女男の世界

キョウキョウ

文字の大きさ
2 / 60
第1章 姉妹編

第01話 覚醒

しおりを挟む
「う~っ、もう朝か」 

 朝の光から逃れるように布団にくるまりながら、いつも枕元に置いている時計に手を伸ばした。

「あれ?時計はどこだ」

 しかし、伸ばした手の先に時計を見つけられなかった僕は、ガバっと布団から飛び出すと周りをキョロキョロと見渡した。

「どこだろう、ここ?」

 ここがどこなのか思い出そうと昨夜の記憶を辿り通り魔にあった事を思い出すと、サーッと顔から血の気を引かせ、つぶやいた。

「刺されたんだ、僕」

 すぐに刺されたと思う箇所を調べたが、包帯は巻かれておらず傷も見当たらなかったので、改めて部屋を見回して、ここが何処なのか考えた。

「んっ、病院かここ」

 真っ白な布団に真っ白な壁、そして真っ白なカーテン。枕元にナースコールと思われるボタン。

 病院に縁がなかった優は、頭にあるイメージからここは病院だと判断した。


 コンッ、コンッ、コンッ


(ちょうどいいや、人が来たみたいだから聞いてみよう)

「佐藤優さん、失礼します」

 男性看護師を見て唖然とした優。

(え、ちょ……。男なのにスカート!? 女装……? 病院で、何故?) 

「さ、佐藤さん。起きられたんですね!今、主治医を呼んできます」

 何も言えずに居る僕を見て、すぐさま部屋を出て行った男性看護師。数分後、ひとりの女性医師と先ほど病室に来た看護師が入ってきた。

「起きたか、佐藤優くん」
「あっ、えーっと……。はい」

(うん。何度見ても、やっぱりスカートだ……)

 後ろに控えている男性看護師を少し気にしながら、女性医師の質問に優は答えた。

「私は日野原時雨《ひのはらしぐれ》だ。よろしく頼む。早速だが気分はどうだ?」
「大丈夫だと思います」

 改めて日野原と名乗った先生の顔を見ると、とても美しい顔立ちをしていることに気づいた。

「君は三日前に自宅で倒れたんだが、覚えているか?」
「えっ!?……確か、通り魔に襲われて後ろから刺されたんだと思うんですけど……」

 徐々に声音が小さくなっていく僕の答えに綺麗と思える顔の表情を鋭くする日野原先生。数秒考えたあと、日野原先生は言った。

「通り魔に襲われる前の事は覚えているか?」
「えっと、会社から自宅へ帰宅する途中でした。駅を降りて自宅までの道で、八時半頃だと思います」


 数秒の間。


「君の今の歳を教えてもらえるか?」
「えっ? 33歳ですが……」

 再び、微妙な間があく。自分の答えに自信がなくなってくる。自分の年齢を、数え間違いしているとか? いや、改めて考え直してみるが、33歳のはず。

「今は何年の何月かわかるか?」
「2013年3月だと思うんですけど……」

 次々に投げられる質問と鋭くなる日野原先生の目に緊張を感じ、だんだんと不安になっていく。

「少し待っていてもらえるか?」
「は、はい……」

 返事をすると日野原先生は看護師に一言掛け、病室から出て行った。

(何かおかしかったのだろうか)

 僕は更に不安を募らせる。10分程後に戻ってきた日野原先生。カルテだろうか、紙を右手に持っていた。

「お待たせした佐藤優さん。すまないが、また幾つか質問を答えてくれるかい?」
「はぁ……。わかりました」

 よくわからない僕は、曖昧に返事をした。その後、住んでいた場所や勤めていた会社、最近のニュースや今の総理大臣などなどを答えた。僕の答えを書き込んだカルテを眺めながら考えこむ日野原先生。

「……記憶の混乱がみられる。再検査が必要なようだが、先に親御さんを呼ぶ事にしよう」
「えっ、でも……」

 日野原先生は、僕の目をしっかり見据えるとこう言った。

「落ち着いて聞くんだ。今は、1996年の2月26日だ。そして君は16歳で学生なんだ」

 日野原先生の言葉を頭で繰り返す僕。

(1996年だって……?それに僕が学生……夢でも見ているのか)

