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第45話 地獄の結婚生活※イザベラ視点
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こんな田舎に送られるなんて、信じられない。
馬車から降りた瞬間、私の目に映ったのは、質素で地味な屋敷だった。
灰色の石壁、小さな窓、装飾の欠片もない玄関。華やかさなんて、どこにもない。社交界の輝かしいパーティー会場とは、まるで別世界。あれほど煌びやかだった公爵家の本邸とも、比べ物にならない。
「私が、こんな場所で暮らすなんて……」
呟いた私の声は、誰にも届かない。
「ちっ!」
私の横に立つロデリックは、苛立たしげに舌打ちして、不機嫌そうな態度で先に屋敷の中に入っていった。背中には拒絶の意思がありありと表れている。
貧相な使用人に案内されて、私も屋敷の中に入る。玄関ホールは薄暗く、古臭い家具が並んでいる。壁には安物の絵画が数点。使用人たちの服装も地味で、華やかさの欠片もない。
質素で、暗くて、息が詰まりそう。天井は低く、廊下は狭い。カーテンは色褪せ、床の絨毯はところどころ擦り切れている。
まるで、囚人を捕らえておく牢獄のよう。
部屋に案内されたとき、私は愕然とした。
狭い。家具は最低限。窓は小さく、外の景色も田園風景だけ。ベッドは質素で、ドレッサーも古びている。化粧品を並べるスペースすら、十分にない。
「こんな部屋で、どうやって過ごせっていうのよ……」
使用人は無表情に一礼して去った。冷たい。
生活している間ずっと、使用人たちの視線を常に感じる。
監視されている。
外出の自由はなく、手紙も全て検閲される。屋敷を抜け出すことは許されない。扉の外には常に誰かが立っていて、私の動きを見張っている。
公爵は言っていた。
「反省すれば戻してやる。役職も用意する」
本当かしら? 信じられない。
反省するって、どうすれば。何をどう反省すればいいの。具体的な条件も、期限も決まっていないのに、どうしろっていうのよ。
もしかして、ずっとここに閉じ込めるつもり? ああいって騙したんじゃないの? いつか戻れる、という希望を与えるだけ与えて、そのつもりはないんじゃ。
そして何より許せないのは、ロデリックと正式に結婚させられたことだわ。
家督継承の候補から外された男。もう公爵の当主になることはない男。何の価値もない男。なんで、こんなことになったの。
私は公爵夫人になるはずだったのに。華やかな社交界で、みんなの羨望を集めるはずだったのに。会場の中心に立って、最も美しい衣装を身に纏い、最も豪華な宝石を付けて、誰もが振り返るような、そんな存在になるはずだったのに。
それなのに、今の私は、田舎の屋敷に閉じ込められた、ただの「妻」。
食事の時間になると、ロデリックと顔を合わせてしまう。
部屋は別々だけれど、屋敷が小さいから出会ってしまう。避けられない。食事の時間も別々にしてほしいのに、その要望は聞いてもらえない。
一緒に食事を取るようにという指示があるらしい。
なんで毎回、こんな男と顔を合わせないといけないのよ。
テーブルを挟んで向かい合う私たちは、一言も会話を交わさない。ただ、冷たい視線だけが交差する。ロデリックの目は憎しみに満ちている。私だって、同じ目で見返してやる。
もちろん料理は質素で、味気ない。使用人たちも最低限の世話しかしない。誰も私を気遣ってくれない。
運悪く顔を合わせて、会話が始まってしまえば、お互いに文句を言い合う日々。
「お前のせいで、家督を失った」
ロデリックが吐き捨てるように言う。
「あなたが助けてくれないからでしょう!」
私も負けずに言い返す。
「お前が嘘をついたからだろう!」
「あなたが勝手に婚約破棄したくせに!」
「俺は被害者だ! お前に騙されたんだ!」
「私は何も悪くない! 私だって被害者よ!」
同じやり取りを、何度繰り返したか分からない。互いに憎み合い、責任をなすりつけ合う日々。いつまで経っても、平行線のまま。
私が涙を流しても、ロデリックは冷笑するだけ。
「もう通用しない」
「その演技は見飽きたぞ」
「本当の涙なんて、一度も流していないだろう」
彼の冷たい声が次々と、胸に突き刺さる。
ひどい。ひどすぎる。
この涙は嘘じゃない。私は本当に悲しいのに。こんな境遇に追い込まれて、本当に辛いのに。なんで、分かってくれないのよ。
使用人たちも同じだ。誰も私を助けてくれない。味方なんて、どこにもいない。
ちょっとした頼み事をしても、無表情に「できません」と言われるだけ。何か要望を出しても、「許可が下りていません」と断られる。
なんで。なんで、こんなことに。
私は被害者なのに、なんで私だけがこんな目に遭わないといけないのよ。
私がちょっと、お姉様のアイデアを横取りしただけなのに。お姉様は、ずっと成功してきたんだから。ちょっとぐらい、妹の私におこぼれを与えてくれてもいいじゃない。今まで、そうやって生きてきたんだから。なんで今回だけ、ダメなのよ!
