ってくるとは」

 強盗がボソリとつぶやいた。やはり、あたしの留守を見計らって家に侵入したようだ。
 こんなことなら、昇進して給料があがってすぐに、ちゃんと防犯会社と契約するなり、防犯設備の整った場所に引っ越すんだった、なんて悔いて唇を噛むあたしを、強盗はクローゼットの奥に突き飛ばした。

 もう諦めて涙が流れそうになった瞬間だ。

「クソ! 閉まらねえ!?」

 強盗が混乱した声で悪態をついた。あたしは後ろを振り向く。

 目出し帽の強盗が、クローゼットの扉を閉めようと奮闘していた。だが、扉は強盗が動かそうとしてもビクともしない。

「どういうこと?」

 そこであたしの目に、あるものが飛び込んできて、ハッと息を呑んだ。

 マーライオンの置物が、扉に引っかかっている。

 恋人と一緒に、海外旅行でシンガポールに行った時にお土産で買ってきたものだ。買ってきたは良いものの、置き場所に困り、クローゼットの天井近くの棚にしまっていたはず。

 あたしがさっき壁を蹴った時か、それとも強盗が乱暴にあたしを突き飛ばした時の衝撃か、どちらかわからないけれど、棚にしまっていたマーライオンの置物が、床に落ち、ドアストッパーみたいに扉に引っかかったのだ。

 強盗は焦っており、それに気づいていない。

 あたしは強盗のスキを見て、クローゼットから脱出する。

「あ、待て!」

 さっき強盗に奪われて、床に落ちたスマホを急いで拾った。秒で緊急通報機能を起動して、警察に連絡を取る!

「もしもし! 警察ですか! 今家に強盗が!」
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