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朝議
101話
しおりを挟む渧淳の言葉から目を逸らした紫僑は紅龍に再び怒りの矛先を向ける。
「成り行きに任せれば望むようになるって言ってたじゃない! 私はこんなこと望んでいなかったわ!」
怒鳴り声を投げつけられた紅龍は鼻で笑った。
「誰も母上の望む通りにとは言っていません。あれは母上が流れに身を任せていらしたら“私たちの”望むことが起こるかもしれないという意味です」
実の息子からの突き放すような言葉に開いた口が塞がらない。同族の少ない龍人は身内をとても大切にする。それにもかかわらず実の母に向かってこのような冷たい物言いをするとは。
「それが母親に対する口の利き方なの?」
「もう私は貴女のことを母とは思っていません。父上から今回の話を聞いた時、貴女との縁を切る覚悟はいたしました」
予想だにしなかった言葉に紫僑は頭が真っ白になった。今まで粗雑に扱っていた息子から自分が切り捨てられるなんて紫僑の自尊心はずたずたに傷つけられた。
紅龍は今までの紫僑が自分に対して行った仕打ちを思い出しているのか、遠くを見つめていた。
「私は貴女に抱いてもらった記憶もなければ笑いかけて貰った記憶もありません。ただ殴られ、罵られ、自分には生きる価値などないのではないか。そう絶望し心を閉ざしかけていました。そんな時です、私の人生に光が差し込んだのは……」
――紅龍は在りし日の出来事を思い出していた。
「うう……、痛い。母上、許してください……」
「ぴーぴー泣かないでちょうだい、鬱陶しい。泣き止むまで部屋の外に出て行きなさい」
「でも母上、外は雪が降っていて――」
「さっさと出ていきなさい!」
まだ六歳の紅龍にとって母の言葉は絶対だった。鋭い視線に反論は封じられとぼとぼと部屋から出るしかなかった。
しんしんと雪は降り続き、池のほとりの岩にもうっすらと雪が積もっていた。
紅龍は小さな手をすり合わせどうにか暖を取ろうと息を吹きかける。
着の身着のまま追い出された紅龍は、震えながら歩いていると雪に隠れた足元の石に気付かず転んでしまった。
なぜ自分は母上に嫌われているのか。なぜこんな時に誰もそばにいてくれないのか。
紅龍は体と心の痛みで涙が溢れてきた。
「もうやだあ……。消えたい」
うるさいと言われ続けた紅龍は大声で泣くことも出来ずただ雪に埋もれていた。
どれほどそうしていたのだろう、体の感覚が無くなり始めた時。
「大丈夫か!」
少し離れたところから駆け寄ってくる声が聞こえた。
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