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第2章 学園編
第10話 始業式
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ノックをしてから、ガラッと扉を開ける。
(うぁ、なつかしいなぁ)
職員室の内装を見て、懐かしさを感じた。かつて通った学校ではなかったけれど、感覚では10年以上も昔の記憶にある職員室の風景。それを見ていると、懐かしい。
もうしばらく懐かしさに浸っていたいが、時間がない事を思い出したので、用事を済ませる。扉から一番近い席で、何か資料を確認していた先生に声をかける。
「すみません」
「はい?」
メガネを掛けた女の先生だった。机から顔を上げて、こちらに向いたのを確認してから尋ねる。
「加藤先生の席はどちらですか?」
「あ。……えっと、加藤先生に用ね。ちょっと待ってて」
その先生は、しばらく僕の顔を凝視していて妙な間があった。何か、おかしかっただろうか。
「先生! 加藤先生!」
「はーい」
メガネの先生は、職員室全体に響き渡るほど大きな声で加藤先生を呼んでくれた。男性の声が奥の方から聞こえてきて、席を立つ人物が見える。
「いやぁ、日野先生済まない」
「いえ、大丈夫です」
そう言って、かなり大きな人が近づいてきた。もしかしたら、190cm以上あるかもしれない、きっちりした黒のスーツに厳つい顔に野太い声だ。
「待たせた、ちょっとこっちに」
そして僕は、職員室の外に連れて行かれた。
「わざわざ来てくれて、助かるよ。本当は、こちらから迎えたかったんだが始業式と入学式の準備で忙しくてな。とりあえず、このプリントを確認してくれ」
「いえ、大丈夫です」
プリントを受け取りながら、適当に返事する。4月の予定表のようだ。プリントに書かれている内容にサッと目を通す。
(あっ、明日身体測定がある)
「病気は、大丈夫そうか?」
「えぇ、退院してから一ヶ月特に問題はありません」
担任としては、気になるところだろう。記憶喪失である事。その他に、特に問題はない事。1ヶ月どのように過ごしたかなど、三日ほど前電話で話した内容をもう一度伝える。
加藤先生は、それを頷きながら聞いていた。
「ん、大体わかった。とりあえず、一緒に教室まで行くか」
「はい」
話し込んでしまって、かなり時間が経っていた。先を歩く先生の後に付いて、僕も教室に向かう。
「先に、教室に入ってくれ。開いてる席に座れば良いから」
「わかりました」
転校生などではないから、先生からの紹介もなく先に1人で教室に入る。少し緊張しながら、扉を開けて教室の中に入る。
(う、注目されてる)
扉を開ける前に小さく聞こえていた話し声が、ピタッと止まって静まり返る教室。40人ぐらいのクラスで、幾つかのグループに分かれて楽しそうに会話していた。
そんな彼女たちの視線が、僕の方に向く。注目を浴びている。
視線を感じながら教室を見渡して、開いてる席を探した。一番前の窓側にある席が開いているようなので、その席に座ろう。
席に向かう途中も離れない視線。ちらっと目をやると、すぐに視線を逸らされる。見られているのは勘違いかとも思ったが、ちゃんと見られている。
席について、思わず息をつく。知らない顔ばかりだった。もしかしたら記憶にある学生生活の頃の友達が居るかもとも思っていたのだが。
「ほーら、時間だぞ。席に座れ」
色々と考えていると、教室に先生が入ってきた。その声で、教室なんの皆が自分の席に移動する。おそらくは自由に座っているので、仲のいいグループが固まっているようだった。僕はボツンと1人で、疎外感を抱く。
なるべく早く、友人を作らないと。このまま1人で過ごすことになりそう。それは寂しい。
「名前を呼んでいくから、返事するように!」
先生が点呼を取る。懐かしい光景。自分の番になって、少し気恥ずかしい気持ちになりながら返事をする。
「よぉし、全員居るな。この後、体育館に移動するがその前に」
先生が新学期に向けての注意事項を少し話してから、体育館に移動となった。
