帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~

キョウキョウ

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プロポーズ

第46話 大好評と次の目標

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 その日の夕方、ハヤトはIVEのオフィスを訪れた。ゲームの公開から数日が経ち、反響について詳しい説明を受ける予定だった。

 会議室には、山積みの雑誌や新聞の切り抜き、プリントアウトされたウェブ記事が並べられていた。席には既に莉々が座っており、資料の山から一つ一つの記事をじっくり読み込んでいた。

「これ全部、ゲーム関連の記事です」

 広報担当の若い女性スタッフが誇らしげに説明した。彼女の表情には、このプロジェクトの成功を喜ぶ気持ちが表れていた。

「凄い量だな」

 ハヤトは思わず声に出して驚きを表現した。机上に広がる資料の山は、想像をはるかに超えていた。

「ゲーム専門誌だけでなく、一般紙やビジネス誌まで取り上げてくれていますよ。『ゲーム業界の常識を覆す新たなビジネスモデル』とか『Vtuberプログラマーが生み出した革新的アクションRPG』など、様々な角度から注目されています」

 広報担当者が説明しながら、いくつかの記事の見出しを指さした。その中には大手ゲーム雑誌の表紙まであり、リリアのアバターが大きく掲載されていた。

「特に注目されているのは、こちらの記事です」

 広報担当者が一枚の雑誌を取り出した。見出しには「プロフェッショナルの視点から見た『話題のフリーゲーム』の革新性」というタイトルが躍っていた。

「有名なゲームデザイナーがこう述べています。『このゲームの物理演算と戦闘システムは、まるで開発者自身が実際に剣を振るった経験があるかのような精緻さがある。単なるファンタジーを超えた説得力を感じる』と」

 ハヤトと莉々は思わず顔を見合わせた。その評価は真実に近かった。ハヤトは異世界で実際に10年間戦い続け、その記憶を莉々は的確にゲームに反映させていたのだから。

「それで、インタビュー依頼も殺到しています」

 広報担当がパソコンを起動させて確認する。そこには、メディアからの問い合わせ内容について整理されていた。

「現在80件以上の依頼があり、スタッフで選別している状況です。テレビ出演のオファーも複数来ています」
「テレビですか?」

 莉々が驚いた様子で尋ねた。ここまでの大反響は想定外だったのだろう。

「はい。ゲーム特集番組だけでなく、朝の情報番組やニュース番組からも。もちろん、リリアのアバターでの出演になります」

 会議の途中、若いスタッフが部屋に入ってきた。彼の表情には、何か重要な情報を持っていることが見て取れた。

「すみません、朗報です」

 全員が彼に注目する。そのスタッフは少し息を整えてから、興奮気味に言った。

「インディーゲーム大賞の選考委員会から連絡がありました。莉々さんのゲームが、今年の大賞に選出されたそうです」

 部屋の中が歓声に包まれた。広報チームのスタッフたちが拍手し、莉々を祝福する声が飛び交う。

「おめでとう、莉々」

 ハヤトが心から言った。彼女の努力が認められることは、彼にとっても誇らしいことだった。莉々の才能は異世界でも特別なものだったが、この世界でも同様に輝いている。その事実に、心から嬉しさを感じた。

「はい、ありがとうございます。でも、この結果は他の皆の助けもあったからです」

 謙虚に結果を受け止める莉々だが、その頬は紅潮しており、心から喜んでいることが伝わってきた。彼女はテーブルに置かれた記事の山を見つめ、少し感動的な表情を浮かべていた。

「授賞式は来月、ゲーム総合展示会の特設会場で行われます」

 スタッフは詳細を説明した。彼の手にはさらに資料があり、スケジュールや参加者についての情報が記されていた。

「リリアさんには、アバターでのスピーチをお願いしたいと思います」
「はい。わかりました」



 それから1ヶ月後、ゲーム総合展示会の特設会場。華やかな照明と大型スクリーンが設置された授賞式会場には、業界関係者や報道陣が多数詰めかけていた。

 ハヤト、城介、星華、剛は関係者席の後方に座り、静かに式の始まりを待っていた。彼らは今回、IVE事務所の社員として素顔で参加しているため、誰も彼らがVtuberのメンバーだとは気付いていない。剛はシックなビジネススーツを着こなし、城介は少しカジュアルながらも上品な装いで、星華もレディーススーツである。

