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翌日から高嶺は特に何もない日でも毎日校門前から送り迎えしてくれるようになった。僕は流石に心配しすぎだとは思いつつも高嶺と一緒にいられる時間が増えることを嬉しく思ってしまった。
この間約束した何かを買うと言う約束を達成するため一緒に街を出たものの高嶺が提案してくる店は僕のお小遣いでは入ることすら憚られる場所ばかりであった。
「じゃあ幸斗がいつもいく店がいい」
こちらを気遣ってか提案されたものの僕が普段行くお店はファストフード店くらいだった。さすがにそれはと別の提案を考えようとする。
「俺、あまり行ったことないし行きたい」
行こうと引っ張っていく高嶺に負けてファストフード店へと来た。高嶺にファストフード店不釣り合いすぎて申し訳ない気持ちになる。高嶺におすすめを聞かれるもハンバーガー以外食べたことがないため季節限定のがいいんじゃないかとお茶を濁した。僕はハンバーガー、高嶺は季節限定のやたらと名前が長いハンバーガーを頼んでいた。
「美味しい」
高嶺は笑顔で食べていたのでまあいいかと思うことにした。
結局、高嶺に連れられて色々なところを巡ったがよく分からないところが多く大丈夫で全てを乗り切った。家の前でまた明日と高嶺と別れた。
電気がついていないためもう寝ていると思ったが、兄は台所で包丁を持ったまま特に何もせずぼんやりとしていた。
「ただいま」
不思議に思い兄の元に近づく。こちらに気づいたのか兄は僕の方に振り返る。
「おかえり幸斗」
兄は包丁を持ったままゆらゆらとした足取りでこちらに近づいてくる。
「…唯人兄さん?」
その様子に嫌な予感を感じたのも束の間、兄はこちらに向かって包丁を振り下ろしてきた。何とか避けようと後ろに後ずさった時に足を滑らしその場で尻餅をつく。
「…お前ばっかり」
こちらを見る兄の目には明確に殺意があった。何とかして逃げなければと震える足を誤魔化し立ち上がるも兄は片手で包丁を持ちこちらに向かってくる。咄嗟に両手で兄の腕を掴む。
「やめて…兄さん」
兄はもう片方の腕で僕の腕を掴み爪が食い込む。痛みで腕の力が緩み刃先が僕のお腹に当たったのがわかった。死を感じた僕は必死の思いで右足で兄の足を蹴り上げた。
「っ」
当たりどころがよかったのか兄はその場でよろめき腕の力も抜けた。今しかないと思い玄関へと向かう。しかし、兄に足を掴まれる。逃げるためにもう片足で振り払おうとするが、両足とも掴まれ僕は倒れ込んだ。そして兄は馬乗りになり両手を僕の首にかけ締め上げた。
「…った…すけ…」
僕は何とか抜け出そうと兄の腕を掴み全身で暴れた。火事場の馬鹿力で兄を蹴り上げると兄は反対側へと倒れた。
「ぐっ」
倒れる音と共に何か鈍い音がした。兄を見ると包丁が腹部に刺さり血が流れ出していた。
「…兄さん…唯人兄さん」
僕は近づき声をかけるも兄からは何も帰ってこなかった。血の気が引いて行く。
「いやだ兄さん」
目の前の事実に頭がグルングルンと揺さぶられたかのような状態になりどうしたらいいのかわからなかった。近くで僕の鞄から音が鳴った。貰ったスマホに高嶺からの着信があった。
『あっ幸斗今大丈夫?』
思わず出てしまい高嶺の声が電話越しに聞こえる。
「…高嶺…兄さんが」
『どうしたの?また辛いことがあった?』
「…兄さんと喧嘩になって包丁刺さって…兄さん動かなくて」
何も考えず僕はただただ話した。
『大丈夫だからそこにいてすぐ行くから』
高嶺はそう言い切ると電話が切れた。
程なくして高嶺はこの家へとやってきた。
「幸斗大丈夫?」
「僕より兄さんが…」
玄関を入り僕の肩を掴み心配する高嶺の腕を掴み兄の元へと連れて行く。
「こっちは大丈夫だから幸斗は外に停まってる車にいて」
あまりにもいつも通りの笑顔を見せる高嶺に不気味さを感じ何も言えないまま促されるように僕は外に出た。外には見覚えのある高級車が停まっていた。側には見たことない紳士が立っており車の後部座席のドアを開けてくれた。
「失礼します」
車に乗り込むと先ほどの紳士はもう運転席におり車は出発した。普通の状態だったらどこに向かってるのかとか気になるが、そんなことよりも兄の無事をひたすら祈った。
