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仲間たち再集結
第13話 再集結
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夕日が沈みかけた頃、ハヤトと城介は古風な外観を持つ高級料亭の前に立っていた。その風格ある建物は、周囲のオフィスビルの間に佇んでいて、都会の喧騒から隔絶された静けさを醸し出していた。
「ここか」
「ああ」
ハヤトの問いに、城介は頷いた。彼はスマートフォンの画面を確認し、住所と建物を照らし合わせている。ここで間違いない。
「鉄村のヤツ、つまりガレットからの指定だ」
彼は着慣れたスーツの袖口を整えながら、眼前の建物を見つめた。ガレットこと鉄村剛から呼び出しを受け、再会の場所としてこの料亭を指定されたのだ。
城介から教えてもらった話によると、この料亭は政治家や有名芸能人も利用している、機密性の高い場所らしい。ここで交わされた話が外部に漏れることは、そうそうないという。
ハヤトが声をかけると、二人は揃って門をくぐった。すると、そこには小さな日本庭園が広がっていた。石灯籠や枯山水の間を通る石畳の小道を進む。
「すごいな」
ハヤトは周囲を見回した。夕暮れの光を受けて、樹々の影が長く伸び、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「こういう場所が東京にあるんだな。こんな高級な料亭、初めて来たよ」
彼の素直な反応に、城介は微笑んだ。
「さっき説明して通り、財界人や政治家の密談の場としても使われる。当然、値段もそれ相応するぞ」
「そりゃあ、そうか」
ハヤトは感心したように頷いた。生まれ育った世界には、まだまだ自分の知らないところがあったのだと改めて感じた。
玄関の前まで進むと、気品ある中年の女性が深々と頭を下げて待っていた。彼女の立ち居振る舞いには、何代も受け継がれてきた作法の美しさが感じられる。
「本日は、ようこそおいでくださいました。お先に到着された方が、こちらでお待ちです」
女将と思われる人物は、上品な着物姿で二人を出迎えた。その立ち居振る舞いに、ハヤトは異世界のお城で働いていた侍女長のことを思い出した。あの頃、皇宮に招かれる度に敬意を示されたものだ。
「どうぞ、こちらへ」
女将の案内に従い、二人は靴を脱いで上がり框を越えた。磨き上げられた廊下を進む。ハヤトの耳にはししおどしが鳴る音が届いた。時間の流れを刻むように規則正しく響いている。畳の上を歩く足音も静かに響く。
案内されるまま、二人は奥にある個室へと向かった。障子の前で女将が「お客様がお見えになりました」と声をかけると、中から「どうぞ」という男性の声が返ってきた。
障子が開かれ、二人が室内に足を踏み入れると、そこには星華と莉々、そして赤みがかった髪の若い男性――ガレットこと鉄村剛が座って待っていた。
「よく来てくれた、ハヤト殿!」
剛は、ハヤトの顔を見るなり立ち上がって、両手を大きく広げた。彼の声は室内に響き渡り、その眼差しには純粋な喜びが満ちていた。
「ようやく会えた! いやぁ、この時をどれだけ望んでいたか」
彼の声は興奮で少し震えていた。
「ああ、久しぶりだね」
ハヤトも笑顔で応えた。異世界で共に戦った仲間との再会の喜びが胸に広がる。
「俺も会えて嬉しいよ、ガレット。ここでは、剛という名前だったな」
「そうだ。そっちの名前で呼んでくれ」
剛は頷いた。
「とりあえず、座って。一緒に酒を飲もう!」
白い歯を見せて笑う彼の顔には、異世界のドワーフ鍛冶師の面影があった。しかし今は、スタイリッシュなスーツを着こなす若きビジネスマンの姿でもある。その姿がよく似合っていた。
「ここでは気兼ねなく話せる。女将には大事な仲間内での宴会だと伝えてあるから」