かなり広い学園らしくて、教室から体育館までの移動に時間がかかった。仲の良い友達がクラスに集まったのか、朝のうちに仲良くなったのか。移動中にもいくつかのグループに固まって、話しているのが見えた。
意外にも男子が多いようで、クラスの半分ぐらい居るようだ。
女子のグループ、男子のグループに加えて、男女混合のグループも見受けられる。
男性が2割しか居ないって聞いていたけど、意外に多いのかもな。担任も男の先生だし。このクラスが偶然、多いだけかもしれない。男子生徒をまとめて同じクラスにしている、という可能性もあるな。
体育館に到着すると背の順で並ばされる。僕が一番背が低いので前に並ばされた。学園長の長話や色々な先生達が代わる代わる話していくのを見て、ここでも懐かしい気分になった。昔を思い出していると、すぐに始業式は終わった。
クラスに戻り再び席につく。すると、掃除する場所を振り分けられた。この後は、校内を掃除していくらしい。僕の担当は廊下のようだ。
掃除したら今日は終わりのようで、クラスの皆がすぐに取り掛かる。早く家に帰りたいようだ。僕も教室の机をすぐに移動させて、掃除用具を手にして掃除を始めた。
箒を持って、廊下に出る。
「よっ、久しぶり。入院したって聞いたけど大丈夫だった?」
「え?」
廊下を掃除していると、知らない男子生徒に声をかけられた。かなり親しげな感じで話しかけられたので、もしかしたら彼とは友達だったのかもしれない。
「どした?」
「あの、ごめんなさい。記憶喪失で忘れてるらしくて……あなたが誰だかわからないです」
「記憶喪失だって!? そんなの、ほんとうにあるの?」
驚く男子生徒。その反応は当然だろう。
「自分でも、あんまり実感が無いけどそうらしいです。もし良かったら、貴方の名前を教えてもらえませんか」
「なんだか大変だな。僕は、安宅圭一。何か思い出したりしない?」
身長は僕に比べ高めで、170cmぐらいあるだろうか。肩に届くぐらいの髪、薄目にメガネをかけていてちょっとコケた頬と細めの顔。
安宅圭一くん。名前を繰り返し、顔を観察したが全く記憶に無い。
「ごめんなさい、わからないです」
「謝らなくていいって! 記憶喪失って大変だね。それと、敬語もいらないよ」
その後、掃除しながら話を聞いた。圭一君と僕は、かなり親しい友達だったらしいこと。彼の所属するクラスは、隣のC組ということ。
掃除が終わって、電車が一緒で毎日の行き帰りを一緒にしていたことを聞いたので、今日も帰りを彼と一緒にすることを約束した。
掃除が終わり、一度教室で先生の話と注意、明日は身体測定があるというお知らせを聞いて、解散となった。
「おまたせ」
「じゃあ、帰るか」
C組の前で待っていた圭一君と合流して、自宅に帰る。
「それで、今日さ」
「うんうん」
圭一君は話すことが好きなようで、僕は聞き役に徹していた。僕が倒れたと聞いて学校に来なくなった後のこと、卒業式の準備をしたことや、春休みに友達と集まって遊んだことを教えてくれた。
「それにしても、今年は女子ハズレだなぁ」
「ん? 気になる子は居なかったの?」
唐突にクラスの女子をバッサリと切る圭一君。そんな事を言って大丈夫なのかと、少し心配になりながら話を続ける。
「みんな、ナヨナヨってしててダメだなぁ。もっとバリっと女らしい感じじゃないと駄目だよ。それよりも、女らしいって言ったら優の担任の先生は良いよね」
「え? うーん、そうかなぁ?」
(女らしいって言う事は、男らしいってことで厳つい顔の加藤先生はOKってことか。それよりも、やっぱり圭一君も異性よりも同性が良いという感じなのか)
部屋にあったBL本を思い出す。
「そうかなって。前に優、あの先生良いって言ってたじゃん」
「あ、いや、あんまり……」
そんな話をした覚えはないので、戸惑う。そんな事を言っていたのか。
「ん? 記憶喪失って、好みとかも変わるんだね。知らなかったよ」
などなど話をしながら電車に乗って自宅近くの駅に到着。
「僕は、この駅だから」
「おっけー。僕もあと一つ先だから、ここでお別れ。また明日ね、バイバイ」
