帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~

キョウキョウ

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仲間たち再集結

第12話 健康診断

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「ここよ」

 星華の車が、豪華な総合病院の前にある駐車場で停まった。近代的なガラス張りの巨大な建物が、夕暮れの空に映えている。

「凄い大きな病院だな」

 車から降りたハヤトが見上げると、城介が説明を加えた。

「ここは都内でもトップクラスの総合医療センターだ。最新の医療機器を揃えていることでも有名だよ」

 莉々は、病院の大きさに少し緊張した面持ちで尋ねる。

「星華は、ここで働いているんですか?」

 車から降りながら首を振った星華。

「いいえ。ただ、研究プロジェクトの関係でこちらとは太いパイプがあるの。今日はそのコネを使わせてもらった」

 星華が案内してくれて、中に入っていく。彼女は腕時計を確認すると、仲間たちを促した。

「さあ、全て準備できているはず。遅くならないうちに終わらせましょう」

 ロビーに入るとすぐに、白衣を着た男性がすっと近づいてきた。

「森下先生、お待ちしておりました」

 男性は星華に対して敬意を込めた態度で接し、周囲のスタッフも彼女の存在に気づくと、小さくお辞儀をする者もいた。

 星華が事前に手配していたおかげで、ハヤトたちは最小限の受付手続きだけですぐに検査室へと案内された。

「申し訳ないが、すべての検査が終わるまで約1時間ほどかかる予定だ」

 星華が皆に説明する。

「できるだけ正確なデータを取りたいからね」

 ハヤトたちは最新鋭の検査を次々と受けていった。高そうな機械を身体に装着したり、大型スキャナーの中に横になったり。MRIやCTスキャン、血液検査、筋力測定、反射神経測定など、実に多岐にわたる検査が行われた。

 検査の合間、ハヤトは医師やスタッフたちが自分のデータを見て驚いた表情を交わし、慌ただしく動き回る様子を目の端に捉えていた。何かあるのだろうか。けれど、彼らに言われるがまま大人しく検査を受け続けた。



 およそ1時間後、四人は個室の診察室に集められた。星華は白衣を羽織り、タブレットを手に結果を確認していた。その姿は完全に医師そのものだった。窓から差し込む夕日の光が彼女の横顔を照らし、異世界で見た神官の姿と重なって見えた。

「結果から説明するわね」

 星華は、タブレットを操作しながら話し始めた。莉々と城介に視線を向ける。

「とりあえず、莉々と城介の二人には問題は見当たらなかったわ。総じて平均よりも高い数値だけど、病気もなく健康体であること。私も検査をして問題ないことを確認済み。生まれ変わりや記憶が戻ったことによる大きな変化は見られないわ」

 説明を受けた莉々と城介は、安堵の表情を浮かべた。

「良かったです」
「健康か。そりゃ、いいな」

 星華は少し表情を引き締めて続けた。

「ただし、生まれ変わりや記憶の変化など、今の科学では説明できない現象については、検査でも発見できない問題が潜んでいる可能性がゼロではないわ」

 星華は専門家らしく説明した。

「でも、今のところはそういった兆候も見られない。過度に心配する必要ないという結論ね」

 その言葉を聞いて、ハヤトは安堵の息をついた。仲間たちに問題はなかった。星華の見立てなら間違いないだろうという強い信頼もあった。

「で、ハヤトのことなんだけど……」

 星華の声のトーンが変わった。彼女は一度深呼吸し、表情を引き締めた。

「どうした? なにか問題があるのか?」

 ハヤトは身を乗り出した。

 星華の表情が微妙に曇る。それを見たハヤトは、自分の体に何か重大な問題があるのではないかと不安になった。異世界から戻った際の痛みが、何か深刻な病気の前触れだったのかもしれない。彼の脳裏に、異世界で知っていた難治性の呪いや不治の病の記憶が蘇った。

 莉々が心配そうに星華の顔を見つめ、城介は腕を組んで眉をひそめた。椅子に座る三人の緊張が部屋に充満する。

 一瞬の沈黙の後、星華は顔を上げた。

「心配させてごめんなさい。ハヤトは物凄く健康よ。病気なんて一つもない」
「じゃあ、どうして星華はそんなに暗い表情を?」

 莉々が安堵しつつも、まだ心配そうに尋ねた。

 星華はタブレットをハヤトに見せながら説明した。画面には数値やグラフがびっしりと並んでいた。

「どの数値も高すぎるの。体力や筋力、反射神経に動体視力。今まで見たことない、超越した数値よ」

 星華は真剣な表情で言った。

「私は研究者として多くのアスリートを診てきた。けど、超一流のスポーツ選手でも、こんな数値は出せないわ」
「そんなになのか?」

 ハヤトが驚きを隠せずにいると、星華が続けた。

「ええ。おそらく、人類史上一番の身体能力と言っても過言ではない」

 彼女はグラフの一番高いところを指した。

「これは平均値、これはオリンピック金メダリストの数値。そして、これがあなたよ」

 グラフの中で、ハヤトの数値だけが突出して高く、画面からはみ出さんばかりだった。星華がタブレットをスクロールすると、さらに多くのグラフが表示され、すべてにおいてハヤトの数値は突出していた。