ハヤトは、剛と向かい合うように座った。テーブルの上には、すでに料理の前菜が美しく並べられていた。
一方の城介は、座る前に部屋の隅々をくまなくチェックしていた。目に見えない何かを探るように、壁や天井、さらには床下まで注意深く確認している。
「念のためだ」
城介は静かに答えた。彼は、変なものが仕掛けられていないか確認している。
前世の職業柄、こうした行動は彼にとって当たり前のことだった。秘密の集会場で密談する際の基本的な警戒心。そして、その様子を仲間たちは特に驚くこともなく、当然のように受け入れていた。
「大丈夫よ」
星華が微笑んだ。
「私も来る前に確認したわ。清潔よ」
城介は満足したように頷き、ようやく座った。緊張が解けたように肩の力が抜け、彼もくつろいだ表情を見せ始めた。
「じゃあ、俺も酒を」
「まずはビールか?」
「好きなのを飲め」
剛は豪快に笑った。その笑い声に、ハヤトは懐かしいと感じた。変わっていない。
「何でも注文していい。今日は全額、俺がおごるから」
「私は、甘いお酒を頂こうかしら」
星華は上品に微笑んだ。彼女の指先が、メニューの梅酒の項目を指している。
莉々だけが少し不満そうな表情を浮かべ、頬を膨らませた。その少女らしい仕草に、部屋の空気が和らいだ。
「いいな、みんな。私は未成年だから飲めない」
「ああ、絶対にダメだぞ」
ハヤトは真面目な顔で言った。続けて、星華も口を開く。
「ちょっとお試しに飲むのもダメよ。法律は守らないとね」
彼らの言葉には、大人としての責任感が込められていた。それを理解しながら、莉々はさらに頬を膨らませた。
「あーん。若返ってしまったことに、こんな弊害が」
彼女の少し芝居がかった嘆きに、全員が笑い、心地よい雰囲気になっていく。ハヤトもよく覚えている、懐かしい雰囲気。剛は特に大きな声で笑い、その豪快な笑い声が部屋中に響き渡った。
そんな会話を交わしつつ、彼らは店員を呼んで飲み物の注文を伝える。ビール、日本酒、梅酒、そしてジュースが運ばれてきた。冷たい飲み物のグラスは、照明に照らされて美しく輝いている。
「乾杯しよう」
ハヤトがグラスを掲げた。テーブルを照らす灯りの中で、彼の顔は温かい表情に包まれていた。
「全員の再会を祝して」
ハヤトの言葉に、仲間たちが一斉にグラスを持ち上げる。
「「「乾杯!」」」
五つのグラスが空中で小さな音を立てた。澄んだ音色が、この特別な瞬間を祝福しているかのようだった。
料理もコース料理が用意されていて、会話しながら食事の味も楽しんだ。季節の素材を生かした繊細な料理の数々。焼き物、煮物、刺身、揚げ物と進む料理は、どれも一流の料理人の技が光るものばかりだ。
ハヤトは異世界での粗末な食事や戦場での干し肉を思い出し、目の前の美食との違いに改めて感慨深い思いを抱いた。時には戦いの合間に囲んだ焚き火での食事が懐かしくもあるが、今この時を共に過ごせる幸せを噛みしめた。
しばらく経ち、酒も進んだところで、ハヤトはグラスを置き、真剣な表情になった。彼の目には、これまでの旅路を思い返すような深い感情が宿っていた。
「改めて、仲間たち全員が再会できたこと。とても嬉しく思う」
彼は静かな声で言った。
「ありがとう、みんな」
ハヤトが、仲間たちの顔を見回しながら感謝の言葉を口にする。その瞳には、かすかな涙の光が宿っていた。それだけ、仲間たちと集まれたことが嬉しかった。
星華が最初に答えた。彼女は姿勢を正し、異世界でのエルフの神官のような厳かな佇まいを一瞬見せた。その姿は、現代の洗練された服装の中にも、かつての神々しさを感じさせるものがあった。
「ありがとう、と伝えたいのは我々の方です」
彼女の声は落ち着いていた。
「ハヤト様が世界を救ってくださり、感謝の念に堪えません」
続いて城介が、昔の情報屋らしい冷静さで言葉を選びながら語った。彼の鋭い目が、一瞬柔らかな光を宿す。