夜、暗い部屋で一人、過去を思い出す。
社交界でチヤホヤされていた日々。あの頃は、みんなが私を賞賛してくれた。私は中心だった。主役だった。綺麗な衣装を着て、美味しい料理を食べて、素敵な音楽に囲まれて。
ロデリックだって、あの頃は優しかった。私に微笑みかけてくれた。私の涙に同情してくれた。私の言葉を信じてくれた。
失敗してしまい、どんどん失っていった。
今は、誰も褒めてくれない。何もかも制限されている。誰も私を見てくれない。
ここには何もない。お姉様から奪うものも、盗むものも、手に入れるものも。
むしろ、私が奪われた側になった。全てを奪われた。華やかな衣装も、豪華な食事も、賞賛の声も、取り巻きたちの笑顔も。
素敵な男性が、助けに来てくれないかしら。
私を見初めて、ここから連れ出してくれる人。ロデリックとは違う、優しくて頼りになる殿方。本当に私を愛し、大切にしてくれる、そんな素敵な人。
でも、そんな出会いはない。監視下の生活で、逃げることもできない。手紙すら自由に書けない。誰にも助けを求められない。
いつまで、こんな生活が続くの。反省のための時間だと言われても、終わりの期限も聞かされていないのに。
本当に戻れるの? このままずっと、私はこんな場所で、最悪な相手と過ごさないといけないなんて。
嫌よ、絶対に嫌。
考えたくない。考えたくないけれど、そんな可能性が頭をよぎる。
こんなはずじゃなかった。
私は、もっと輝いているはずだった。もっと、賞賛されるはずだった。もっと、幸せになれるはずだった。
暗い未来しか見えない。終わりの見えない、地獄の日々が続く。
馬車から降りた瞬間、私の目に映ったのは、質素で地味な屋敷だった。
灰色の石壁、小さな窓、装飾の欠片もない玄関。華やかさなんて、どこにもない。社交界の輝かしいパーティー会場とは、まるで別世界。あれほど煌びやかだった公爵家の本邸とも、比べ物にならない。
「私が、こんな場所で暮らすなんて……」
呟いた私の声は、誰にも届かない。
「ちっ!」
私の横に立つロデリックは、苛立たしげに舌打ちして、不機嫌そうな態度で先に屋敷の中に入っていった。背中には拒絶の意思がありありと表れている。
貧相な使用人に案内されて、私も屋敷の中に入る。玄関ホールは薄暗く、古臭い家具が並んでいる。壁には安物の絵画が数点。使用人たちの服装も地味で、華やかさの欠片もない。
質素で、暗くて、息が詰まりそう。天井は低く、廊下は狭い。カーテンは色褪せ、床の絨毯はところどころ擦り切れている。
まるで、囚人を捕らえておく牢獄のよう。
部屋に案内されたとき、私は愕然とした。
狭い。家具は最低限。窓は小さく、外の景色も田園風景だけ。ベッドは質素で、ドレッサーも古びている。化粧品を並べるスペースすら、十分にない。
「こんな部屋で、どうやって過ごせっていうのよ……」
使用人は無表情に一礼して去った。冷たい。
生活している間ずっと、使用人たちの視線を常に感じる。
監視されている。
外出の自由はなく、手紙も全て検閲される。屋敷を抜け出すことは許されない。扉の外には常に誰かが立っていて、私の動きを見張っている。
公爵は言っていた。
「反省すれば戻してやる。役職も用意する」
本当かしら? 信じられない。
反省するって、どうすれば。何をどう反省すればいいの。具体的な条件も、期限も決まっていないのに、どうしろっていうのよ。
もしかして、ずっとここに閉じ込めるつもり? ああいって騙したんじゃないの? いつか戻れる、という希望を与えるだけ与えて、そのつもりはないんじゃ。
そして何より許せないのは、ロデリックと正式に結婚させられたことだわ。
家督継承の候補から外された男。もう公爵の当主になることはない男。何の価値もない男。なんで、こんなことになったの。
私は公爵夫人になるはずだったのに。華やかな社交界で、みんなの羨望を集めるはずだったのに。会場の中心に立って、最も美しい衣装を身に纏い、最も豪華な宝石を付けて、誰もが振り返るような、そんな存在になるはずだったのに。
