芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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出会い

15話

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 蓮花の心は晴れ晴れした天気とは真逆に下り坂だった。いつもと違いしっかりした貴族の礼服に身を包み出かける準備をしていた。今日は小鈴の邸へお祝いを持っていく日だった。できるだけ素早く帰宅できるように頭の中で流れを考えるが、小鈴と話すとその通りに行くことはほぼ不可能だ。ため息が出そうなのを抑えて準備を進める。
 そんな蓮花の気持ちを知らない玲玲はあまり見ない姉の着飾った姿に目を輝かせていた。

「姉様きれい! わたしもこんな服着てみたいなあ~」
「ふふ。玲玲にはまだ少し早いけどもう少しお姉さんになったら一緒にあなたの服を見に行きましょうか」
「ほんと? 約束だよ!」
「ええ、約束ね。――じゃあ蘭翠、お留守番お願いね」

 ぴょんぴょん飛び跳ねる妹の頭を撫でながら、蘭翠の方を向く。蘭翠は玲玲の体を自分の方に寄せながら頷いた。

「任せて。小鈴様の事だからきっと長引くだろうし、頃合いを見て使いをお願いするわ」
「今から憂鬱だわ……。悪いけどお願いね」

 お祝いを包んだ物を確認した蓮花は、普段は使わない馬車に乗り小鈴の邸へ向かった。



 


「柳家から参りました。蓮花と申します」
「柳蓮花様ですね、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 昔から何度かお邪魔したことはあるので、侍女も顔見知りの人だったのですんなりと通される。邸に入ると柳家とは比べ物にならないほどの装飾品がそこかしこに飾られていた。蓮花はこの家を歩く度に躓いて落としてしまったらどうしようかと気が気でなかった。

「お嬢様。柳蓮花様がいらっしゃいました」
「お通しして」

 しばらく進み一層豪華な扉の前で立ち止まる。奥からは高く可愛らしい声が聞こえた。案内を終えた侍女は扉を開けて蓮花を通すと去っていった。

「お邪魔いたします」
「蓮花! よく来てくれたわ。わざわざありがとう」
「この度はご婚約おめでとうございます。柳家からささやかではありますがこちらをお祝いの品としてお持ちいたしました。」

 どれだけ気が合わない人だとしても、礼を尽くすべきところはちゃんとする。昔から両親から教えこまれていた蓮花は柳家の代表として恥ずかしくないようにお祝いの言葉を小鈴に伝えた。

「そんな、にお祝いの品なんて用意しなくても良かったのに! 蓮花が来てくれただけで嬉しいのよ? でもせっかく持ってきて頂いたのだから有難く頂戴いたします」
「別に無理はしていないから心配しなくて大丈夫よ。幼なじみのあなたの慶事だもの。これくらい当たり前よ」

 わざと強調して言ったように聞こえた言葉に顔が引き攣らないように返答する。最近会っていなかったから耐性が下がってしまったのか、蓮花は既に帰りたい気持ちでいっぱいだった。


 
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