「ありがとう、ハヤト殿」
彼は真摯な表情を浮かべながら言う。
「俺達が託した想いを、よくぞ成し遂げてくれた。本当に感謝している」
莉々は少し照れながらも、まっすぐにハヤトを見つめた。彼女の純粋な眼差しに、かつての女神者としての誇りと、現代の少女としての素直さが同居していた。
「ありがとうございます」
彼女の目には涙が光っていた。
「何度でも言います。私は、貴方の頑張りを見守ることしか出来ませんでした。一人になっても、ハヤト様は諦めることなく魔王を倒してくれました。これは、何度お礼を言っても足りません」
最後に剛が、グラスを置き、力強い声で締めくくった。彼はテーブルを軽く叩き、その衝撃で酒が少し揺れた。
「向こうの世界は、きっと平和になっている」
彼の眼差しは確信に満ちていた。大きな手でグラスを握りしめ、誇らしげに続ける。
「そうなったのは、ハヤト殿の存在があったから。改めて、ありがとう。儂らの世界を救ってくれて」
ハヤトは少し照れくさそうに目を伏せた。彼は自分が勇者としての役目を果たしただけだと思っている。そして、それに納得もしている。魔王を倒せたことを、心から良かったと感じているのだ。そこに後悔の念はない。
だが、気になることがあった。彼の胸の内には、ずっと言葉にできなかった思いがあった。
「でも、みんな」
ハヤトは静かに口を開いた。
「俺について来て、本当に良かったのか?」
「どういう意味だ?」
剛が眉をひそめた。
「俺が異世界に行って、魔王軍との戦いを経て、そして……命を落とした」
仲間たちの死。それを思い出して、ハヤトの声は少し震えた。あの血に染まった戦場の記憶が、今でも彼の心に強く刻まれている。
「その後、ずっと見守ってくれていると知って嬉しかった。だが、こっちの世界に戻ってくるのに一緒についてきてしまった。そのことに後悔は、していないか?」
部屋に沈黙が流れた。しかし、それは長くは続かなかった。
「後悔なんてないさ」
城介が静かに答えた。彼の目には強い光が宿っていた。
「そもそも、向こうの世界で私たちは死んでいた。終わった命だった」
星華が説明するように続けた。
「魂となった私たちは、最後の戦いを見届けた後、本来なら消えゆく運命だったのよ」
「それが、ハヤト殿について行って、この世界で生まれ変わって、奇跡的に復活できた」
城介が付け加えた。彼の表情には、新たな人生を与えられた喜びが浮かんでいた。そして、剛も力強く頷く。
「こうして感謝の言葉を直接伝えられるのは、本当に幸運なことだ」
莉々は両手をテーブルについて、身を乗り出した。彼女の動作には、強い思いがこもっていた。
「あれだけ世界に貢献してくれた勇者様を一人にするなんて絶対に嫌だった。だから、こうなることが必然だったんです」
星華は優しく微笑んだ。
「今この瞬間が幸せ。この気持ちに嘘はない」
最後に剛が力強く言い切った。
「生まれ変わったことで、より強くなれたから。この世界で、面白おかしく生きていきたい」
彼は拳を握りしめた。
「それに、ハヤト殿には恩があるんだ。今度は、俺たちがそれを返す番だから」
仲間たちの言葉を聞いたハヤトは、その気持ちを素直に受け入れることにした。背負い込む必要はない。彼らは、自分の意志でここにいると言ってくれた。
「みんな……ありがとう」
ハヤトは心からの笑顔を仲間たちに見せた。
ならば自分は、彼らと一緒に思う存分人生を謳歌しよう。ハヤトは心の中で、これから仲間たちと歩んでいく人生への決意を固めた。
料理と酒を楽しみながら、彼らは現代での生活や仕事の話、そして異世界での思い出話に花を咲かせた。時には大笑いし、時には目を潤ませながら。
窓の外では、東京の夜景が静かに輝いていた。異世界とは全く違う光景だが、ここにいる仲間たちは変わらない。
異世界で失った仲間たちが、こうして現代で再び集まった。それは奇跡と呼ぶしかない。
