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第11話 私も一緒に ※元女神官エミリー視点
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聖女を務めるノエラ様に見出された私は、弟子という特別な地位を頂いたのです。それは私の人生の中でも特別で、この上なく幸運なことでした。
ノエラ様のようになりたいという憧れの気持ちを抱き続けて、私は必死に修行に励んできました。初めて神殿に入った日のことを今でも鮮明に覚えています。緊張で震える私の肩に、彼女が優しく手を置いて微笑んでくれた瞬間。あの時から私の心は、彼女だけを見つめ続けてきたのです。
他の女神官たちは、ノエラ様を超えて自分こそが新しい聖女の座を手に入れようと狙う方もいました。でも私は、そんなことは絶対に無理だろうと確信していました。ノエラ様の聖女としての才能と実力は圧倒的で、勝てるはずがない。勝負にすらならないでしょう。
病で苦しむ子供を癒すノエラ様の手から放たれる光を見た時、荒れ果てた畑に祝福をかけるとその場で緑が芽吹く様子を目の当たりにした時——私はいつも思うのです。ノエラ様は素晴らしい御方です。私なんかでは足元にも及ばず、超えることなど不可能な唯一無二の偉大な聖女様なのです。
それなのに……神殿の連中はノエラ様の扱いが酷かったのです。仕事を押し付け、功績は奪っていく。ノエラ様本人が文句を言わずに黙っているので、私も何も言わずに我慢して黙っていました。でも正直、あの老賢者たちの横柄な態度を見るたびに、腹が立って仕方ありませんでした。
神殿の書庫で古文書を読むノエラ様の姿を、私はよく見かけました。何日も休まず研究に没頭する彼女を、老賢者たちは「当然の務め」として扱い、その成果だけを自分たちの手柄にする。そんな光景を何度見たことでしょう。
ノエラ様の指導を直接受けている者たちは少しは理解していました。だけど、他の女神官たちの多くがノエラ様の実力を侮っていたのです。根拠もなく下に見ている。許されない状況だと思います。
どうして、聖女の座を奪い取るなんて夢を追い求めているのでしょうか。どうしたって無理なのに。
でも、ノエラ様は聖女の座に座り続けることを望んでいないようでした。むしろ、誰かに引き継ぎたいと願っているように見えました。神殿の庭で二人きりになった時、彼女はふと遠くを見つめながら言ったのです。
「聖女になりたいという人がいるのなら、喜んで譲るんだけどね」
ノエラ様はそう冗談っぽく言っていました。けれど、その目には微かな切なさが宿っていた。ノエラ様は、聖女の座を誰かに譲りたいと思っている。そう強く感じました。
ノエラ様が聖女の座から退くことを望むのであれば、私も協力したいと思いました。憧れの存在だからこそ、望みを叶えるお手伝いをしたい。私の手伝いなんて、微力だろうけれど。
ノエラ様が聖女でなくなったとしても、私にとって憧れの存在であり続ける。
少し前からノエラ様は、隠れて何か準備をしていました。ある夜、彼女が誰にも気づかれないよう神殿の書庫から古い魔法書を持ち出すのを目撃した時、私は嫌な予感があった。彼女は何かを企てている。誰にも秘密にして、どこかへ行ってしまわれるのではないか。私は置いていかれる——そんなの、絶対に嫌でした。
「私も一緒に、連れて行ってください!」
扉を開けて飛び込んだ私の声に、ノエラ様は驚いて振り返りました。一瞬、彼女の顔に動揺が走るのを見ました。
「えーっと」
「……ダメでしょうか?」
私が同行を求めると、ノエラ様は困ったような表情で頬をかきました。しばらくの沈黙の後、彼女は深いため息をつき、私に言い聞かせるように優しく説明してくれました。みんなの記憶を消す魔法と、考えている計画について。
やはり、ノエラ様は凄いことを考えていました。私なんかでは、一生思いつかないような突飛な方法で自由を手に入れようとしている。それを成功させる自信がある。
「つまり私と一緒に来たら、エミリーが存在した記憶をみんなの中から消してしまうのよ。過去が消えて、居なかったことになる。それは、寂しいでしょう?」
それは、私のことを思って言ってくれている。ノエラ様の目には心配の色が浮かんでいましたが、私の気持ちは決まっていました。
「構いません! ノエラ様との思い出を塗り替えられてしまう方が辛いです!」
「……そっかぁ」
私の返事を聞いた後、ノエラ様はしばらく沈黙していました。彼女の瞳には複雑な感情が交錯していましたが、それから大きくため息を吐いて、仕方ないなぁといった様子で微笑みました。優しくて、温かい笑顔でした。
「わかったわ。じゃあ、行きましょうか。エミリーも私と一緒に」
「はい!」
許しを得た瞬間、私の心は喜びで満たされました。私も一緒に連れて行ってもらえる。それが、この上なく嬉しかったのです。
もしかしたら計画は実行しないかもしれない。最終手段だから。ノエラ様は、そうおっしゃっていました。
でも、きっとノエラ様は行動を起こすだろうと私は思っていました。そうなることを予感し、心のどこかでそうなってほしいとさえ願っていました。そうすれば、彼女は聖女の座や神殿から解放されて、自由になれる。
私が予想していた通り、ノエラ様は計画を実行しました。私たちの存在した記憶は消え去りました。覚えているのは私たち仲間だけ。聖女の座や神殿のしがらみからも解放されて、自由になりました。計画通りに。
