奪った後で、後悔するのはあなたです~私から婚約相手を奪って喜ぶ妹は無能だった件について~

キョウキョウ

文字の大きさ
46 / 50

第46話 崩れ去った算段※ヴァンデルディング公爵視点

しおりを挟む
 田舎の屋敷に、ロデリックとイザベラの二人を送ってから半年が経過していた。

 二人の状況について定期的に報告を受けていた。執事が持参する書簡には、ロデリックとイザベラの様子が淡々と記されている。最初の頃は、まだ期待していた。時間が解決してくれるのではないか、と。若い二人だ。いずれ落ち着くだろう。そう思っていた。

 だが、その考えは甘かった。

 当初から算段があった。最悪の場合のプランと言ってもいい。たとえ夫婦関係が冷え切っていたとしても、子を成せばいい。その子を、アルトヴェール侯爵家の後継者候補として送り込む。

 エドガー・アルトヴェール侯爵との話し合いも、水面下で進めていた。侯爵家に男子がいないので、二人の子を迎える。そうすれば、将来的にヴァンデルディング家の血筋が侯爵家を継ぐことになる。

 けれど、その算段さえも成立しないほど、あの二人の関係は破綻していた。

 執事が書斎に入ってきたのは、ちょうど朝の執務を終えた頃だった。彼の表情は、いつにも増して疲れ切っている。目の下には隈ができ、肩が重そうに下がっていた。

「また、か」
「はい」

 執事は短く答えた。声には明らかな疲労が滲んでいる。

「また、言い争いでございます」

 毎週のように、同じ内容の報告だ。ロデリックとイザベラは、互いに責任をなすりつけ合っている。「お前のせいで」「貴方こそ私を」。食事の席でさえ、罵り合う。使用人たちに、互いの悪口を吹き込もうとする。味方を増やそうと必死なのだろうが、使用人たちは両者から距離を置くばかりだ。

「改善の兆しは?」
「全く、ございません」

 執事の声には、諦めが滲んでいた。

「現地の管理人から、報告がございました。使用人たちが、疲弊しているとのことです」
「疲弊?」
「はい。どちらの味方もしていないにも関わらず、両方から文句を言われる、と。監視役としての役割も、もはや限界のようです。このままでは、使用人が辞めてしまうと……」

 そこまで酷いのか。周囲にまで悪影響が広がっている。使用人が辞めれば、屋敷の管理ができなくなる。新たに人を雇えば、また金がかかる。

 これ以上放置すれば、とんでもない支障が出る。損失が拡大し続けている。

「分かった。報告、ご苦労」

 執事が退室した後、私は一人、書斎で考えた。
 
 一ヶ月後には、まだ期待していた。「時間が必要なのだろう」と。若干の甘さがあった。いずれ落ち着くだろう、という見通しを持っていた。環境に慣れれば変わるかもしれない。そんな希望的観測を抱いていた。

 三ヶ月後には、疑念が芽生えていた。「本当に改善するのか?」と。報告内容が全く変わらないことに、苛立ちを覚えた。それどころか、言い争いの頻度は増えている。内容も、より幼稚に、より感情的になっていたようだ。

 そして今、六ヶ月が経過した。

「……もう、無理だな」

 静かに呟いた。

 完全な諦めだった。期待していた未来から、大きく外れた。思い描いていた算段は、完全に崩れ去った。認めなければならない。判断を大きく誤った。息子を見誤った。イザベラを見抜けなかった。

 二人とも、貴族としての最低限の資質さえ持ち合わせていない。

 だからこそ、けじめをつけなければならない。

 家督継承の準備を進めている。幸いなことに、それなりに優秀な息子がいる。あの子は真面目で、実務能力も高い。領地経営にも関心を持ち、使用人たちからの評判も良い。彼ならば、ヴァンデルディング家を受け継がせても、心配は少ない。

 この問題を、次の世代へ引き継ぐわけにはいかない。清算された状態で継承させる。それが当主としての責任だろう。

 次代のために、禍根を断つ。

 立ち上がり、執務机の引き出しを開けた。そこには、アルトヴェール侯爵への書簡が用意されていた。既に下書きは済ませてある。何度も書き直し、言葉を選んだ。誠意が伝わるように、しかし毅然と。

 決断の時だ。



 数日後、アルトヴェール侯爵を公爵邸に呼んだ。

 水面下で進めていた話し合い——二人の子をアルトヴェール家の跡継ぎ候補とする計画——は、完全に白紙となった。現在の状況を説明して、二人を離婚させること、その後イザベラを引き取っていただきたいと告げた。

 侯爵は娘の不始末を自らの責任として受け止め、引き取ることを了承した。

 あの二人を同じ場所に置いておくことは、もはや不可能だ。

 エドガー・アルトヴェールは真摯な男だった。娘の罪を、自らの責任として背負う覚悟を決めていた。

 両家の当主が、それぞれの責任を取る必要がある。

 ならば、私も覚悟を決めねばならない。

 息子のことで、決着をつける。



 私は執務机に向かい、ある書簡を手に取った。既に手配は済ませてある。あとは、これを実行するのみだ。

 処分。

 重い言葉だ。だが、これが私の役目だ。

 ロデリックは、ヴァンデルディング家の跡取りとして機能しない。それどころか、家名を傷つけ、損失を拡大させ続けている。このまま放置すれば、次の世代にまで影響が及ぶ。

 それは、許されない。

 次代に、この問題を引き継ぐわけにはいかない。そのために処分する必要がある。

 私は書簡に封をした。そして、執事を呼んだ。

「これを、手配通りに」
「かしこまりました」

 執事は深く一礼し、書簡を受け取った。彼の表情には、何も浮かんでいない。ただ淡々と、命令を遂行するのみだ。長年仕えてきた執事は、この書簡の意味を理解している。それでも、何も問わない。それが、彼の忠誠の証だった。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...