ハヤトはグラスを持ち上げて、静かに言った。
「みんな、これからもよろしく」
四人の笑顔が、彼の言葉に応えた。
「ここか」
「ああ」
ハヤトの問いに、城介は頷いた。彼はスマートフォンの画面を確認し、住所と建物を照らし合わせている。ここで間違いない。
「鉄村のヤツ、つまりガレットからの指定だ」
彼は着慣れたスーツの袖口を整えながら、眼前の建物を見つめた。ガレットこと鉄村剛から呼び出しを受け、再会の場所としてこの料亭を指定されたのだ。
城介から教えてもらった話によると、この料亭は政治家や有名芸能人も利用している、機密性の高い場所らしい。ここで交わされた話が外部に漏れることは、そうそうないという。
ハヤトが声をかけると、二人は揃って門をくぐった。すると、そこには小さな日本庭園が広がっていた。石灯籠や枯山水の間を通る石畳の小道を進む。
「すごいな」
ハヤトは周囲を見回した。夕暮れの光を受けて、樹々の影が長く伸び、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「こういう場所が東京にあるんだな。こんな高級な料亭、初めて来たよ」
彼の素直な反応に、城介は微笑んだ。
「さっき説明して通り、財界人や政治家の密談の場としても使われる。当然、値段もそれ相応するぞ」
「そりゃあ、そうか」
ハヤトは感心したように頷いた。生まれ育った世界には、まだまだ自分の知らないところがあったのだと改めて感じた。
玄関の前まで進むと、気品ある中年の女性が深々と頭を下げて待っていた。彼女の立ち居振る舞いには、何代も受け継がれてきた作法の美しさが感じられる。
「本日は、ようこそおいでくださいました。お先に到着された方が、こちらでお待ちです」
女将と思われる人物は、上品な着物姿で二人を出迎えた。その立ち居振る舞いに、ハヤトは異世界のお城で働いていた侍女長のことを思い出した。あの頃、皇宮に招かれる度に敬意を示されたものだ。
「どうぞ、こちらへ」
女将の案内に従い、二人は靴を脱いで上がり框を越えた。磨き上げられた廊下を進む。ハヤトの耳にはししおどしが鳴る音が届いた。時間の流れを刻むように規則正しく響いている。畳の上を歩く足音も静かに響く。
案内されるまま、二人は奥にある個室へと向かった。障子の前で女将が「お客様がお見えになりました」と声をかけると、中から「どうぞ」という男性の声が返ってきた。
障子が開かれ、二人が室内に足を踏み入れると、そこには星華と莉々、そして赤みがかった髪の若い男性――ガレットこと鉄村剛が座って待っていた。
「よく来てくれた、ハヤト殿!」
剛は、ハヤトの顔を見るなり立ち上がって、両手を大きく広げた。彼の声は室内に響き渡り、その眼差しには純粋な喜びが満ちていた。
「ようやく会えた! いやぁ、この時をどれだけ望んでいたか」
彼の声は興奮で少し震えていた。
「ああ、久しぶりだね」
ハヤトも笑顔で応えた。異世界で共に戦った仲間との再会の喜びが胸に広がる。
「俺も会えて嬉しいよ、ガレット。ここでは、剛という名前だったな」
「そうだ。そっちの名前で呼んでくれ」
剛は頷いた。
「とりあえず、座って。一緒に酒を飲もう!」
白い歯を見せて笑う彼の顔には、異世界のドワーフ鍛冶師の面影があった。しかし今は、スタイリッシュなスーツを着こなす若きビジネスマンの姿でもある。その姿がよく似合っていた。
「ここでは気兼ねなく話せる。女将には大事な仲間内での宴会だと伝えてあるから」
ハヤトは、剛と向かい合うように座った。テーブルの上には、すでに料理の前菜が美しく並べられていた。
一方の城介は、座る前に部屋の隅々をくまなくチェックしていた。目に見えない何かを探るように、壁や天井、さらには床下まで注意深く確認している。
「念のためだ」
城介は静かに答えた。彼は、変なものが仕掛けられていないか確認している。