圭一君は一つ後にある駅で降りるようなので、今日はそこで別れて電車を降りる。その後、1人で家に向かって歩いた。
(うぁ、なつかしいなぁ)
職員室の内装を見て、懐かしさを感じた。かつて通った学校ではなかったけれど、感覚では10年以上も昔の記憶にある職員室の風景。それを見ていると、懐かしい。
もうしばらく懐かしさに浸っていたいが、時間がない事を思い出したので、用事を済ませる。扉から一番近い席で、何か資料を確認していた先生に声をかける。
「すみません」
「はい?」
メガネを掛けた女の先生だった。机から顔を上げて、こちらに向いたのを確認してから尋ねる。
「加藤先生の席はどちらですか?」
「あ。……えっと、加藤先生に用ね。ちょっと待ってて」
その先生は、しばらく僕の顔を凝視していて妙な間があった。何か、おかしかっただろうか。
「先生! 加藤先生!」
「はーい」
メガネの先生は、職員室全体に響き渡るほど大きな声で加藤先生を呼んでくれた。男性の声が奥の方から聞こえてきて、席を立つ人物が見える。
「いやぁ、日野先生済まない」
「いえ、大丈夫です」
そう言って、かなり大きな人が近づいてきた。もしかしたら、190cm以上あるかもしれない、きっちりした黒のスーツに厳つい顔に野太い声だ。
「待たせた、ちょっとこっちに」
そして僕は、職員室の外に連れて行かれた。
「わざわざ来てくれて、助かるよ。本当は、こちらから迎えたかったんだが始業式と入学式の準備で忙しくてな。とりあえず、このプリントを確認してくれ」
「いえ、大丈夫です」
プリントを受け取りながら、適当に返事する。4月の予定表のようだ。プリントに書かれている内容にサッと目を通す。
(あっ、明日身体測定がある)
「病気は、大丈夫そうか?」
「えぇ、退院してから一ヶ月特に問題はありません」
担任としては、気になるところだろう。記憶喪失である事。その他に、特に問題はない事。1ヶ月どのように過ごしたかなど、三日ほど前電話で話した内容をもう一度伝える。
加藤先生は、それを頷きながら聞いていた。
「ん、大体わかった。とりあえず、一緒に教室まで行くか」
「はい」
話し込んでしまって、かなり時間が経っていた。先を歩く先生の後に付いて、僕も教室に向かう。
「先に、教室に入ってくれ。開いてる席に座れば良いから」
「わかりました」
転校生などではないから、先生からの紹介もなく先に1人で教室に入る。少し緊張しながら、扉を開けて教室の中に入る。
(う、注目されてる)
扉を開ける前に小さく聞こえていた話し声が、ピタッと止まって静まり返る教室。40人ぐらいのクラスで、幾つかのグループに分かれて楽しそうに会話していた。
そんな彼女たちの視線が、僕の方に向く。注目を浴びている。
視線を感じながら教室を見渡して、開いてる席を探した。一番前の窓側にある席が開いているようなので、その席に座ろう。
席に向かう途中も離れない視線。ちらっと目をやると、すぐに視線を逸らされる。見られているのは勘違いかとも思ったが、ちゃんと見られている。
席について、思わず息をつく。知らない顔ばかりだった。もしかしたら記憶にある学生生活の頃の友達が居るかもとも思っていたのだが。
「ほーら、時間だぞ。席に座れ」
色々と考えていると、教室に先生が入ってきた。その声で、教室なんの皆が自分の席に移動する。おそらくは自由に座っているので、仲のいいグループが固まっているようだった。僕はボツンと1人で、疎外感を抱く。
なるべく早く、友人を作らないと。このまま1人で過ごすことになりそう。それは寂しい。
「名前を呼んでいくから、返事するように!」
先生が点呼を取る。懐かしい光景。自分の番になって、少し気恥ずかしい気持ちになりながら返事をする。
「よぉし、全員居るな。この後、体育館に移動するがその前に」
先生が新学期に向けての注意事項を少し話してから、体育館に移動となった。
かなり広い学園らしくて、教室から体育館までの移動に時間がかかった。仲の良い友達がクラスに集まったのか、朝のうちに仲良くなったのか。移動中にもいくつかのグループに固まって、話しているのが見えた。
