芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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動乱

57話

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 蓮花と会っていることを父である皇帝に告げ口された飛龍は何も言わず黙っていた。皇帝の顔を見ると再び書簡に目を落としてはいるがこちらの様子を伺っているのが分かる。

「この前の宴は一応建前としていたが、本当に気に入った子はいなかったのか? そろそろお前にも妃をと考えてはいるんだが」
「……今はそんなこと言っている場合じゃないでしょう。私のことはいいので父上から煌嵐を説得して、雲嵐を結婚させてあげてください」

 どうにか話題を逸らそうと雲嵐の話を持ち出す。皇帝は両肩を竦める。

「私がいくら言っても聞くわけないだろう。煌嵐も私が結婚するまで頑なに結婚しなかったからな。それでどんな女人なんだ?」

 雲嵐より主家である皇族を大事にしている煌嵐なのでその姿は容易に想像がつく。そして逸らしたはずの話題がまた戻ってきてしまい、飛龍は口ごもる。

「別にどうこうなろうって言う間柄では……」
「これまで令嬢に合わせても冷淡な態度だったお前が何回も会っていると言うだけでも知る価値がある」

 飛龍の言い訳もばっさり切り捨て、なおも問いかける父。これは答えるまで解放されないと察した飛龍はため息をついて言葉を返した。

「柳左僕射の長女です」
「王琳の? 予想外の名前だな。知り合う機会があるとは思えんが」

 蓮花の家の事情をぺらぺらと喋るのは気が咎めたので、飛龍は探り探りで父がどこまで知っているのか確認していくことにした。

「父上は柳家の状況はご存知でしょうか」
「ああ。私の方からも貢献度を考えて返済資金の提供を申し出たが丁重に辞退されてしまったな。律儀な男だ」

 皇帝の表情には借金に対する悪い印象ではなく、自力で返そうとする姿勢に笑いを見せていた。少し安堵して続きを話す。

「家計の助けになればと厨房に働きに来ているんです」
「柳家の長女が? いくら家計が苦しくても貴族の姫だろう。王琳がそう指示しているのか?」
「いえ、むしろ王琳は止めたのですが、何もしないのは嫌だと。早く借金を返して妹の嫁ぎ先に影響がないようにしたいと言っていました。」

 まさか貴族の令嬢が働いているなど想像もしていなかったようで、皇帝は空いた口が塞がらないようだった。しかし一拍置いて声を上げて笑い出す。

「ち、父上?」
「そうか、お前には普通の姫君では興味を引かれなかったか」
「だから蓮花とはそういう関係では……」
な。お前もわかっているだろう、龍人の特徴を。自覚していようがいまいが関係ないが、一度囚われると自分でも抑えきれない。私が皇后にそうだったようにな」
「……それは、わかっています」
「なら事が収まるまでにそちらの方もどうするかきちんと決めておけ。次代の天聖国に関わることだ」

 先程までからかうような声音だったが、最後の一言には真剣な感情が見え隠れしていた。
 飛龍が気付かないふりをしようとしたその感情から、逃げることはするなと念を押されたような気分になった
 
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