「緊張するな」

 ハヤトが小さく呟いた。会場の熱気と華やかさに、思わず身が引き締まる思いだった。

「自分がステージに立つわけじゃないのに」
「私も同じ気持ちよ」

 星華が微笑みながら同意する。彼女の声は落ち着いていたが、その瞳には確かな興奮の色が見えた。

「莉々が晴れ舞台に立つのを見るのは、とても誇らしいわね。嬉しい」

 授賞式が始まり、様々な部門の賞が発表されていく。音楽賞、グラフィック賞、ストーリー賞と次々に表彰が進む中、遂にゲームデザイン部門の発表の時が来た。

「そして、今年の大賞はコチラ! 開発チーム、リリアさんです!」

 大きな拍手が起こる中、大型スクリーンにリリアのアバターが映し出された。モーションキャプチャー技術により、特別スタジオで撮影している莉々の動きが正確に反映されている。金色の髪と碧い瞳を持つ賢者の姿は、スクリーン上で生き生きと動いていた。

 リリアのアバターが優雅に一礼し、トロフィーを受け取る仕草をした。その姿は現実とデジタルの境界を超えて、確かな存在感を放っていた。

「このような栄誉ある賞をいただき、心から感謝しています」

 スクリーン越しに響く莉々の声は、少し緊張しているものの、仲間以外にはそれを気づかせずに堂々としていた。彼女の声には、異世界の賢者としての威厳と、現代の若者としての初々しさが混ざり合っていた。

「このゲームは、私たちの大切な物語です。長い旅の記録であり、喜びと悲しみの結晶です」

 会場がリリアの声に聞き入る。その言葉には単なる台詞以上の重みがあった。

「このゲームは私の大切な記憶から生まれました。かけがえのない仲間たちとの冒険の日々、時には絶望に打ちひしがれながらも、決して諦めなかった勇気の記録です」

 ハヤトは静かに頷いた。異世界での記憶を直接語っているように聞こえるが、周囲の人々にとっては創作の一つとして受け取られるだろう。でも、それでいいと思っている。ハヤトも、莉々も。

「このゲームを通じて、私たちの物語を体験してくださった全ての方々に感謝します。そして、私を支えてくれた仲間たちにも、心からの感謝を」

 リリアは画面上で深々と頭を下げた。会場から温かい拍手が湧き起こった。

 授賞式の後、盛大なレセプションが開かれた。業界の重鎮たちがリリアのブースに次々と訪れ、賞賛の言葉と共に名刺を差し出していく。ここでも、Vtuberのアバターで対応していた。

