女男の世界

キョウキョウ

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第3章 テレビ出演編

第26話 見知らぬ男

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 香織さんの運転する車に僕も乗せてもらい、学校から家へと帰る。

 最近の香織さんは、朝早くに家を出て、夜遅くに帰るというような生活を送っている。だから、疲れた表情をしていることも多くなった気がした。それなのに、今日も僕のせいで学校まで来てもらって、本当に申し訳ないなと思った。

 だけど、香織さんは気にしていないようだった。

「体調は、問題ない?」
「うん。僕は、大丈夫」
「学校とか大変じゃない?」
「全然。みんな優しいし、友だちもいるから」
「そっか。それは良かった」

 なかなか時間も合わず、会話する機会も少なかった。なので、車の中でする会話は最近の近況報告だった。今日学校で何をしたか、どんな勉強をしているのか、朝晩の料理の準備は大変じゃないか、とか。朝の出来事についても、少し話し合った。

「本当に危ない女性には、近寄っていったらダメよ。何されるか、分からないから」
「わかった。気をつけるよ」

 危機感のない僕に、香織さんはもっと注意しないとダメと、ちょっと説教されたりした。その言葉は、ちゃんと受け止めます。本当に気をつけないと。

 途中、買い物をするためスーパーに寄った。やっぱり車だと楽だなぁ、なんて思いながらも、この機会に色々と食材を買い込んだ。これで、美味しい料理が作れるだろう。香織さんには、美味しいものを食べて疲れを癒やしてほしい。

 他の姉妹にも、しっかりと栄養あるものを美味しく食べてほしい。僕の腕の見せ所だな。

 買い物を終えて、スーパーから出発する。しばらく走ったら見知った道に入って、そろそろ家の近く。あと数分で到着する、というところだろう。

「もうそろそろ着くわよ、降りる準備をして」
「うん、わかった」

 香織さんに言われて、後ろの席に置いてある買い物袋をチラッと見た。降ろす物を確認した。今日は、率先して動こう。少しでも、香織さんの負担を減らすために。

「わわっ!?」

 突然、車が急ブレーキをかけて止まった。シートベルトがお腹に食い込んで、痛い。香織さんが止めたのか。どうしたんだろう? 横の運転席を見ると、彼女は険しい顔をしていた。前方を睨むようにして見ている。

 僕も、そっちの方を見てみる。

 住宅街の中、数メートル先の自宅の前で男が一人立っているのが見えた。あれは、誰だろう。背は、それほど高くないな。僕と同じ、160cmぐらいだろうか。よく考えたら、こんな時間に男が一人で立っているのは珍しいのだろう。

 もう外は暗くなっているのに、電灯に照らされて、真っ白なワンピースを着ている事が分かる。その男は、僕たちの乗っている車に気付いた。ニコニコっと、こちらを見て楽しそうに笑っている。香織さんを見ている?

「ちょっと、車の中で待ってて」
「あ、うん」

 厳しい口調でそう言ってから、路肩に車を駐車してから降りていった香織さん。

 僕の返事も待たずに、バンッと大きな音を立てて車のドアを閉める。そして、男に近寄っていく。

 急な展開に、僕はついていけない。
 あの男の人は、誰だろう? 改めて考えてみるが、僕の知らない男性だった。
 香織さんの知り合いのようだけど。何故急に彼女は怒ったように機嫌が悪くなったのだろうか。

 男性と香織さんが話している声が聞こえてくるけど、内容までは分からなかった。香織さんが詰め寄り男性に何か言っている。だけど男性は、終始ニコニコしている。遠目から見ると、少し変な雰囲気だと思った。2人の表情が違いすぎる。

 香織さんが自宅のドアを開けた。そして次に、男性が僕達の自宅に入っていくのが見えた。香織さんは、車に戻ってくる。

 車から降りた時よりも、酷く疲れたような表情をしていた。眉間にシワを寄せていて、不機嫌さが伺える。無言のまま、車を再発進させた。家のガレージまで、黙々と運転をする香織さん。

「……」

 自宅のガレージに駐車が終わり、エンジンを切ったところで僕は質問してみた。

「あの、香織さん。今の男の人は、誰ですか?」

 家に入っていった男性は、香織さんの知り合いだと思うけど。しかも、家の中に入れるほどの関係。僕は見覚えが無いから、もしかすると香織さんの会社関係の人だろうかと予想した。
 
「えっと、その……」

 なにやら、言いづらそうにしている香織さん。あまり言いたくないような関係なのかな。さっきの様子を見ると、仲が良い感じではなかったように見えたんだけど。

 そもそも、香織さんのような優しい人が、あんなに拒否するような態度をとるのが珍しいと思った。

 しばらく考え込んだ後、香織さんは何かの考えを振り払うように首を振ってから、僕の顔を真っ直ぐ見る。そして、覚悟を決めたという表情で口を開いた。

「あの人は、私の元夫よ」

 つまり、あの男性は僕の元父親ということか。だけど見覚えがなかった。どうやら僕は、その事実を忘れてしまっていたらしい。
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