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第2章 学園編
第17話 料理部の現状とこれから
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料理部が廃部の危機。
前の記憶だと、僕は学生時代に何の部活にも所属してこなかった。社会人になった後になって、何か部活に所属しておけばよかったと少し後悔したこともあった。
だけど今回は、料理部という興味のある分野だった。なので、これからは部活動を頑張ってみようという気持ちになっていたのに、廃部になるかもしれい。
まだ、所属していたという実感はないけれど、廃部になると聞いてしまった手前、無関係を装うのは後味が悪いと思った。何とか、部員の活動参加を促す手伝いを僕に出来ないだろうかと、考えてみる。
「普段は、どんな活動をしているんですか? どんな料理を作ったりとか、お菓子を作ったりしてるんですか。すいません。覚えてないんですが、料理部の活動について詳しく教えてくれませんか?」
とりあえず、普段は何をやっているのか聞いて、そこから部員が参加したいという気持ちになるような、アピールポイントを見つけ出したい。
しかし、なにやら困ったような苦笑いをする部長。
「うーん。それなんだが……」
「どういった活動をしているか聞いたら、マズイ感じですか?」
口を濁すので、何か問題あるのかもしれない。少し待つと、部長の彼がなんとなく答える。
「普段の活動は料理のレシピ研究をしたり、お菓子を研究したり……、ですかね」
答えてくれた。意外と、ちゃんと活動しているのかと思った。だけど、よく考えてみると”研究”という言葉のニュアンスがあまり良いものに思えない。
さらに突っ込んで聞いてみる。
「何か、作ったりしないのですか?」
「……実は、私達は料理ができないので」
ボソッと呟く部長。よく聞こえないが不穏な言葉がよぎった気がした。
「へ?」
「部員全員、誰も料理できる人が居ません」
開き直ったという感じで声を大きくして言う部長。今度は、ハッキリと聞こえた。料理部なのに、誰も料理できる人が居ないなんて。
「えっ!? だって、あんな上等なキッチンがあるのに!もったいない。料理部って料理を作る練習をする部活、じゃないんですか?」
料理部と聞いてイメージする活動は、そんな所だろう。さっき見た、あんなに立派なシステムキッチンが備え付けられてあるのに活用していないなんて、もったいなさすぎる。
「料理ができる人が居ませんから、教えられる人も居ないので……」
それで”研究”だけしているって。部員が参加しない訳がわかったような気がする。
「少し前は、調理を教えられる顧問が居たので。その顧問や習った部員が他の部員に教える、って事が出来ていたそうです。でも何年か前にその顧問も定年退職になったので、教えることが出来る人が居なくなりました」
「今の顧問はどうなんですか? 料理を教えられないのですか?」
「料理が出来ると言ってる先生は、既に他の部活の顧問をしているか、教師の仕事が忙しくて、部活動までは見きれないって断られました。今の顧問は料理が出来ないと言ってましたし、あまり積極的に参加される方でもないから、顧問としてお名前だけお借りしているような状態なんだよ」
う~んと、内心で唸る。顧問を引き受けたのなら料理ぐらい勉強してほしいと思う反面、確か部活の顧問は基本的にボランティアらしいと聞いたことがある。だから、興味や情熱がなければ、それも無理な話かと思った。
ただ、今の話を聞いていると教える人が居ないから部員も部活動に参加する意味を見出せないので、参加しないという事なのだろう。
原因は分かったから、解決する方法も思い浮かんだ。僕が基本的なことを教えて、一緒に調理を勉強できるような状態や環境に持っていければ、参加する部員は増えるかもしれない。
「あの、基本的なことなら僕が教えられるかもしれないですが、どうですか?」
「……ほんとに?」
「はい。基本的なこと、ぐらいなら」
