上手に息がしたい

にーなにな

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 猫の飼い主になってくれる人が見つかったと高嶺から電話があった。放課後、一緒に飼い主になる人に受け渡すことになった。僕が公園に着くと高嶺はもういていつも通り世話をしているようだった。
「少し寂しいね」
 ほぼ毎日この公園で猫と触れ合って少なからず愛着が湧いていた。
「うーん」
 僕より長い間世話をしていた高嶺からは何とも言えない返事が返ってきた。いつもよりぼんやりしている高嶺を不思議に思っていた。
 しばらくすると引き取る人がやってきた。お母さんと小学生くらいの娘さんで気の良さそうな親子だった。娘さんはダンボールを覗き込み猫を見て可愛い、可愛いと言っていて微笑ましくなった。
「渡しますね」
 高嶺がダンボールを持ち上げ母親に渡す時、高嶺は自分の方へと引き寄せる動作をした。
「ちょっと、高嶺」
 慌てて僕が高嶺に声をかける。
「あ、ごめんなさい」
 高嶺はハッとしたような顔をし前にダンボールを差し出す。
「大丈夫ですよ。ちゃんと育てますから」
 そう母親が言いダンボールを引き取って親子は帰って行った。
「いい人見つかって良かったね」
 そう僕は言うと高嶺は見たことがないくらい険しい顔をしていた。どうしたのかと声をかけようとした時、高嶺は僕に抱きついた。
「ちょっと高嶺外だよ」
 いきなりのことに僕は動揺しながら言う。高嶺は黙ったまま離れなかった。
「ごめん」
 3分くらい経って高嶺は離れて呟くように言った。猫がいなくなって寂しかったからの行動だろうが、いつも通り家でご飯を食べて夜になって時分の家に帰って寝るまでずっとドキドキしてしまった。

 次の日の朝、前に出かける約束をしていた海に出かけようと電話があった。昨日の落ち込みようとは大違いでウキウキで電話をかけてくる高嶺に安心した。海に出かけるのは両親がいた頃以来で楽しみだった。
 僕の学校の前まで来てくれて車で海まで行った。高嶺が学校の前まで来るのは目立って少し嫌だなと感じつつも、本人が1番目立っている自覚がありながらも変えないところをみるに言っても無駄な気がして何も言わなかった。ブレザーもいらないくらいだいぶ気温は温かくなってきたが、海の方まで来ると少し寒さを感じた。
 車を降りると海が広がっていた。海は昔見たときと変わらずキラキラしていた。流石の寒さで海に足をつける勇気はないため堤防に足をかけるようにして座った。
「浜辺の方まで行かない?」
「ここで大丈夫」
 そう答えると高嶺も隣に座った。荷物を見ると泳ぐ時用の道具が入ってそうなものもあったが、見ないふりをした。
「海に来るのいつぶり?」
「家族で行ったのが最後だから、5年前くらい」
 海を見ながら家族で楽しかった思い出が駆け巡る。しばらくぼーっと眺めていると高嶺がポツポツと話始めた。
「この前言った公園もそれくらいぶりなんだよね。俺の母さん物心ついた時からずっと体調崩してて。体調が良かった日に唯一出かけた場所があそこだったんだ」
 高嶺の家でお母さんに会ったことなかったのは体調が優れないからなのか。
「その日母さんもすごく楽しそうで、部屋に似た花を持ってたら母さんにとってアレルギーで。母さんはそれを分かってたけど、俺が持ってきたものだからって枯れるまでずっと飾ってくれて。でも、体調悪化して母さんは別の場所で過ごすことになって」
 高嶺の声はどんどんとか細くなっていった。
「母さんは俺のせいじゃないって言うけど、それ以来あの公園には行けてなかったんだ。でも幸斗とあの日行けて良かった。やっぱりいい景色だったし」
 高嶺の目は水分を含みうるうると揺れていた。何か言わないとと思うも何も思い浮かばずにいると、高嶺はグルンと海の方へ向き直った。
「やっぱり泳ぎたい」
 そう言うと高嶺は何かを誤魔化すように堤防を降り浜辺を走り抜けて制服のまま海へと行った。我慢の限界だったかのように楽しそうに腰あたりまで海に突っ込んでいる。
「幸斗」
 大声で呼ばれ手招きされる。浜辺を歩き高嶺に近づく。高嶺がニヤッとした表情をし僕に水をかける。
 どう考えても寒い。普段なら絶対しないが、僕も海に近づき高嶺にかける。高嶺が顔の水を払いこちらに向かって水をかけようとする動作を取ったが、ハッとした表情をし堤防まで走りタオルを持って戻ってきた。
「ごめん」
 タオルをこちらを向かず申し訳なさそうに差し出してくる。そんなに寒そうに僕はしてたのだろうか。
「別にそんなに海で濡れるの嫌なわけじゃないよ」
「そうじゃなくて。隠して」
 忘れていた。シャツに水が染みて体中の痣が浮き上がっていた。事態に気づき高嶺からタオルを受け取り上半身を隠す。
「ごめん。見苦しくて」
「違う。幸斗はそんな痣嫌なはずなのに、それでも綺麗だと思ってしまう自分が嫌なんだよ」
 こちらに向き直って高嶺が言う。目は合いながらも、2人して恥ずかしくなり何とも言えない空気が流れる。
「僕のこときれいって思うの?」
「当たり前だろ。初めてあった公園からずっと綺麗だと思ってるよ」
 日が水面へと帰っていく時、僕と高嶺の唇が重なった。触れた唇から高嶺の気持ちを感じた。
 結局そのあとぎこちないまま言葉もうまくかわせず車へと戻った。運転手の方に車内を濡らさぬようにとシートにレジャーシートを引かれた。しばらく無言の状態が続くと気を遣ったのか運転手の方が話し始めて2人して聞き手に回った。濡れてしまったからと高嶺の家にお邪魔し服を洗って乾かしてもらった。高嶺は家まで送ると言ったが、気恥ずかしくて1人で家へと帰った。

 僕が家に帰る頃、外にはこの団地には不似合いな高級車が停まっていた。どこの車だろうと思いつつ家の前に立つと中から物音が聞こえた。兄の声と少し聞き覚えのある声が混ざり合っていた。帰ってきては行けない時だったと気づきその場を後にしいつもの公園へと足を運んで本を読んだ。久しぶりに公園で夜を過ごす。連日の高嶺との温かさからより一層冷たい風を感じる。高嶺に会いたいなそんな気持ちを抱えながらしばらく本を読んだ。
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