奪った後で、後悔するのはあなたです~私から婚約相手を奪って喜ぶ妹は無能だった件について~

キョウキョウ

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第30話 ツギハギの成果※イザベラ視点

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 自室の机に、ロデリックの書斎から持ち出した資料を広げる。膨大な量。何回分ものパーティーの計画書。

 一つ一つ、丁寧に読み込んでいく。

 この回の装飾のイメージが素敵。スケジュールが詳細に書かれている。料理の手配については別の回の方が良さそう。スタッフへの指示は、この回のものが一番緻密。

 異なる回の資料から、良い部分を抽出する。全てを組み合わせて、一つの計画書に仕上げていく。

 最高の装飾案、最適な料理手配、完璧なタイミング。全ての良い部分を選んで、理想的な私の計画書を作り上げる。

 お姉様の字を、私の字に。お姉様の名前を、私の名前に。全てを書き換えて、私のものにする。

 自分用に書き直し、整理する。

 時間はかかった。苦労したけれど、何とか完成した。

 机の上に置かれた、分厚い計画書。これで、完璧なパーティーが開ける。

 疲れたけど、希望に満ちている。達成感が胸を満たしている。これがあれば、私も完璧になれる。



 新たな私の計画書を完成させた翌日。それをスタッフに配布した。

 今までにない、詳細さ。

 受付の手順、馬車の誘導方法、料理の配膳順序、演奏のタイミング。全てが細かく記されている。想定されるトラブルと、その対処法まで書かれている。

 スタッフたちは、資料を手にとって中身を確認すると驚いた様子だった。

「これは……とても、わかりやすいです」

 年配のスタッフが、感心したように頷く。

「以前より、ずっと明確ですね」

 別のスタッフも、ページをめくりながら言う。

「これなら、スムーズに作業を進められそうです」
「質問する必要が、ほとんどありません」
「全ての手順が、細かく書かれていますよ」
「想定されるトラブルまで、記載されている」

 反応の良さに、私も驚いた。これが、完璧な計画書の威力。

 準備は、驚くほど順調に進んだ。前回までのような混乱もなく。

 スタッフが計画書通りに動いている。私が細かい指示を出す必要がない。質問も、ほとんど来ない。トラブルの予兆も、全く見えない。

 受付の準備、会場の装飾、料理の手配、演奏の打ち合わせ。全てが、計画書通りに進んでいく。スムーズに、滞りなく、完璧に。

 これなら、安心して開催できる。

 今回こそ、完璧を。

 前のような緊張感は、なかった。不安も、ほとんどない。なぜなら、私の手元には完璧な計画書があるから。

 失敗するはずがない。



 新たな計画書で迎えたパーティー当日。私は、自信を持って会場に立っていた。

 事前準備は完璧に整っている。装飾は美しく配置され、料理は厨房で最終調整中。演奏家たちも、スタンバイしている。スタッフも、しっかり配置している。全員が、計画書を確認して自分の役割を理解している。