そう言うと、部長はまた微妙な顔で隣に座っている桜という女性と顔を合わせた。そういえば、彼女も居たな。ほとんど気配がなかったので、少し忘れていた。
「あの、本当に料理できるんですか?」
「あまり期待されると困りますが、料理の基本なら教えることが出来ると思います」
部長は、顎に手を当てて考え込む。僕も、無言で様子を伺う。感覚だと、1分ほど待った位に、部長は口を開いた。
「記憶喪失ということで、覚えてないかもしれないけれど」
そう、語り始める部長。
「佐藤さんが入部した当初も同じように”料理が出来る”と言っていました。私と桜は少し期待して料理部に料理が出来る部員が入ると喜びました」
あれ? 実は料理が出来ないから部活動に参加しなかった、というわけじゃないのかな。しかし、部長の話には続きがあった。
「その後、料理を一品作ってもらったら、その、あまり良い出来ではなかったので、詳しく話を聞いてみると、カップ麺とか電子レンジにかけたものを”料理が出来る”と言っていたみたいで」
あ、なるほど。やっぱり佐藤優は料理が出来なかったみたいだ。そして、今の僕と同じように”料理が出来る”と言ったようだ。それで僕は、あまり信用出来ないということか。
それなら、信じてもらうには何か作ったものを食べてもらうしかないか。
「以前失敗したかもしれないですが、もう一度チャレンジさせてくれませんか?」
「……それじゃあ、何か作ってもらえますか。私と桜が食べて審査してみましょう。料理の研究は、バッチリこなしてきましたから。評価も厳しいですよ」
「はい、それでお願いします!」
張り切って椅子から立ち上がろうとした時、外が薄暗くなっている事に気付いた。話し込んで、かなり時間が経っていたらしい。
「っと、もうこんな時間ですね。今から料理するとなると、夜になってしまいます。なので、審査は明日ということで。よろしいですか?」
「そうですね。それで、いきましょう」
今日は時間も遅かったので、これで解散することになった。明日は学校が休みの日なので、お昼前に集合して料理の審査をしてもらう事になった。
準備する時間が出来たので、それまで色々と考えておこう。部長の審査に合格するために、何を披露しようかな。久しぶりに家族以外の人に料理を振る舞うことになるので、僕はワクワクした。
前の記憶だと、僕は学生時代に何の部活にも所属してこなかった。社会人になった後になって、何か部活に所属しておけばよかったと少し後悔したこともあった。
だけど今回は、料理部という興味のある分野だった。なので、これからは部活動を頑張ってみようという気持ちになっていたのに、廃部になるかもしれい。
まだ、所属していたという実感はないけれど、廃部になると聞いてしまった手前、無関係を装うのは後味が悪いと思った。何とか、部員の活動参加を促す手伝いを僕に出来ないだろうかと、考えてみる。
「普段は、どんな活動をしているんですか? どんな料理を作ったりとか、お菓子を作ったりしてるんですか。すいません。覚えてないんですが、料理部の活動について詳しく教えてくれませんか?」
とりあえず、普段は何をやっているのか聞いて、そこから部員が参加したいという気持ちになるような、アピールポイントを見つけ出したい。
しかし、なにやら困ったような苦笑いをする部長。
「うーん。それなんだが……」
「どういった活動をしているか聞いたら、マズイ感じですか?」
口を濁すので、何か問題あるのかもしれない。少し待つと、部長の彼がなんとなく答える。
「普段の活動は料理のレシピ研究をしたり、お菓子を研究したり……、ですかね」
答えてくれた。意外と、ちゃんと活動しているのかと思った。だけど、よく考えてみると”研究”という言葉のニュアンスがあまり良いものに思えない。
さらに突っ込んで聞いてみる。
「何か、作ったりしないのですか?」
「……実は、私達は料理ができないので」
ボソッと呟く部長。よく聞こえないが不穏な言葉がよぎった気がした。
「へ?」
「部員全員、誰も料理できる人が居ません」
開き直ったという感じで声を大きくして言う部長。今度は、ハッキリと聞こえた。料理部なのに、誰も料理できる人が居ないなんて。
