芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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87話

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 飛龍の指の温かさを感じながら綉礼の歌を堪能する。
 どれ程の時間そうしていたのだろう。緩やかに二胡が速度を落とし、余韻を残して音が空間に消えてゆく。

 一瞬しん、と静まり返った会場が一気に拍手でいっぱいになる。

 その拍手の大きさに思わず蓮花が手を引いた。飛龍はその様子に少し眉を下げたが綉礼に向けて拍手を贈る。

「見事な歌声だった。出来ればもう少し聞きたかったが……、またの機会にとっておこう。そちらの奏者も素晴らしい二胡だった。二人にもう一度拍手を」

 そう飛龍が促すと先程より大きな拍手が二人に贈られる。奏者はまさか皇子直々に言葉を貰えるとは思わず感極まっている様子だった。
 綉礼は優雅に一礼して袖へと下がる。

 ざわざわと周りの高官たちから声が聞こえてくる。

「やはり宋家が最有力か――」
「聞くところによると幼少期から顔見知りだとか……」

 蓮花はふとある考えが思い浮かぶ。 
 先程の言葉は聞く者が聞けば、綉礼ともっと過ごしたいと言う意味に捉えられるのではないだろうか。
 綉礼には雲嵐という想い人がいるし、飛龍も雲嵐の気持ちはわかっているはず。
 もしかして雲嵐の事を思って、綉礼に対する恋心を打ち明けられないということなのだろうか。

 もしそうだとするなら先程の行為はなんだったのだろう。さすがの飛龍も想い人が別にいながら蓮花にちょっかいをかける不誠実な人ではないと知っている。

 自分の暴走気味な思考回路に歯止めをかけつつ合間に出される食事を配膳する。

「こちらは魚翅湯ユーチータンです。お熱いのでお気をつけください」

 ほかほかと湯気をだすのは黄金色に輝く汁物。フカヒレを使ったもので旨みが凝縮されているらしい。
 蓮花は食べたことは無いが香りだけでも食欲が刺激される。
 食べやすいように小さな器へ取り分けてから飛龍へと渡す。

 小さな器だったので指が触れ合いそうになったが、そうはならず飛龍は器を受け取る。

「ありがとう」

 蓮花に笑いかけてフカヒレを口に運ぶ。それだけの動作なのに優雅さが溢れ出ている。
 しばらく飛龍を見ない間に耐性がなくなってしまったのか、飛龍の一挙手一投足に目が奪われてしまう。

 蓮花はそこから目を逸らすように目を伏せる。
 第一皇子の給仕係は緊張するだろうと思っていたが、別の種類の緊張が重なってしまい蓮花は既に気力がごっそり削られている。

 この後の食事の流れは主菜が四種出た後に炒飯、締めの甘味の点心だ。
 まだまだ先は長い。ある程度の緊張感を切らさないように蓮花は深呼吸をした。
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