前世の職業柄、こうした行動は彼にとって当たり前のことだった。秘密の集会場で密談する際の基本的な警戒心。そして、その様子を仲間たちは特に驚くこともなく、当然のように受け入れていた。
「大丈夫よ」
星華が微笑んだ。
「私も来る前に確認したわ。清潔よ」
城介は満足したように頷き、ようやく座った。緊張が解けたように肩の力が抜け、彼もくつろいだ表情を見せ始めた。
「じゃあ、俺も酒を」
「まずはビールか?」
「好きなのを飲め」
剛は豪快に笑った。その笑い声に、ハヤトは懐かしいと感じた。変わっていない。
「何でも注文していい。今日は全額、俺がおごるから」
「私は、甘いお酒を頂こうかしら」
星華は上品に微笑んだ。彼女の指先が、メニューの梅酒の項目を指している。
莉々だけが少し不満そうな表情を浮かべ、頬を膨らませた。その少女らしい仕草に、部屋の空気が和らいだ。
「いいな、みんな。私は未成年だから飲めない」
「ああ、絶対にダメだぞ」
ハヤトは真面目な顔で言った。続けて、星華も口を開く。
「ちょっとお試しに飲むのもダメよ。法律は守らないとね」
彼らの言葉には、大人としての責任感が込められていた。それを理解しながら、莉々はさらに頬を膨らませた。
「あーん。若返ってしまったことに、こんな弊害が」
彼女の少し芝居がかった嘆きに、全員が笑い、心地よい雰囲気になっていく。ハヤトもよく覚えている、懐かしい雰囲気。剛は特に大きな声で笑い、その豪快な笑い声が部屋中に響き渡った。
そんな会話を交わしつつ、彼らは店員を呼んで飲み物の注文を伝える。ビール、日本酒、梅酒、そしてジュースが運ばれてきた。冷たい飲み物のグラスは、照明に照らされて美しく輝いている。
「乾杯しよう」
ハヤトがグラスを掲げた。テーブルを照らす灯りの中で、彼の顔は温かい表情に包まれていた。
「全員の再会を祝して」
ハヤトの言葉に、仲間たちが一斉にグラスを持ち上げる。
「「「乾杯!」」」
五つのグラスが空中で小さな音を立てた。澄んだ音色が、この特別な瞬間を祝福しているかのようだった。
料理もコース料理が用意されていて、会話しながら食事の味も楽しんだ。季節の素材を生かした繊細な料理の数々。焼き物、煮物、刺身、揚げ物と進む料理は、どれも一流の料理人の技が光るものばかりだ。
ハヤトは異世界での粗末な食事や戦場での干し肉を思い出し、目の前の美食との違いに改めて感慨深い思いを抱いた。時には戦いの合間に囲んだ焚き火での食事が懐かしくもあるが、今この時を共に過ごせる幸せを噛みしめた。
しばらく経ち、酒も進んだところで、ハヤトはグラスを置き、真剣な表情になった。彼の目には、これまでの旅路を思い返すような深い感情が宿っていた。
「改めて、仲間たち全員が再会できたこと。とても嬉しく思う」
彼は静かな声で言った。
「ありがとう、みんな」
ハヤトが、仲間たちの顔を見回しながら感謝の言葉を口にする。その瞳には、かすかな涙の光が宿っていた。それだけ、仲間たちと集まれたことが嬉しかった。
星華が最初に答えた。彼女は姿勢を正し、異世界でのエルフの神官のような厳かな佇まいを一瞬見せた。その姿は、現代の洗練された服装の中にも、かつての神々しさを感じさせるものがあった。
「ありがとう、と伝えたいのは我々の方です」
彼女の声は落ち着いていた。
「ハヤト様が世界を救ってくださり、感謝の念に堪えません」
続いて城介が、昔の情報屋らしい冷静さで言葉を選びながら語った。彼の鋭い目が、一瞬柔らかな光を宿す。
「ありがとう、ハヤト殿」
彼は真摯な表情を浮かべながら言う。
「俺達が託した想いを、よくぞ成し遂げてくれた。本当に感謝している」
莉々は少し照れながらも、まっすぐにハヤトを見つめた。彼女の純粋な眼差しに、かつての女神者としての誇りと、現代の少女としての素直さが同居していた。
「ありがとうございます」