「えっ!? だって、あんな上等なキッチンがあるのに!もったいない。料理部って料理を作る練習をする部活、じゃないんですか?」
料理部と聞いてイメージする活動は、そんな所だろう。さっき見た、あんなに立派なシステムキッチンが備え付けられてあるのに活用していないなんて、もったいなさすぎる。
「料理ができる人が居ませんから、教えられる人も居ないので……」
それで”研究”だけしているって。部員が参加しない訳がわかったような気がする。
「少し前は、調理を教えられる顧問が居たので。その顧問や習った部員が他の部員に教える、って事が出来ていたそうです。でも何年か前にその顧問も定年退職になったので、教えることが出来る人が居なくなりました」
「今の顧問はどうなんですか? 料理を教えられないのですか?」
「料理が出来ると言ってる先生は、既に他の部活の顧問をしているか、教師の仕事が忙しくて、部活動までは見きれないって断られました。今の顧問は料理が出来ないと言ってましたし、あまり積極的に参加される方でもないから、顧問としてお名前だけお借りしているような状態なんだよ」
う~んと、内心で唸る。顧問を引き受けたのなら料理ぐらい勉強してほしいと思う反面、確か部活の顧問は基本的にボランティアらしいと聞いたことがある。だから、興味や情熱がなければ、それも無理な話かと思った。
ただ、今の話を聞いていると教える人が居ないから部員も部活動に参加する意味を見出せないので、参加しないという事なのだろう。
原因は分かったから、解決する方法も思い浮かんだ。僕が基本的なことを教えて、一緒に調理を勉強できるような状態や環境に持っていければ、参加する部員は増えるかもしれない。
「あの、基本的なことなら僕が教えられるかもしれないですが、どうですか?」
「……ほんとに?」
「はい。基本的なこと、ぐらいなら」
そう言うと、部長はまた微妙な顔で隣に座っている桜という女性と顔を合わせた。そういえば、彼女も居たな。ほとんど気配がなかったので、少し忘れていた。
「あの、本当に料理できるんですか?」
「あまり期待されると困りますが、料理の基本なら教えることが出来ると思います」
部長は、顎に手を当てて考え込む。僕も、無言で様子を伺う。感覚だと、1分ほど待った位に、部長は口を開いた。
「記憶喪失ということで、覚えてないかもしれないけれど」
そう、語り始める部長。
「佐藤さんが入部した当初も同じように”料理が出来る”と言っていました。私と桜は少し期待して料理部に料理が出来る部員が入ると喜びました」
あれ? 実は料理が出来ないから部活動に参加しなかった、というわけじゃないのかな。しかし、部長の話には続きがあった。
「その後、料理を一品作ってもらったら、その、あまり良い出来ではなかったので、詳しく話を聞いてみると、カップ麺とか電子レンジにかけたものを”料理が出来る”と言っていたみたいで」
あ、なるほど。やっぱり佐藤優は料理が出来なかったみたいだ。そして、今の僕と同じように”料理が出来る”と言ったようだ。それで僕は、あまり信用出来ないということか。
それなら、信じてもらうには何か作ったものを食べてもらうしかないか。
「以前失敗したかもしれないですが、もう一度チャレンジさせてくれませんか?」
「……それじゃあ、何か作ってもらえますか。私と桜が食べて審査してみましょう。料理の研究は、バッチリこなしてきましたから。評価も厳しいですよ」
「はい、それでお願いします!」
張り切って椅子から立ち上がろうとした時、外が薄暗くなっている事に気付いた。話し込んで、かなり時間が経っていたらしい。
「っと、もうこんな時間ですね。今から料理するとなると、夜になってしまいます。なので、審査は明日ということで。よろしいですか?」
「そうですね。それで、いきましょう」
今日は時間も遅かったので、これで解散することになった。明日は学校が休みの日なので、お昼前に集合して料理の審査をしてもらう事になった。
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