こうして私は、ノエラ様と共に旅立つことができたのです。
ノエラ様のようになりたいという憧れの気持ちを抱き続けて、私は必死に修行に励んできました。初めて神殿に入った日のことを今でも鮮明に覚えています。緊張で震える私の肩に、彼女が優しく手を置いて微笑んでくれた瞬間。あの時から私の心は、彼女だけを見つめ続けてきたのです。
他の女神官たちは、ノエラ様を超えて自分こそが新しい聖女の座を手に入れようと狙う方もいました。でも私は、そんなことは絶対に無理だろうと確信していました。ノエラ様の聖女としての才能と実力は圧倒的で、勝てるはずがない。勝負にすらならないでしょう。
病で苦しむ子供を癒すノエラ様の手から放たれる光を見た時、荒れ果てた畑に祝福をかけるとその場で緑が芽吹く様子を目の当たりにした時——私はいつも思うのです。ノエラ様は素晴らしい御方です。私なんかでは足元にも及ばず、超えることなど不可能な唯一無二の偉大な聖女様なのです。
それなのに……神殿の連中はノエラ様の扱いが酷かったのです。仕事を押し付け、功績は奪っていく。ノエラ様本人が文句を言わずに黙っているので、私も何も言わずに我慢して黙っていました。でも正直、あの老賢者たちの横柄な態度を見るたびに、腹が立って仕方ありませんでした。
神殿の書庫で古文書を読むノエラ様の姿を、私はよく見かけました。何日も休まず研究に没頭する彼女を、老賢者たちは「当然の務め」として扱い、その成果だけを自分たちの手柄にする。そんな光景を何度見たことでしょう。
ノエラ様の指導を直接受けている者たちは少しは理解していました。だけど、他の女神官たちの多くがノエラ様の実力を侮っていたのです。根拠もなく下に見ている。許されない状況だと思います。
どうして、聖女の座を奪い取るなんて夢を追い求めているのでしょうか。どうしたって無理なのに。
でも、ノエラ様は聖女の座に座り続けることを望んでいないようでした。むしろ、誰かに引き継ぎたいと願っているように見えました。神殿の庭で二人きりになった時、彼女はふと遠くを見つめながら言ったのです。
「聖女になりたいという人がいるのなら、喜んで譲るんだけどね」
ノエラ様はそう冗談っぽく言っていました。けれど、その目には微かな切なさが宿っていた。ノエラ様は、聖女の座を誰かに譲りたいと思っている。そう強く感じました。
ノエラ様が聖女の座から退くことを望むのであれば、私も協力したいと思いました。憧れの存在だからこそ、望みを叶えるお手伝いをしたい。私の手伝いなんて、微力だろうけれど。
ノエラ様が聖女でなくなったとしても、私にとって憧れの存在であり続ける。
少し前からノエラ様は、隠れて何か準備をしていました。ある夜、彼女が誰にも気づかれないよう神殿の書庫から古い魔法書を持ち出すのを目撃した時、私は嫌な予感があった。彼女は何かを企てている。誰にも秘密にして、どこかへ行ってしまわれるのではないか。私は置いていかれる——そんなの、絶対に嫌でした。
「私も一緒に、連れて行ってください!」
扉を開けて飛び込んだ私の声に、ノエラ様は驚いて振り返りました。一瞬、彼女の顔に動揺が走るのを見ました。
「えーっと」
「……ダメでしょうか?」
私が同行を求めると、ノエラ様は困ったような表情で頬をかきました。しばらくの沈黙の後、彼女は深いため息をつき、私に言い聞かせるように優しく説明してくれました。みんなの記憶を消す魔法と、考えている計画について。
やはり、ノエラ様は凄いことを考えていました。私なんかでは、一生思いつかないような突飛な方法で自由を手に入れようとしている。それを成功させる自信がある。
「つまり私と一緒に来たら、エミリーが存在した記憶をみんなの中から消してしまうのよ。過去が消えて、居なかったことになる。それは、寂しいでしょう?」
それは、私のことを思って言ってくれている。ノエラ様の目には心配の色が浮かんでいましたが、私の気持ちは決まっていました。
「構いません! ノエラ様との思い出を塗り替えられてしまう方が辛いです!」
「……そっかぁ」
私の返事を聞いた後、ノエラ様はしばらく沈黙していました。彼女の瞳には複雑な感情が交錯していましたが、それから大きくため息を吐いて、仕方ないなぁといった様子で微笑みました。優しくて、温かい笑顔でした。
「わかったわ。じゃあ、行きましょうか。エミリーも私と一緒に」
「はい!」
許しを得た瞬間、私の心は喜びで満たされました。私も一緒に連れて行ってもらえる。それが、この上なく嬉しかったのです。
もしかしたら計画は実行しないかもしれない。最終手段だから。ノエラ様は、そうおっしゃっていました。
でも、きっとノエラ様は行動を起こすだろうと私は思っていました。そうなることを予感し、心のどこかでそうなってほしいとさえ願っていました。そうすれば、彼女は聖女の座や神殿から解放されて、自由になれる。
私が予想していた通り、ノエラ様は計画を実行しました。私たちの存在した記憶は消え去りました。覚えているのは私たち仲間だけ。聖女の座や神殿のしがらみからも解放されて、自由になりました。計画通りに。
こうして私は、ノエラ様と共に旅立つことができたのです。
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