アマビエ・ライク・ア・サムシング

宮塚恵一

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第3話 マーライオンって

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 あたしの家に来た強盗は、近頃このあたりの住宅街を荒らしていた、空き巣の常習犯だったらしい。留守の時間が長い家を狙って忍び込み、金品を漁って去っていくケチな泥棒だそうだが、あの日はたまたまあたしが早く帰ってきたから、あちらさんの方も驚いていたことが、あたしが警察に連絡を入れるスキを作る一因となったらしい。

 だが、それよりも今回のMVPはマーライオンである。

 あのマーライオンの置物が、扉に引っかからなければ、あたしはきっと、もっと危なかった。

「あ」

 警察からの事件の聴取も終え、リビングでふぅと一息ついたところで、あたしはあることを思い出した。

 SNSを開き、シンガポールに旅行に行った時の日付の投稿を探す。
 シンガポールではもっぱら海やプールの写真ばかり撮っているが、その中にある、白い目立つアレを探す。

「あった」

 旅行ではしゃいでかなりの数の写真を撮ったので、なかなか過去の投稿の中から、目当ての写真を後から探すのは難儀だったが、特徴的な写真だったので簡単に見つかった。

 そこには、あたしが投稿したマーライオンの写真がある。
 文言はこうだ。

『人生初生マーライオン。マーライオンってアマビエに似てんね』

 そうだ。この一年間、アマビエのことはほとんど忘れていたが、シンガポールに行って、初めて生の本物のマーライオンを見た時にだけ、少しアマビエのことを思い出したのだ。

 世界三大ガッカリ、なんて呼ばれている通り、あれほど有名なマーライオンを見ても特になんの感慨も浮かばず、まあこんなもんか、と思うくらいだったのだが、そんな残念なマーライオンを見ているうちに、なんだかあの時に見たアマビエみたいだなと思い、思わず写真を撮って、SNSに投稿した。

 友達、フォロワーからの「イイね」を結構もらったので、閲覧数は数百ほどになっている。

 まさか、これも「人々にアマビエの姿を見せる」のアクションに換算されたのだろうか。
 だとするならだいぶガバガバな基準だ。アマビエの言う通りにすれば、予言を回避できる説が正しかったのかどうかもこれでは微妙なところである。

 真相はアマビエに聞いてみるしかないが、勿論というか、あれからアマビエがあたしの前に現れることはなかった。

 マーライオンの置物は、そのまま残しておきたいとも思ったが、強盗が無理に扉に詰まっているマーライオンに負荷をかけすぎて、ボロボロに割れてしまったので仕方なく、ありったけの感謝を伝えてから捨てた。

 ところでこの事件の後、あたしを救ってくれたマーライオンの像を買ったシンガポールに一緒に行った恋人には、つい先日、あたしの方からプロポーズをした。

 結婚式はまた五月雨の頃。
 あの時見たアマビエに似た、ピンクのウエディングドレスを着る。
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