 パーティーが進行している間、私は優雅に振る舞うだけでいい。

 指示を出す必要がない。会場中を駆け回る必要もない。慌てる必要もない。これが本来あるべき姿。これが、主催者としての正しいあり方。

 優雅に立ち、優雅に微笑み、優雅に招待客を迎える。それが、主催者の仕事。

 招待客が到着し始める。受付は、スムーズだった。

 名簿確認も、待たせることなく完了する。スタッフが手際よく対応して、参加者に笑顔で接している。

 馬車の誘導も完璧。渋滞も起きない。参加者を待たせることもない。前回のような混乱は、どこにもない。

 会場に案内された招待客たちは、穏やかな表情で会話を始めた。会場を見て、感心したような声を上げる人もいる。

「今回は、落ち着いていますね」
「前回より、ずっと良い雰囲気ですわ」

 そんな声が、聞こえてくる。

 料理の配膳が始まる。順序も正確。タイミングも完璧。前回のような失敗はない。

 演奏も、スケジュール通りに始まった。会話を邪魔することなく、自然に場を盛り上げている。参加者たちは、音楽に耳を傾けながら、楽しそうに会話を続けている。

 参加者同士の会話も、弾んでいる。笑顔が、会場に溢れている。誰も不快そうな表情をしていない。誰も、早く帰ろうとしていない。

 慌てなくていい。会場中を走り回らなくていい。スタッフに細かい指示を出さなくていい。

 これが私の望んでいたパーティー。会場内の様子を眺めて、私は満足感を味わっていた。



 パーティーが無事に終わって、今回の評価が届き始めた。

 今回は、問題なく進行しましたね。

 問題ない。そう、問題はなかった。

 とても無難なパーティーでした。

 無難。それは、つまり、失敗していないという意味。受け入れるべき評価。

 このレベルを維持できれば、十分でしょう。

 十分。そう、十分だった。批判されるようなことは、何もなかった。

 前回より、ずっと良かったですよ。
 ようやく、安定してきましたね。
 特に問題は、ありませんでした。

 そんな意見が続く。批判は、されなかった。トラブルも、なかった。今回こそは、確かに成功したと言えるかもしれない。

 でも。

「素晴らしい」とは、言われない。「完璧」という言葉は、ない。「見事」「圧巻」という称賛も、ない。「無難」「十分」「問題ない」

 それは、及第点という意味。そんな意見ばかり。合格だけど、優秀ではない。私の求めていた「完璧」という称賛では、ない。

 胸の中に、複雑な感情が渦巻く。満足できない。

 これも、違う。私が欲しかったのは、こんな評価じゃない。

 でも、前進はした。失敗しなかったことは大きい。

 「前回よりマシ」「頑張っている」という哀れみの言葉から、「問題ない」「十分」という評価に変わった。

 ようやく、前に進めた気がする。このやり方を続けていけば。いつか完璧な評価を得られるかも。

 小さな、でも確かな希望。



 そんな時だった。社交界で、とある噂が流れ始めたのは。

 軍人貴族のパーティーが、素晴らしかったらしい。そんなことが話題になっているらしい。

 今まで、軍人貴族のパーティーが注目されることなんて、なかった。

 質素で、地味。華やかさもなく、洗練されていない。今まで社交界では、話題にもならない存在だったはず。見下されていた。

 それが今になって、急に注目されているらしい。

 社交界では今、そんな話題で持ちきりだった。

「いま一番人気があるのは、リーベンフェルト家のパーティーだそうよ」
「文官貴族と軍人貴族、両方が楽しめる新しい形式だとか」
「画期的な試みだって、評判よ」
「今までにない、革新的なパーティーだったみたい」
「私も参加してみたい!」

 そんな言葉が飛び交っている。

 画期的? 軍人貴族のパーティーが?

 しかも、リーベンフェルト家って。つまり。お姉様が新たに婚約した相手の家? 軍人貴族の家に行ったって話だけど、もしかして。

 嫌な予感が、胸を這い上がってくる。

 主催者について調べた。リーベンフェルト家の新しい奥様。元アルトヴェール家のセラフィナ様。

 その名前を聞いた瞬間、私の頭の中で何かが沸騰し始める。

 なんで、こんなタイミングで! 私が、ようやく前に進み始めた時に! ようやく希望を持てた時に!

 まるで嫌がらせのように、お姉様の成功の噂が流れてくる。

 お姉様は、もう終わったはずなのに。

 リーベンフェルト家に行って、終わったはずなのに。軍人貴族の家で、社交界から離れたはずなのに。

 なんで、また成功しているの!

 なんで、まだ注目されているの!

 これから私が注目されていくはずなのに。

 お姉様は、私を邪魔するの!?

 三回目のパーティーで、やっと及第点をもらえた。やっと、批判されない程度になった。

 お姉様は、「画期的」「素晴らしい」と称賛されている。

 私は、三回目でやっと及第点。

 一度退いたはずのお姉様は、再び話題になるぐらいの大成功。

 しかも、「画期的」だなんて。今までにない、新しい試みだなんて。許せない。

 このままでは、終われない。

 「無難」なんかで、満足できない。

 お姉様を、超えなければ。

 もっと、もっと完璧にならなければ。

 次は、もっと大きなパーティーを。

 もっと注目される、完璧なパーティーを。

 お姉様が「画期的」と言われるなら、私はそれを超える。絶対に。
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