「到着しました」
祈るしかない途方もない時間から抜け出した僕の到着場所は自分の家だった。空が少しだけ明るくなっている。どれほど時間が経ったのだろうか。ここに案内してくれたということは兄は無事だったということだろうか。自然と家に向かう足取りが早くなる。緊張しながら僕は玄関を開けた。
「戻ってきたね。おかえり」
そこには高嶺がおり兄の姿はなかった。
「兄さんは…」
「大丈夫。全部済んだから。この事は何もなかったことにしよう」
高嶺はいつも通りの表情でこちらに微笑みを向ける。
「そんなことできない。僕が突き飛ばして兄さんが…」
「幸斗は疲れてるんだよ。大丈夫だから今日は家で休んで」
高嶺は僕をそっと抱きしめると玄関を出ていった。部屋を見ると兄の血がついていた場所もなく僕が外に出た時よりも綺麗に片付けられていた。
「兄さん…」
僕は兄を殺してしまった。呆然と兄のいた場所を眺めていると外は明るくなっていた。警察に行かないといけない。本当はもっとすぐに行動すべきだった。僕は鞄を持ち近くの交番へと向かうため玄関を出た。
「幸斗おはよう」
玄関を出ると柔らかな笑顔をした高嶺がいた。
「昨日の今日で疲れてるだろうから俺が学校まで一緒についてくね」
「高嶺僕行かないといけないとこあるから」
高嶺の横を通り交番へと歩き出す。
「…幸斗さ、わかってると思うけどその時は俺も一緒だから」
高嶺がいつもより冷たい声色で後ろから僕の肩を掴む。
「昨日電話してきたあの時から俺も同罪だから」
「違う。僕が兄さんを…」
肩の手を振り払い向きを変え反論しようとし、高嶺の顔を見て止まってしまった。
「違わない。ずっと一緒。俺のこと大事だよね?」
高音は今にも泣きそうな顔でこちらに訴えかけた。
「大丈夫。絶対誰にも咎められる事はないから。だからお願い」
高嶺は僕を強く抱きしめ縋るように言った。初めて見る高音の様子に、僕は高嶺の腕を振り払う事はできなかった。
その後学校の前まで高嶺に見送られた。学校の席に着くとスマホにメールが届いており、何かあったらすぐ連絡するよう書かれていた。きつく振り解けない重りが僕にのしかかった。
この間約束した何かを買うと言う約束を達成するため一緒に街を出たものの高嶺が提案してくる店は僕のお小遣いでは入ることすら憚られる場所ばかりであった。
「じゃあ幸斗がいつもいく店がいい」
こちらを気遣ってか提案されたものの僕が普段行くお店はファストフード店くらいだった。さすがにそれはと別の提案を考えようとする。
「俺、あまり行ったことないし行きたい」
行こうと引っ張っていく高嶺に負けてファストフード店へと来た。高嶺にファストフード店不釣り合いすぎて申し訳ない気持ちになる。高嶺におすすめを聞かれるもハンバーガー以外食べたことがないため季節限定のがいいんじゃないかとお茶を濁した。僕はハンバーガー、高嶺は季節限定のやたらと名前が長いハンバーガーを頼んでいた。
「美味しい」
高嶺は笑顔で食べていたのでまあいいかと思うことにした。
結局、高嶺に連れられて色々なところを巡ったがよく分からないところが多く大丈夫で全てを乗り切った。家の前でまた明日と高嶺と別れた。
電気がついていないためもう寝ていると思ったが、兄は台所で包丁を持ったまま特に何もせずぼんやりとしていた。
「ただいま」
不思議に思い兄の元に近づく。こちらに気づいたのか兄は僕の方に振り返る。
「おかえり幸斗」
兄は包丁を持ったままゆらゆらとした足取りでこちらに近づいてくる。
「…唯人兄さん?」
その様子に嫌な予感を感じたのも束の間、兄はこちらに向かって包丁を振り下ろしてきた。何とか避けようと後ろに後ずさった時に足を滑らしその場で尻餅をつく。
「…お前ばっかり」
こちらを見る兄の目には明確に殺意があった。何とかして逃げなければと震える足を誤魔化し立ち上がるも兄は片手で包丁を持ちこちらに向かってくる。咄嗟に両手で兄の腕を掴む。
「やめて…兄さん」
兄はもう片方の腕で僕の腕を掴み爪が食い込む。痛みで腕の力が緩み刃先が僕のお腹に当たったのがわかった。死を感じた僕は必死の思いで右足で兄の足を蹴り上げた。
「っ」