「是非、次回作も我が社で」
「正式なポジションをご用意しています」
「あなたの才能は業界の宝です。その才能を我が社で、どうか!」

 莉々はそれらの申し出に丁寧に応えつつも、明確な返答は避けていた。彼女の声には自信と謙虚さが混ざり合い、堂々とした物腰で業界人たちと対等に会話していた。



 レセプションを終えたハヤトたちは、彼のマンションに戻った。それから、受賞のお祝いのために用意した料理とシャンパンを囲んで、和やかな時間を過ごした。

「本当によくやった、莉々。君は素晴らしい才能の持ち主だ」

 城介が乾杯の音頭を取った。

「ハヤトへの贈り物のつもりだったゲームが、世界中で称賛されることになるとは」

 星華も優しく微笑みながら言った。

「あの時、君が『ゲームを作りたい』と言い出したときは、正直どうなるか不安だった。でも、結果はこの通り。とても素晴らしいことになった」

 剛が頼もしげに莉々の肩を叩く。皆の言葉に、莉々は少し照れながらも喜びの表情を浮かべていた。



 お祝いが終わって城介、星華、剛が帰っていった後、リビングに莉々だけが残っていた。

「疲れた?」

 ハヤトがソファに深く腰掛けた莉々に温かいお茶を差し出した。それを両手で受け取り、一口飲んだ莉々の表情が少し和らいだ。

「はい、ちょっと。でも、とっても嬉しかったので」

 莉々は優しく微笑んだ。

「ハヤトの物語が、多くの人に届いたんだなって実感して」
「ああ」

 二人はしばらく静かにお茶を飲む。部屋の中に、心地よい沈黙が流れた。窓の外では、都会の夜景が美しく輝いていた。



「実は……」

 莉々が静かに切り出した。彼女の視線はお茶の湯気に向けられていたが、その言葉には迷いがなかった。

「今日のレセプションで、いくつかのゲーム会社から引き抜きのオファーがありました。あの有名な会社からもですよ」
「そうなんだ」

 ハヤトは驚かなかった。彼女の才能を見れば、当然のことだった。しかし、彼女がこれからどうするのか、その選択には関心があった。

「どこも本当に条件が良くて。でも、全部断りました」
「どうして?」

 理由を聞くハヤト。莉々は湯呑みを両手で包み込むように持ち、少し考えるような表情をした。

「私がゲームを作りたかった理由……。それは、ハヤトの活躍を、この世界の人たちに知ってもらいたかったから」
「みんなで配信を始めたのも、そういう理由だったね」
「はい、そうです」

 彼女は柔らかく続けた。

「異世界で勇者として戦ったハヤトさんのことを、忘れてほしくなかった。あの記憶を形にして残したかった」
「莉々」

 ハヤトは彼女の名前を呼んだだけで、それ以上の言葉が見つからなかった。彼女の献身的な思いに、胸が熱くなる。

「その目的は、達成できました」

 彼女は満足そうに微笑んだ。

「多くの人々が、ハヤトと仲間たちの物語を知ってくれた。この物語は配信として、ゲームとして永遠に残り続けるでしょう」
「そうなってくれたら、嬉しいね」

 ハヤトも微笑み返した。莉々の思いが形になったこと、そしてそれが多くの人に受け入れられたことは、確かな喜びだった。

「それで、そろそろ私は大学受験の方に集中しようと思います」
「なるほど。それは、いいね」

 その言葉に、ハヤトは莉々が学生であることを改めて思い出した。時々、彼女がまだ高校生であることを忘れてしまうことがある。異世界での記憶とプログラミングの特別な才能で、時々大人のように振る舞うから。だが、この世界での彼女はまだ将来の進路を決める年齢の学生なのだ。

「大学受験まで、もう少しありますが。早めに準備をしておこうかと」

 莉々が真剣な表情で言った。

「それは良い決断だと思う」

 ハヤトは心からそう思った。異世界では賢者の道を究めた彼女が、現代でも学問の道を進むのは、とても自然なことに思えた。

「莉々の将来を考えれば、学業に専念することも大切だね」
「でも……」

 彼女は少し悩ましげな表情を見せた。湯呑みをテーブルの上に置き、両手を膝の上で組んだ。

「これからも配信活動は続けたいと思うんですけど、そうすると勉強に集中するのが難しいかも」

 その言葉には、責任感と迷いが混ざっていた。彼女は自分が始めたプロジェクトを、中途半端にしたくないという思いがあるのだろう。

「それなら任せてくれ。配信については、俺が頑張るよ。きっと仲間たちも手伝ってくれるから安心して良い」

 これまでは莉々が主導していたが、これからは自分がメインになろう。ハヤトは、ためらわずに言った。

「いいんですか?」
「もちろん」

 ハヤトは自信を持って続けた。

「せっかくここまで注目を集めたんだ。ここでファンの心を離すのはもったいない。それに、俺自身も過去の記憶を配信を通して語るのは楽しい活動だからね」
「でも、私が言い出したのに、活動が中途半端になってしまって」
「そんなことないよ」

 ハヤトは優しく微笑んだ。

「君はすでに十分な役割を果たしている。それに、これからも時間があるときに参加すればいい。参加したいと思ったとき自由にね。一番に考えるべきなのは、君の将来だから」

 莉々はハヤトの言葉に、安心した表情を見せた。

「ありがとう、ハヤト。それなら私は安心して、配信活動はハヤトにお任せします」
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