意外にも男子が多いようで、クラスの半分ぐらい居るようだ。
女子のグループ、男子のグループに加えて、男女混合のグループも見受けられる。
男性が2割しか居ないって聞いていたけど、意外に多いのかもな。担任も男の先生だし。このクラスが偶然、多いだけかもしれない。男子生徒をまとめて同じクラスにしている、という可能性もあるな。
体育館に到着すると背の順で並ばされる。僕が一番背が低いので前に並ばされた。学園長の長話や色々な先生達が代わる代わる話していくのを見て、ここでも懐かしい気分になった。昔を思い出していると、すぐに始業式は終わった。
クラスに戻り再び席につく。すると、掃除する場所を振り分けられた。この後は、校内を掃除していくらしい。僕の担当は廊下のようだ。
掃除したら今日は終わりのようで、クラスの皆がすぐに取り掛かる。早く家に帰りたいようだ。僕も教室の机をすぐに移動させて、掃除用具を手にして掃除を始めた。
箒を持って、廊下に出る。
「よっ、久しぶり。入院したって聞いたけど大丈夫だった?」
「え?」
廊下を掃除していると、知らない男子生徒に声をかけられた。かなり親しげな感じで話しかけられたので、もしかしたら彼とは友達だったのかもしれない。
「どした?」
「あの、ごめんなさい。記憶喪失で忘れてるらしくて……あなたが誰だかわからないです」
「記憶喪失だって!? そんなの、ほんとうにあるの?」
驚く男子生徒。その反応は当然だろう。
「自分でも、あんまり実感が無いけどそうらしいです。もし良かったら、貴方の名前を教えてもらえませんか」
「なんだか大変だな。僕は、安宅圭一。何か思い出したりしない?」
身長は僕に比べ高めで、170cmぐらいあるだろうか。肩に届くぐらいの髪、薄目にメガネをかけていてちょっとコケた頬と細めの顔。
安宅圭一くん。名前を繰り返し、顔を観察したが全く記憶に無い。
「ごめんなさい、わからないです」
「謝らなくていいって! 記憶喪失って大変だね。それと、敬語もいらないよ」
その後、掃除しながら話を聞いた。圭一君と僕は、かなり親しい友達だったらしいこと。彼の所属するクラスは、隣のC組ということ。
掃除が終わって、電車が一緒で毎日の行き帰りを一緒にしていたことを聞いたので、今日も帰りを彼と一緒にすることを約束した。
掃除が終わり、一度教室で先生の話と注意、明日は身体測定があるというお知らせを聞いて、解散となった。
「おまたせ」
「じゃあ、帰るか」
C組の前で待っていた圭一君と合流して、自宅に帰る。
「それで、今日さ」
「うんうん」
圭一君は話すことが好きなようで、僕は聞き役に徹していた。僕が倒れたと聞いて学校に来なくなった後のこと、卒業式の準備をしたことや、春休みに友達と集まって遊んだことを教えてくれた。
「それにしても、今年は女子ハズレだなぁ」
「ん? 気になる子は居なかったの?」
唐突にクラスの女子をバッサリと切る圭一君。そんな事を言って大丈夫なのかと、少し心配になりながら話を続ける。
「みんな、ナヨナヨってしててダメだなぁ。もっとバリっと女らしい感じじゃないと駄目だよ。それよりも、女らしいって言ったら優の担任の先生は良いよね」
「え? うーん、そうかなぁ?」
(女らしいって言う事は、男らしいってことで厳つい顔の加藤先生はOKってことか。それよりも、やっぱり圭一君も異性よりも同性が良いという感じなのか)
部屋にあったBL本を思い出す。
「そうかなって。前に優、あの先生良いって言ってたじゃん」
「あ、いや、あんまり……」
そんな話をした覚えはないので、戸惑う。そんな事を言っていたのか。
「ん? 記憶喪失って、好みとかも変わるんだね。知らなかったよ」
などなど話をしながら電車に乗って自宅近くの駅に到着。
「僕は、この駅だから」
「おっけー。僕もあと一つ先だから、ここでお別れ。また明日ね、バイバイ」
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