「オリンピックに出場すれば、どの種目でも金メダルを獲得できるぐらいのポテンシャルはあるでしょうね」

 異世界から戻った時の体験が、自分の身体に大きな影響を与えたのは間違いない。あの激痛が消えた後、体の調子が驚くほど良くなっていた。

 普通の会社員だった自分が、トップレベルの身体能力を持つようになった。ハヤトは自分の手のひらを見つめ、その中に宿る力の大きさを今さらながら実感した。

「でも、それが気がかりなことなの?」

 莉々が星華に問いかけた。星華は深刻な表情で頷いた。

「この情報によって、変なふうに注目を集めるかもしれないのよ。個人の検査結果だから絶対に漏らさないよう言ってあるけど、どこからか知られてしまう可能性もある」

 彼女の懸念に続けて、城介も付け加える。

「この検査結果だけでなく、日常生活での出来事からバレてしまうかもしれないぞ。そしたら、研究したいなんて言い出す連中がハヤトの身柄を狙うかもしれない」
「それは確かに嫌だな」

 ハヤトは表情を引き締めた。

「研究対象として見られるってこと?」

 莉々が不安そうに尋ねた。

「最悪の場合はね」

 星華は静かに答えた。

「人類の限界を遥かに超えた身体能力。医学会や軍事研究機関、他にもいろいろな組織の連中が興味を示すかもしれない」

 ハヤトは黙って考え込んだ。一般人離れした能力を持つことで変な注目を集めるのは避けたかった。異世界では勇者として注目を集めることも多かったが、それは使命を果たすための必要なことだった。けれど今は違う。ただ普通に、仲間たちと平和に暮らしていきたい。

「そうなったら面倒だな」

 ハヤトはため息をついた。

「見世物になるのは嫌だ」
「まあ、そうなったら私がハヤトを全力で守るわ」

 星華は急に表情を明るくした。

「先に研究対象として私が確保したと公表して、他の研究機関が手出しできないようにする。他の誰にも奪わせないわ」
「そ、そうか……」

 研究対象、という言葉にビクついたハヤトを見て、星華は慌てて付け加えた。

「冗談よ、半分は」

 彼女は微笑んだ。瞳に優しさが灯る。

「もちろん、ハヤトを雑に扱うつもりはないわ。最終手段として、そういうことも考えておくということ。それに、あなたのその能力がどこから来たのか、私自身も科学者として興味があるのよ。そして、その能力で悪い影響が出ないか心配でもある」

 ハヤトは少し安心したように頷いた。

「ただ、本当に注意は必要ね」

 星華は真面目な表情に戻った。

「特に公の場では、あまり目立つような行動は控えたほうがいい」
「わかった。気をつける」
「とにかく」

 星華は話をまとめるように言った。

「現時点で、私たちの健康にはなんの問題もない。だから、その点については安心して」

 彼女はタブレットをテーブルに置き、白衣のポケットに手を入れた。

「これからも定期的に検査をして、変化がないか見ていきましょう。何か気になることがあれば、すぐに連絡してね」
「ありがとう。こうやって、状況を把握しておくのは大事だろう。だから、診てくれて助かったよ」

 ハヤトは星華に感謝した。莉々と城介も、星華に礼を言った。

「いいのよ。仲間だから、当然のことよ」

 星華はそう言って微笑んだ。

 彼女の仲間思いな一面は、生まれ変わった今も変わっていないことを、ハヤトは強く感じた。エルフの神官セレスティアとして異世界で彼らを守ってくれたように、医師として現代でも彼らの健康を気遣う。世界が変わっても、彼女の本質は変わらないのだ。

「さて、こんな時間になってしまったし、みんなで夕食でもどうかしら? 近くに良いレストランを知っているわ」

 星華が提案した。彼女は白衣を脱ぎながら、穏やかな笑顔を仲間たちに見せる。

「いいね!」

 莉々が目を輝かせた。

「もちろん」

 城介も頷いた。

「久しぶりの再会を祝う意味でも」

 ハヤトも同意し、四人は病院を後にした。
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