彼女の目には涙が光っていた。
「何度でも言います。私は、貴方の頑張りを見守ることしか出来ませんでした。一人になっても、ハヤト様は諦めることなく魔王を倒してくれました。これは、何度お礼を言っても足りません」
最後に剛が、グラスを置き、力強い声で締めくくった。彼はテーブルを軽く叩き、その衝撃で酒が少し揺れた。
「向こうの世界は、きっと平和になっている」
彼の眼差しは確信に満ちていた。大きな手でグラスを握りしめ、誇らしげに続ける。
「そうなったのは、ハヤト殿の存在があったから。改めて、ありがとう。儂らの世界を救ってくれて」
ハヤトは少し照れくさそうに目を伏せた。彼は自分が勇者としての役目を果たしただけだと思っている。そして、それに納得もしている。魔王を倒せたことを、心から良かったと感じているのだ。そこに後悔の念はない。
だが、気になることがあった。彼の胸の内には、ずっと言葉にできなかった思いがあった。
「でも、みんな」
ハヤトは静かに口を開いた。
「俺について来て、本当に良かったのか?」
「どういう意味だ?」
剛が眉をひそめた。
「俺が異世界に行って、魔王軍との戦いを経て、そして……命を落とした」
仲間たちの死。それを思い出して、ハヤトの声は少し震えた。あの血に染まった戦場の記憶が、今でも彼の心に強く刻まれている。
「その後、ずっと見守ってくれていると知って嬉しかった。だが、こっちの世界に戻ってくるのに一緒についてきてしまった。そのことに後悔は、していないか?」
部屋に沈黙が流れた。しかし、それは長くは続かなかった。
「後悔なんてないさ」
城介が静かに答えた。彼の目には強い光が宿っていた。
「そもそも、向こうの世界で私たちは死んでいた。終わった命だった」
星華が説明するように続けた。
「魂となった私たちは、最後の戦いを見届けた後、本来なら消えゆく運命だったのよ」
「それが、ハヤト殿について行って、この世界で生まれ変わって、奇跡的に復活できた」
城介が付け加えた。彼の表情には、新たな人生を与えられた喜びが浮かんでいた。そして、剛も力強く頷く。
「こうして感謝の言葉を直接伝えられるのは、本当に幸運なことだ」
莉々は両手をテーブルについて、身を乗り出した。彼女の動作には、強い思いがこもっていた。
「あれだけ世界に貢献してくれた勇者様を一人にするなんて絶対に嫌だった。だから、こうなることが必然だったんです」
星華は優しく微笑んだ。
「今この瞬間が幸せ。この気持ちに嘘はない」
最後に剛が力強く言い切った。
「生まれ変わったことで、より強くなれたから。この世界で、面白おかしく生きていきたい」
彼は拳を握りしめた。
「それに、ハヤト殿には恩があるんだ。今度は、俺たちがそれを返す番だから」
仲間たちの言葉を聞いたハヤトは、その気持ちを素直に受け入れることにした。背負い込む必要はない。彼らは、自分の意志でここにいると言ってくれた。
「みんな……ありがとう」
ハヤトは心からの笑顔を仲間たちに見せた。
ならば自分は、彼らと一緒に思う存分人生を謳歌しよう。ハヤトは心の中で、これから仲間たちと歩んでいく人生への決意を固めた。
料理と酒を楽しみながら、彼らは現代での生活や仕事の話、そして異世界での思い出話に花を咲かせた。時には大笑いし、時には目を潤ませながら。
窓の外では、東京の夜景が静かに輝いていた。異世界とは全く違う光景だが、ここにいる仲間たちは変わらない。
異世界で失った仲間たちが、こうして現代で再び集まった。それは奇跡と呼ぶしかない。
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「みんな、これからもよろしく」
四人の笑顔が、彼の言葉に応えた。
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