上手に息がしたい

にーなにな

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 学校が終わり校門を出ると当然のように高嶺がいた。
「帰ろう。今日変わったことが…」
「高嶺どうしてもういるの。学校は?」
 話始める高嶺を遮って僕は言った。
「大丈夫。車で送って貰えばすぐだし」
 それだけ言うと高嶺は話を戻した。僕の家に送り届けた後、そのまま僕の家で高嶺が持ってきたご飯を食べた。高嶺は夜も遅くなると帰って行った。

 次の日、また次の日と毎日高嶺は僕の家に来るようになった。あの日が嘘なのではないかと思うほどいつも通り高嶺は振る舞っていた。学校であったことだとか、最近のお気に入りの曲だとたくさん喋る高嶺に対して僕は相槌を打つことくらいしかしなくなっていた。やがて僕は罪悪感に蝕まれ碌に睡眠もとれなくなっていた。不意に眠気に襲われうとうとした瞬間も兄のことがフラッシュバックし僕のことを強制的に起こしていった。

 あの日から数日後、僕は学校の遠足で隣の県へと向かうバスに乗っていた。遠足は休もうと思っていた。しかし前日に明日は遠足で学校を休むことを高嶺に伝えると、絶対に行くべきだとかお土産を買ってきてほしいだとか言われ行くことになった。この日もきっちり見送られた。
 バスは目的地の宿場町に辿り着いたが、僕は何もする気になれず石の段差に腰掛けた。周りでは同級生が楽しそうに歩いている。僕はこんな場所にいていいのだろうか。猛烈な吐き気に襲われる。ぐっと飲み込んで昨日高嶺が作ったお土産リストの物を買って早々にバスに戻った。
 帰り道バスの中は疲れた様子でほとんどの人が眠っていた。眠気、怠さはあるものの眠ることのできない僕はただ窓を見ていた。進む景色にぼーっと眺めていたが、目に見えたものに一瞬で目が覚めた。兄が歩いていた。バスから見える景色はすぐに移り変わりしっかり確認することができなかったが、兄だ。
 死んだはずの兄が生きているのか。それとも兄の亡霊なのか。兄を殺したのに都合よく生きてると思いたい僕の幻覚か。
 僕は胃液になるまでその場で吐いた。周りのざわめきが聞こえる中僕は意識を手放し気絶した。
 気づくと家にいた。
「幸斗やっと起きた。大丈夫?最近ずっと体調悪そうだったもんね」
 側には高嶺がいた。
「…兄さんがいた」
「何言ってるの?幸斗」
 高嶺は少し冷たい声色で言った。
「兄さんがいたんだ。兄さん…兄さん…」
「…幸斗は疲れてるんだよ。もう夜も遅いしそのままゆっくり寝よ」
 その晩眠れない僕は譫言のように兄を呼び続けた。
 その日から僕は家から出られなくなった。高嶺は変わらず僕の家にやって来る。
「忘れよう。ただの見間違いだから」
 高嶺は来るたびにそう言った。
 でも僕は自身の目で見たものが見間違いとは思えなかった。
「確かにあの日僕は見たんだ。兄さんは絶対にどこかで僕を見てるんだ。僕は絶対に許されないことをした。いつか兄さんが殺しに来るんだ」
 戯言のように繰り返す僕を高嶺はそっと抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫」
 何度もそう言ってくれたが、もう僕にとってその言葉は何の意味もなさなくなっていた。
 何も食べていない僕を心配しご飯を持ってきてくれた。
 食べる気にならない僕は箸やフォークはおろかスプーンすら握れず高嶺がスプーンで僕に食べさせた。なんとか咀嚼する気力はあり噛んで飲み込んだ。高嶺は満足そうな顔で僕の口に物を運ぶ。
 全部食べ終わって問題ないように見えた。だが、僕の体は何も受け付けなかった。高嶺が帰る頃僕は猛烈な吐き気に襲われせっかく食べさせてもらった物をすべて吐き出した。
「ごめん。ごめんなさい」
 そう繰り返す僕に高嶺は変わらず穏やかな表情でいた。もしかしてもう来ないのではないかとも思われたが、次の日も高嶺は来てくれた。昨日と同じ行動をし吐き出した。再び謝る僕を大丈夫と許してくれる高嶺がいた。
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