転生者の王子と令嬢

第9話 平穏な未来への一歩

　私は、アレクサンダー王子に婚約破棄を告げられたことをウィルフレッドにも伝えた。つまり今は、特定の相手が決まっていない状況。新しい相手を求めているところだと。

　そして、ウィルフレッドにも決まった相手がいないことを聞いている。

　そんな状況を認識して、私は彼に言いたいことがあった。

　これを口に出したら、後戻りはできない。でも、このタイミングしかない。勇気を持って進むしか無いのだ。

　私はウィルフレッドを見つめ、深呼吸をする。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。緊張で手のひらに汗をかいていた。

　でも、私は決意を固めた。今を逃したら、二度とこんな機会はないかもしれない。

「ウィルフレッド、私たち、結婚しない？」

　思い切って言葉を紡ぐ。自分でも驚くほどの大胆さだった。でも、私たちはお互いをよく知っている。信頼し合える関係だ。長い時間を一緒に過ごしてきた。お互いの良いところも悪いところも見てきた。

　これまで結婚について考えたことはなかったけれど、アレクサンダー王子との婚約破棄を経験し、改めて自分の将来について考えるようになった。

　平穏な暮らしを送るためには、経済的な安定が必要だ。そして、そのためには信頼できるパートナーが欠かせない。

　これまで、ローゼンベルク公爵家に商人として貢献してきたウィルフレッドだったら、父も認めてくれると思う。後は、彼の気持ち次第。

　緊張しながら、私は彼の答えを待った。

「エリザベート、君の気持ちは本当に嬉しい。でも、君は本当に私でいいのかい？」

　ウィルフレッドが、慎重に言葉を選びながら尋ねる。

「ええ、私はウィルフレッドとなら、幸せな家庭を築けると思うの」

　私は真っ直ぐに彼を見つめて、はっきりと答える。迷いはない。彼なら、私の望む平穏な暮らしを実現できる。心から信じている。

「それなら、私も君と一緒に歩んでいきたいと思っている。君と一緒ならば、どんな困難も乗り越えられる気がするよ」

　ウィルフレッドが、優しい笑顔で答える。私も思わず笑顔になる。彼の答えが、とても嬉しかった。

　こうして、私たちは婚約を交わすことになった。この後すぐ父にも報告しに行った。当然、婚約を認めてもらえた。ローゼンベルク公爵家としても、ルーセント商会と強い繋がりを持っておきたいという考えがあったのでしょう。商会の長である彼と私が結婚すれば、その望みが叶う。

　ということで、新たな人生の始まりだ。ウィルフレッドと手を取り合い、幸せな未来を思い描く。平穏で安定した暮らしを。