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出会い
35話
しおりを挟む「お二人はどちらが先に好きになったんですか?」
「こいつです」
「こいつです」
綉礼が二人に質問すると二人は声を揃えてお互いを指さす。相手の言葉を聞いた二人はそっちだろ、いやあんたでしょ、と言い合いを始めた。
「二人とも絶対自分から先って認めたくないみたいで。私からするとどっちもどっちだと思うんですけどね」
「喧嘩するほど仲がいいって言いますもんね。微笑ましいです」
「ですよね。――はいはい、言い合いはそこまでにして! じゃあ初めて異性として意識したのはいつ? それなら喧嘩にならないでしょ」
放っておくといつまでも口喧嘩が止まらないので角度を変えて切り込む。順番で揉めそうだったので、じゃんけんで負けた明苑から先に教える事にした。
「私はあれかな、私達が十歳くらいの時に店番してた時なんだけど――」
その日、塩などの調味料の販売を行っている明苑の店では両親が二人とも配達の仕事が入ってしまった。両親は悩んだが少しの間、明苑に店番を頼むことにした。
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しかし、その時に限って運悪く厄介な客が訪れてしまう。
当時羽州では、塩に混ざり物をしている粗悪品が出回っているという問題が起こっていた。
泗家では【品質はできる限り落とさない】という信念を第一に掲げている。卸された商品が粗悪品でないか、必ず二重、三重で確認するようにしていたし、明苑もそれをきちんと理解していた。
しかし、現れた強面の客は店頭に置いてあった塩が混ざりものだと大声で叫び始めたのだ。最初は落ち着いて、何度も確認しているので混ざりものではないと説明をしていた明苑だが、それでも何度も大声でまくし立て続ける男。
そんな男を前に、弱冠十歳の明苑の絞り出した勇気は呆気なく消えてしまう。怖くて怖くて、誰かに助けて欲しくて。目には涙が溜まっていく。でもこんなやつに泣かされるなんて悔しい。泣きたくない。そう思えば思うほど目がどんどん熱くなっていった。
「おい! お前、嘘つくんじゃねえ!」
男の声も届かなくなるくらい耳に蓋をしようとしていた時。――はっきりと聞き慣れた声が届いた。
下げていた頭を上げると、やはりそこには深欧が立っていた。
「ああ? なんだ、テメエ! 俺が間違ってるって言いてえのか!」
「そうだよ、大間違いにも程がある! どこに目つけてんだ!」
売り言葉に買い言葉で顔を真っ赤にした男が深欧の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「深欧!」
「俺はっ狐の獣人だ、人の何倍、も鼻が利くんだっ」
「だからなんだってんだよ!」
苦しそうに喘ぎながら、それでも口を止めない深欧。明苑は今にも殴りかかりそうな男の剣幕に居ても立ってもいられなくなり男にしがみつく。
「深欧を離して!」
「うざってえなあ……離せ!」
しがみついていた足を大きく蹴り出されて明苑は思わず尻もちを着いた。
「明苑!! ――もう許さねえ!」
「痛ぇ!」
深欧は男の手に思いきり噛みつく。あまりの痛さに男が手を離した隙に明苑を背に庇う。
「粗悪品の混ざってる塩はなあ普通のと違って匂いも変な匂いがするんだ。ここの店の塩は一回もそんな匂いはしたことが無いんだよ!」
周りの人達も騒ぎに気づき始めたのか、なんだなんだと集まって来た。男もマズいと思ったのか、慌てて店から逃げようとする。
「おい、お前。うちの娘と深欧に何してんだ? 覚悟は出来てんだろうなあ」
その男の肩を背後からがしっと掴んだのは明苑の父だった。
「お父さん!」
「おじさん!」
「悪かったな、二人とも。怖かっただろう……さあ、お母さんと一緒に中に入りな」
気づけば母も帰ってきており、二人をぎゅっと抱きしめてからそっと背中を押して中に入るよう促した。
家に入ると母は手当の薬を取りに席を外した。明苑は深欧の首元が赤くなっているのに気付き慌てる。
「痛い、よね」
「あ? こんなん屁でもないから気にすんな! それより……悪かったな、ちゃんと守ってやれなくて。俺まだチビだし力も弱えし」
どんどん顔が下がる深欧に明苑は明るく言い放つ。
「すっごくかっこよかったよ、深欧! ありがとう!」
「――っ! おう!」
明苑の笑顔を見て深欧も笑顔になったのである。
そしてこの時から、深欧と明苑はお互いを意識する事になる――。
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