私は認めません~自分の愛を優先して第二王妃へ格下げすると言われたので、婚約を破棄してもらいます~

キョウキョウ

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第11話 元王太子の驕り※ケアリオット視点

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 王位継承権剥奪だって? そんな馬鹿な話あるものか。

 俺は、その知らせを報告した側近の顔を睨みつけながら、何度も確認した。間違いではないのかと。絶対にどこかで情報が混乱しているはずだ。そうでなければ、こんなことにはならないはずだ。

 俺は長男で王太子なんだ。生まれた時から王位継承者として育てられてきた。そんな簡単に剥奪されるはずがない。これは悪い冗談に違いない。

「殿下、確実な情報でございます。国王陛下ご自身が――」
「黙れ! そんなはずがあるか!」

 俺は側近の報告を遮って叫んだ。この無能な奴らが、何か間違えているんだ。

 そうだ、カーラと結婚式を挙げて、彼女を王妃として迎えるんだ。純白のドレスに身を包んだカーラが、俺の隣で微笑んでいる光景が目に浮かぶ。「ケアリオット様、愛しています」そう言って俺の腕にそっと手を添える彼女の美しい姿。栗色の髪が陽光に輝き、茶色の大きな瞳が愛おしそうに俺を見つめる。

 俺たちの愛は本物だ。政略ではない、真実の愛なんだ。誰もそれを理解してくれないが、俺とカーラだけは分かり合えている。

 だが今は、そんな美しい未来を夢見ている場合ではない。今すぐ父上に会って、この明らかな誤解を解かなければならない。

 俺は勢いよく立ち上がると、王の私室に向かった。



「陛下はご病気でお休み中でございます。面会は後日に……」


 王の私室の前で、侍従が慌てたように俺を制止しようとした。

「こちらも重要な話だ! 王位継承権の件で話がある!」

 王位を剥奪するなんて重大な判断をしたんだ。そんな大事なことを決めたのなら、それについて当事者である俺と話し合う時間ぐらいはあるはずだ。病気だって、それほど重篤ではないだろう。回復したって話も聞いている。

 ただ、疑問が残る。本当に病気なのか? それは俺を避けるための嘘じゃないのか。もしかして、誰かが父上に讒言して、俺を陥れようとしているのではないか。

 それとも、病気で正常な判断が下せなくなっているのではないか。ならば早く、その間違った判断を正さなければいけない。このままだと、間違ったまま事態が進んでしまう。

 とにかく、俺が直接話し合わなければ事態は好転しそうにない。動かなければ。

「邪魔するな!」

 大臣や侍従の制止を乱暴に振り切って、俺は扉を勢いよく開け放った。

「これは一体、どういうことですか!?」

 父上は寝台に横になっていた。顔色が青白く、以前よりも頬がこけているが、今はそんなことより俺の話だ。父上の体調なんて今は二の次。俺が王太子の地位を不当に奪われそうになっているんだから、それに比べれば些細な問題だ。

「ケアリオットか……」

 父上は身体を起こそうとして、激しく咳き込んだ。大臣たちが慌てて駆け寄ろうとするが、俺は構わず続けた。この程度の咳なら、話すのに支障はないはずだ。

「王位継承権剥奪だなんて、そんな勝手な話は聞いていません! 俺が長男なのに、俺が一番なのに、そんなこと許されるはずないじゃないですか!」

 俺の声は部屋中に響いた。

「陛下は、お身体が…」
「ええい! 今は、そんなことより俺の話を聞いてください!」

 俺は大臣の心配そうな言葉を遮った。父上が少し咳き込んでいるが、それよりも先に話し合うことが必要だ。ちょっと説明すれば、必ずわかってくれる。俺は王太子なんだから。

「……ケアリオット」
「っ!」

 父上の声は低く、威厳に満ちていた。病床にあっても、紛れもなく国王としての威厳を漂わせている。

「ならば、改めてワシの口から伝えよう。お前の王位継承権を剥奪する。王宮からも出ていってもらう」
「そ、そんな……!」

 直接聞かされると、やはりショックだった。いや、でも、これは間違った判断のはずだ。説明すれば間違いを理解して、撤回してもらえるはずだ。

「準備する時間は与えてやる。生活できるよう屋敷も用意してやる。今後は静かに暮らしていくと約束すれば、不自由のない生活だけは保証してやろう」
「そ、そんなもの……」

 まるでそれが決定事項のように告げられる。だから、そもそもが間違いなんだから。俺は必死に抗議しようとした。

「どうしてですか! 俺が何をしたと言うんですか!」
「お前が、ミュリーナ嬢との婚約を破棄したからだ」
「は?」

 思いがけない名前に唖然とする。どうして彼女との婚約を破棄することが王位剥奪に繋がるのか、全く理解できない。

「婚約相手がいなくなったから、ってことですか? でも俺には、カーラがいるのに、ミュリーナなんて必要ないじゃないですか!」

 俺の運命の相手はミュリーナではなく、カーラなんだ。この純粋で真実の気持ちを、どうして誰も理解してくれないのか。政略結婚よりも、真実の愛の方が大事に決まっているじゃないか。