それなのに、今の私は、田舎の屋敷に閉じ込められた、ただの「妻」。
食事の時間になると、ロデリックと顔を合わせてしまう。
部屋は別々だけれど、屋敷が小さいから出会ってしまう。避けられない。食事の時間も別々にしてほしいのに、その要望は聞いてもらえない。
一緒に食事を取るようにという指示があるらしい。
なんで毎回、こんな男と顔を合わせないといけないのよ。
テーブルを挟んで向かい合う私たちは、一言も会話を交わさない。ただ、冷たい視線だけが交差する。ロデリックの目は憎しみに満ちている。私だって、同じ目で見返してやる。
もちろん料理は質素で、味気ない。使用人たちも最低限の世話しかしない。誰も私を気遣ってくれない。
運悪く顔を合わせて、会話が始まってしまえば、お互いに文句を言い合う日々。
「お前のせいで、家督を失った」
ロデリックが吐き捨てるように言う。
「あなたが助けてくれないからでしょう!」
私も負けずに言い返す。
「お前が嘘をついたからだろう!」
「あなたが勝手に婚約破棄したくせに!」
「俺は被害者だ! お前に騙されたんだ!」
「私は何も悪くない! 私だって被害者よ!」
同じやり取りを、何度繰り返したか分からない。互いに憎み合い、責任をなすりつけ合う日々。いつまで経っても、平行線のまま。
私が涙を流しても、ロデリックは冷笑するだけ。
「もう通用しない」
「その演技は見飽きたぞ」
「本当の涙なんて、一度も流していないだろう」
彼の冷たい声が次々と、胸に突き刺さる。
ひどい。ひどすぎる。
この涙は嘘じゃない。私は本当に悲しいのに。こんな境遇に追い込まれて、本当に辛いのに。なんで、分かってくれないのよ。
使用人たちも同じだ。誰も私を助けてくれない。味方なんて、どこにもいない。
ちょっとした頼み事をしても、無表情に「できません」と言われるだけ。何か要望を出しても、「許可が下りていません」と断られる。
なんで。なんで、こんなことに。
私は被害者なのに、なんで私だけがこんな目に遭わないといけないのよ。
私がちょっと、お姉様のアイデアを横取りしただけなのに。お姉様は、ずっと成功してきたんだから。ちょっとぐらい、妹の私におこぼれを与えてくれてもいいじゃない。今まで、そうやって生きてきたんだから。なんで今回だけ、ダメなのよ!
夜、暗い部屋で一人、過去を思い出す。
社交界でチヤホヤされていた日々。あの頃は、みんなが私を賞賛してくれた。私は中心だった。主役だった。綺麗な衣装を着て、美味しい料理を食べて、素敵な音楽に囲まれて。
ロデリックだって、あの頃は優しかった。私に微笑みかけてくれた。私の涙に同情してくれた。私の言葉を信じてくれた。
失敗してしまい、どんどん失っていった。
今は、誰も褒めてくれない。何もかも制限されている。誰も私を見てくれない。
ここには何もない。お姉様から奪うものも、盗むものも、手に入れるものも。
むしろ、私が奪われた側になった。全てを奪われた。華やかな衣装も、豪華な食事も、賞賛の声も、取り巻きたちの笑顔も。
素敵な男性が、助けに来てくれないかしら。
私を見初めて、ここから連れ出してくれる人。ロデリックとは違う、優しくて頼りになる殿方。本当に私を愛し、大切にしてくれる、そんな素敵な人。
でも、そんな出会いはない。監視下の生活で、逃げることもできない。手紙すら自由に書けない。誰にも助けを求められない。
いつまで、こんな生活が続くの。反省のための時間だと言われても、終わりの期限も聞かされていないのに。
本当に戻れるの? このままずっと、私はこんな場所で、最悪な相手と過ごさないといけないなんて。
嫌よ、絶対に嫌。
考えたくない。考えたくないけれど、そんな可能性が頭をよぎる。
こんなはずじゃなかった。
私は、もっと輝いているはずだった。もっと、賞賛されるはずだった。もっと、幸せになれるはずだった。
暗い未来しか見えない。終わりの見えない、地獄の日々が続く。
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