当たりどころがよかったのか兄はその場でよろめき腕の力も抜けた。今しかないと思い玄関へと向かう。しかし、兄に足を掴まれる。逃げるためにもう片足で振り払おうとするが、両足とも掴まれ僕は倒れ込んだ。そして兄は馬乗りになり両手を僕の首にかけ締め上げた。
「…った…すけ…」
僕は何とか抜け出そうと兄の腕を掴み全身で暴れた。火事場の馬鹿力で兄を蹴り上げると兄は反対側へと倒れた。
「ぐっ」
倒れる音と共に何か鈍い音がした。兄を見ると包丁が腹部に刺さり血が流れ出していた。
「…兄さん…唯人兄さん」
僕は近づき声をかけるも兄からは何も帰ってこなかった。血の気が引いて行く。
「いやだ兄さん」
目の前の事実に頭がグルングルンと揺さぶられたかのような状態になりどうしたらいいのかわからなかった。近くで僕の鞄から音が鳴った。貰ったスマホに高嶺からの着信があった。
『あっ幸斗今大丈夫?』
思わず出てしまい高嶺の声が電話越しに聞こえる。
「…高嶺…兄さんが」
『どうしたの?また辛いことがあった?』
「…兄さんと喧嘩になって包丁刺さって…兄さん動かなくて」
何も考えず僕はただただ話した。
『大丈夫だからそこにいてすぐ行くから』
高嶺はそう言い切ると電話が切れた。
程なくして高嶺はこの家へとやってきた。
「幸斗大丈夫?」
「僕より兄さんが…」
玄関を入り僕の肩を掴み心配する高嶺の腕を掴み兄の元へと連れて行く。
「こっちは大丈夫だから幸斗は外に停まってる車にいて」
あまりにもいつも通りの笑顔を見せる高嶺に不気味さを感じ何も言えないまま促されるように僕は外に出た。外には見覚えのある高級車が停まっていた。側には見たことない紳士が立っており車の後部座席のドアを開けてくれた。
「失礼します」
車に乗り込むと先ほどの紳士はもう運転席におり車は出発した。普通の状態だったらどこに向かってるのかとか気になるが、そんなことよりも兄の無事をひたすら祈った。
「到着しました」
祈るしかない途方もない時間から抜け出した僕の到着場所は自分の家だった。空が少しだけ明るくなっている。どれほど時間が経ったのだろうか。ここに案内してくれたということは兄は無事だったということだろうか。自然と家に向かう足取りが早くなる。緊張しながら僕は玄関を開けた。
「戻ってきたね。おかえり」
そこには高嶺がおり兄の姿はなかった。
「兄さんは…」
「大丈夫。全部済んだから。この事は何もなかったことにしよう」
高嶺はいつも通りの表情でこちらに微笑みを向ける。
「そんなことできない。僕が突き飛ばして兄さんが…」
「幸斗は疲れてるんだよ。大丈夫だから今日は家で休んで」
高嶺は僕をそっと抱きしめると玄関を出ていった。部屋を見ると兄の血がついていた場所もなく僕が外に出た時よりも綺麗に片付けられていた。
「兄さん…」
僕は兄を殺してしまった。呆然と兄のいた場所を眺めていると外は明るくなっていた。警察に行かないといけない。本当はもっとすぐに行動すべきだった。僕は鞄を持ち近くの交番へと向かうため玄関を出た。
「幸斗おはよう」
玄関を出ると柔らかな笑顔をした高嶺がいた。
「昨日の今日で疲れてるだろうから俺が学校まで一緒についてくね」
「高嶺僕行かないといけないとこあるから」
高嶺の横を通り交番へと歩き出す。
「…幸斗さ、わかってると思うけどその時は俺も一緒だから」
高嶺がいつもより冷たい声色で後ろから僕の肩を掴む。
「昨日電話してきたあの時から俺も同罪だから」
「違う。僕が兄さんを…」
肩の手を振り払い向きを変え反論しようとし、高嶺の顔を見て止まってしまった。
「違わない。ずっと一緒。俺のこと大事だよね?」
高音は今にも泣きそうな顔でこちらに訴えかけた。
「大丈夫。絶対誰にも咎められる事はないから。だからお願い」
高嶺は僕を強く抱きしめ縋るように言った。初めて見る高音の様子に、僕は高嶺の腕を振り払う事はできなかった。
その後学校の前まで高嶺に見送られた。学校の席に着くとスマホにメールが届いており、何かあったらすぐ連絡するよう書かれていた。きつく振り解けない重りが僕にのしかかった。
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