「それに、第二王妃にするという提案もしました。それを拒否したのは彼女の方です」

 俺はただ切り捨てるのではなく、なんとか両立させる道も提示したのに。それを拒否したのは、あの女の方だ。

「そんなこと、許されるわけがないだろう」

 父上は呆れた表情で俺を見た。まるで救いようのない愚か者を見るような、軽蔑の込もった目だった。

「そ、それなら! ミュリーナとの婚約破棄は拒否します! 向こうから言ってきたことですから、俺が受け入れなければ実現しないはずです!」

 カーラを第一王妃にしてやれないのは悔しいが、認められないのであれば仕方ない。とりあえず王太子の地位を守ることが最優先だ。俺は必死に食い下がった。

「それも無理だ。すべての手続きが既に終わっている」
「そんな、いつの間に……」
「それにもう彼女には、新しい婚約相手がいる」
「は?」

 再び信じられない言葉を聞いて、俺は愕然とした。

「嘘です! そんな話、俺は何も聞いていません!」

 怒りが込み上げてくる。なんで勝手に、そんな重要なことを決めるのか。俺が知らないうちに、婚約するなんて話が進んでいるなんて。

「嘘などではない。全て事実だ。そして、お前とはもう、なんの関係もないだろう。婚約を破棄したんだから、彼女に関わろうとするのはやめろ」

 父上の目が鋭く光った。

「もしそれを無視すれば、ワシは許さん。何かすれば、その時はわかっているであろうな?」
「ぐっ!?」

 背筋に冷たいものが走った。とんでもない威圧感が俺を押し潰した。これは本当にまずい。逆らったら、命に関わる事態になりかねない。俺でも理解できるほどの、圧倒的で恐ろしい威圧感だった。

 だけど、ここで負けていられない。だって、間違っているのは彼らの方。

「お、お願いします! 王位継承権剥奪を撤回してください! 俺は王太子なんです! 生まれた時からずっと、王位継承者として育てられてきたんです!」

 俺は必死に懇願した。でも、父上は首を横に振るだけだった。

「もう決まったことだ。この決定は覆らん。期日までに王宮から出ていけ」

 その言葉に、議論の余地がないことを思い知らされた。

 結局、俺は引き下がるしかなかった。王宮から出て行けと言われた期日まで、もうあまり時間がない。居座ることは許されない。

 自室に戻る長い廊下で、俺の心は怒りで煮えくり返っていた。

 どうして、こんな理不尽なことになってしまったのか?

 きっと父上が間違っているんだ。病気で正常な判断ができなくなっているに違いない。理不尽すぎる。

 それに、俺の代わりに王太子に据えられたという弟のアルディアン。今まで大人しく影に隠れていた奴が、急に動き出した。これは絶対に、俺を陥れるための陰謀だ。今まで無害を装って大人しくしていたのも、機会を狙っていたからに違いない。狡猾で卑怯な奴め。

 そして……、元婚約相手のミュリーナだ。

 あの女が素直に第二王妃の提案を受け入れていれば、こんなことにはならなかった。俺とカーラの純粋な愛を理解しようともしなかった。それどころか、勝手に新しい婚約相手まで見つけて、俺への当てつけのように振る舞っている。

 絶対に許せない。

 カーラは何も悪くない。彼女は純粋で、俺を心から愛してくれている無垢な女性だ。悪いのは周りの連中だ。特に、ミュリーナとアルディアンは絶対に許せない。あいつらが結託して、俺を貶めたんだ。

 こんなことで終わってたまるか。

 俺は王太子なんだ。生まれた時からずっとそうだった。それを不当に奪われて、黙っていられるわけがない。

「どうされたのですか、ケアリオット様?」

 部屋の扉の前で、カーラの声がした。彼女だけは、俺の味方でいてくれる。

「カーラ……」

 俺は扉を開けて、彼女を部屋に招き入れた。彼女の茶色の瞳には心配の色が浮かんでいる。

「どうされましたの? とても辛そうなお顔を……」
「父上が、俺の王位継承権を剥奪すると言ってきた」
「まあ! それは、本当ですか?」
「ああ。いきなりそう言われた」
「そんな、理不尽な……」

 カーラは驚いたような表情を見せたが、その瞳の奥で一瞬、何か別の感情が閃いたような気がした。でも、俺の目には彼女の心配だけが映っている。

「でも、大丈夫だ。いつか必ず、この屈辱を晴らしてやる」

 いつか必ず、王位を取り戻してやる。そして、ミュリーナとアルディアンには、それ相応の報いを受けてもらう。絶対に。
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