 いつの間にか、日野原先生と男性看護師はいなくなっていた。

 コンッ、コンッ、コンッ

 30分も考え込んでいて時間が過ぎた頃だろうか、部屋をノックする音で僕はハッと現実に戻された。

「ゆうくん、入ってもいいかしら」
「あっ、どうぞ」

(誰だろう、また綺麗な女性だけど)

 反射的に返事をしてしまったけれど、入ってきた大きな女性に見覚えがない僕は、少し訝しげな表情を浮かべてしまってるだろう。女性は、目に涙を浮かべ両手で自分の口を塞ぎながら言った。

「ゆ、ゆうくん……」
「え? あ、あの……」

 何事だ。部屋に入ってきて、いきなり泣かれた。なんと言えばいいのか分からず、黙って見てしまう。しかし、美人な女性だ。

「よ、良かった……本当に……ほんとうに……」
「えーっと」

 僕は、その女性と見つめ合った。



 数分後、なんとか泣き止んだ女性に僕は言った。

「大丈夫ですか?」 

 そんな、ありきたりな言葉をかけることしかできなかった。 

「ありがとう、ゆうくん。泣いちゃってごめんね」

 僕は、誰だか分からない女性に思い切って聞いてみた。

「あの、どちら様でしょうか」
「えっ!? あっ、先生が言っていた……。あの、私はあなたの母よ」
「はあ? 母親…?」

 唖然として、そう答える。

(母さんだって?背高くないか?160cmを少し超えたぐらいだったはずだけど、彼女は170cm以上あるぞ?それに、こんな顔立ちだったっけ?長かった髪の毛が、今はショートヘアーになってる)

 5年は実家に帰らず、母親の顔もおぼろげになっていた。改めて母親と名乗る女性を見ても全然判断がつかなかった。

(う~ん、目元が確かこんな感じだったような気がするけれど……なんだか違うんだよなぁ)

 記憶の母の切れ長の目を思い出しながら、今目の前にいる女性と合わせて見たがそう思った。

「あの、ゆうくん……?」
「あっ、ごめんなさい。あなたが僕の母さんなんですね?」
「そうよ、ゆうくん。覚えていないかしら?」
 
 不安そうな声と期待するような目で尋ねてくる自称母。

「……」

 何も言えない僕に、どうして病院に運ばれたのか恐る恐る説明してくれる。

「ゆうくんは、お家の台所で倒れていたの。どうしていいか分からなかったけれど、ハルちゃんが病院に電話してくれてね」

(ハルちゃんって誰だろう……)

 知らない人物が出て来たが、それが誰か問う前に連々と話し込まれたので聞くことに徹した。その後、実家近くの病院に運ばれた事、一週間も目を覚まさなかった事、とても心配した事などなどを話してくれた。

 僕は、母の話す記憶に無い事柄に混乱しながら、昨夜の出来事や日野原先生に言われた事などを考えていた。

  扉の開く音がしたと思ったら、日野原先生が病室に戻ってきた。

「お母様とお話はできたか?」
「はい、先生」 

 母親に違和感があるとは言えず、適当な返事をしてしまった。

「お母様も現状を把握出来ましたか?」
「えぇ……、少し」

 今度は、母親に向かって言葉を投げかけた。日野原先生が額に皺を寄せ、こちらを軽く睨むように視線を向けてきた。何か、怒られることでもしたっけ。警戒すると、予想とは違った言葉が返ってきた。

「それじゃあ、この後は男性医師に担当をお願いするがそれでいいだろうか」
「え? 日野原先生がいいです」

 綺麗な女性医師と別れるのが惜しいと、思わず出た言葉に一気に恥ずかしくなった。

(なにを言っているんだ僕は。同性の方が気安いだろうと、気を使ってくれたんだろうに)

「男性医師を希望しないのか?」
「あの、日野原先生がいいのですが…… ダメですか?」

 言ってしまった言葉に、もういいやと思い切ってお願いしてみた。やっぱり、美人な人に担当してもらったほうが、良いと思ったから。それは、僕の素直な気持ち。

「では、これからよろしく頼む。早速、検診の準備をしてくる。待っていてくれ」
「はい! よろしくお願いします」

 男性医師には悪いが、担当が代わらずに良かった。素早く病室を出た日野原先生の茶色の交じったショートヘアーを思い出しながら、そう思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...