芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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動乱

73話

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 うずくまりながら泣き続ける宇民に飛龍と雲嵐は状況を把握するために王琳へと目を向ける。

 王琳は二人の視線に気付きゆっくりと口を開いた。

「この宇民と名乗る男は、宇民ではありません。それはご承知ですね?」
「ああ」
「彼はかつて宮廷に仕える官吏でした。名を 晋奏といいます。」
「韋 晋奏……」
「……晋奏、なぜここにお前が呼ばれたか心当たりはあるだろう」

 王琳の問いかけに泣きながら頷く宇民――いや、晋奏。晋奏の腕を引き上げて椅子に座らせる。

「俺は……俺はなんてことを……。殺してくれ! 俺は生きている価値もない」
「お前の命に価値があるかないかは話を聞いてからだ。全てを嘘偽りなく話せ」

 飛龍は泣き続ける晋奏に言い放つ。一体この男に何が起こったのか。

 ――晋奏は涙を拭きぽつぽつと話し始めた。





 田舎から官吏を目指して上京してきた晋奏。無事に科挙を通過し官吏としての道を歩み始めた。田舎者と同僚に蔑まれることも珍しくなかった。それでも自分の仕事が国のため、民のためになっていると思いどうにか耐え忍んでいた。
 そんな晋奏は、同期の官吏で貴族の身分だが家計が貧しい者がいると耳にした。それが柳 王琳だった。
 同じはみ出しもの同士ということもあり、存在を知ってからはどんな人物なのか気になっていた。
 ひょんな事から一緒に仕事をこなさなければいけなくなり、自然と一緒にいることが増えていった。

 話せば話すほど、王琳の有能さ、実直さに惹かれていった。決して田舎者だからという理由で蔑まず、晋奏の中身を見てくれる王琳。いつしか晋奏にとって王林は唯一無二の親友となっていた。王琳にとってもそうだったと自信をもって言える。このまま二人で出世して家族のため、国のために働こうと語り合った。

 
 そんな二人の元へ暗雲が立ち込めることになる。

 田舎の母が倒れたと連絡が入ったのだ。晋奏の父は晋奏が上京する前に亡くなってしまい、故郷には母が一人残っていた。

 急なことで帰ることも出来ない晋奏はただ母の治療代を送ることしか出来なかった。まだ治療法が確立していない病のため治療は通常の倍以上かかっていた。
 永遠に仕送りができるはずもなくどんどんと晋奏の貯蓄も少なくなり、このままでは母と二人共倒れしてしまう。どうするべきか頭を悩ませている晋奏にとある噂が耳に入る。

 町の外れに無担保で金を貸してくれる人がいるらしい。晋奏は藁にもすがる思いでその話をしてくれた隣人に詳しく聞き込んだ。きちんと借りた金を返しさえすれば特に問題なく借りれるという。しかし無担保の代わりに保証人を決めなければならないらしいと告げられてすぐ浮かんだのが王琳だった。
 田舎から出てきて知り合いもほぼいない、同僚からも疎まれている晋奏には信用出来る人物が王琳しかいなかったのだ。

 翌日、話を聞いた王琳は少し考えたあと微笑んで許可をくれた。
 それは王琳の晋奏への信頼の深さの現れだった。自分の家計も決して余裕がある訳ではない柳家。もし晋奏に何かあればその借金は柳家に降りかかる。
 のにも関わらず王琳は笑顔で承諾してくれた。
 晋奏はこれ以上は王琳に迷惑をかけてはいけないと心に決め、必ず借金を返済すると誓った。

 その後金貸しにお金を借り、当面の母の治療代を用意できた晋奏はより一層仕事に邁進した。
 最初の方は借金も順調に返しつつ、仕送りを行えていた。これなら大丈夫だと安心した頃、予想外の出来事が起こってしまう。
 
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