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第1話
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「エヴリーヌ、君との婚約を破棄する」
婚約相手である公爵子息のアルフレッド様に呼び出された私は、彼が生活している屋敷に来ていた。そこで、いきなり私は婚約破棄を言い渡された。
事前に何も知らされていない。あまりに突然のことだったので、一瞬理解するのに遅れる。
婚約を破棄すると言われてから数秒後、ようやく何を言われたのかを理解した私は口を開いた。
「……なぜ、ですか?」
「お前は、優秀な妹のドゥニーズと比べて無能すぎるからだ」
「無能?」
私には、ドゥニーズという名の妹が居た。しかし、彼女と比べて無能と評価されるようなことは無いと思うのだが。アルフレッドが何を言っているのか、私には分からなかった。
妹と比べて、私が無能? 何を比較して言っているのか。
「あら。まだ、お話の途中でしたか?」
「いや、大丈夫だ。部屋に入ってきてくれ、ドゥニーズ。一緒に話そう」
「えぇ、わかりました」
婚約についての話し合いに、なぜ妹を巻き込んだのか。そもそもなぜ、この屋敷に居たのだろうか。ドゥニーズも、何の疑問もなく部屋の中に入ってきた。
色々と、理解が追いつかない。
部屋の中に、私の妹のドゥニーズがアルフレッドの両親たちと談笑しながら入ってきた。そんな彼女を見て、笑顔になるアルフレッド。完全に、彼女に惚れているようだった。なるほどね、と私は納得する。
「エヴリーヌお姉様、私がアルフレッド様の新しい婚約者になります。彼の両親も、既に了承済みのことです。なので、お姉様もつべこべ言わずに納得して下さいね」
「……」
アルフレッドの座っている席の隣に腰を下ろし、将来の公爵貴族夫人気取りで私のことを見下し、勝ち誇ったような表情を向けてくるドゥニーズ。
「ドゥニーズ……。また、ですか?」
また私のことを羨んで、私のものを奪い取ったのか。
昔から、羨ましいと思ったら強引にも奪い取るというワガママな一面があった妹。まさか、婚約者の相手まで奪ってくるとは予想外だったが。
「いいえ、違いますわ。アルフレッド様が、お姉様ではなく私のことを選んでくれたのです」
だから、奪ったワケじゃないということらしい。婚約破棄の責任も、自分じゃないと主張している。したたかな妹だった。
ただ、なぜアルフレッドが急に心変わりしたのか。どうやって根回しをしたのか。婚約の破棄だなんて、気楽にやって良いことではない。よっぽどの事情がなければ、普通は認められない。
突然何故、婚約破棄を言い渡してきたのか。その理由は、すぐに判明した。
「君が今までに主催をしてきた社交界で披露して評判だったアイデアの数々は、妹のドゥニーズから奪い取ったものらしいな」
社交界とは、貴族や上流階級の名家などの人々を集めて交流をする場だ。参加者に楽しんでもらうため、私は今までに色々なアイデアでパーティーを盛り上げてきた。参加者の評判も、かなり良かった。
もちろん、アイデアは私が考えたもの。妹から奪い取った、なんて事実は無い。
「ドゥニーズが温めていた斬新なアイデアを、お前は自分が主催したパーティーで、オリジナルだと言って披露していたらしいな。妹のアイデアを無断で使って、評価を得るなんて酷い女だ」
「私が、お姉様よりも先にアルフレッド様に提案をしたんですよ! それを、私からアイデアを奪って先に披露してしまった! これじゃあ私が、お姉様からアイデアを盗んだって言われちゃう……」
ドゥニーズが言ったことが、事実ではないか。
どのアイデアの事について言っているのか、私には分からなかった。
次に呼ぶ音楽隊に、新たな試みをやってみようと考えていたアイデアについてか。それとも、今までにない料理の提供方法か。他にも色々、前回のパーティーで試してみたことがあった。
私よりも先に提案したということは、おそらく私が日頃から思いついたことを書き出していたアイデアノートを、妹が盗み見たのだろう。
そもそも、時系列がおかしい。
先に考えていたというアイデアを、数日後に行ったパーティーで披露したと彼らは言う。けれども、ならば私はもっと以前から考えついていただろうに。どんな事でも準備をする期間が必要なのに、思いついたからといってすぐ出来るものでもないのになぁ。
妹やアルフレッドは、それを分かっていないのか。
「貴様のやっていたことは、妹の後追いにしか過ぎなかったということだ!」
「……アルフレッド様、一旦冷静になってから私の行動とドゥニーズの行動について考えてみて下さい」
「見苦しいぞ! 今まで優秀だと思っていたが、私のことを騙していたとはな!」
私が説明しようとすると、彼は顔を真っ赤にさせて怒った。話を聞こうとしない。これでは、説得は無理だ。
「ようやく、真実が明らかになりましたわね。私の真似事をするばかりのお姉様は、見ていて滑稽でしたわ!」
「……」
ドゥニーズが高笑いして、優越感に浸っていた。私の妹は、こんなにも愚かだったかしら。初めて知った彼女の一面に、私は困惑する。アルフレッドに婚約破棄されたことよりも、戸惑っているかもしれない。
「私との婚約破棄は、まだ正式に発表してませんよね?」
「あぁ、まだだ。しかし、すぐに全国の貴族たちが知ることになる」
「そうなれば、私がアルフレッド様の婚約者に戻ることはありませんが、よろしいのですか?」
「ふん! 必死だなエヴリーヌ。お前は、自分が無能だというのに公爵夫人の立場を奪われるのが気に入らないらしい。真実を知った今、誰も婚約してくれないと不安になっているようだな!」
そうじゃないんだけど。忠告しようとしても、アルフレッドは聞く耳を持たない。ここまで言われるのなら、もうどうでもいいかな。
「そうですか、分かりました。アルフレッド様、ドゥニーズと幸せに過ごせるように祈っております」
私は、妹のドゥニーズに婚約者のアルフレッドを奪われた。だけど、あまり気にはしていなかった。
婚約者として数年間一緒に過ごしてきた私の発言より、アルフレッド様は婚約相手の妹であるドゥニーズの言葉を信じていた。彼女のほうが、私よりも優秀だと信じていた。
その時点で私は、彼との婚約が破棄になってくれて良かったと思った。元婚約者となった人が、どうなろうが構わないと思えるようになっていた。
それよりも、妹のドゥニーズがどうするのか不安だった。
妹のドゥニーズは、分かっているのかな。奪い取るよりも奪った後の方が、色々と大変だということを。今まで何度も繰り返してきて、学んでくれただろうか。
いや、学んでいたのなら婚約相手を奪い取るなんてことはしないだろうな。
多分、なにか問題が起こるだろう。その時、姉である私に迷惑がかからないように注意してくれたら嬉しいのだけれど。
婚約相手である公爵子息のアルフレッド様に呼び出された私は、彼が生活している屋敷に来ていた。そこで、いきなり私は婚約破棄を言い渡された。
事前に何も知らされていない。あまりに突然のことだったので、一瞬理解するのに遅れる。
婚約を破棄すると言われてから数秒後、ようやく何を言われたのかを理解した私は口を開いた。
「……なぜ、ですか?」
「お前は、優秀な妹のドゥニーズと比べて無能すぎるからだ」
「無能?」
私には、ドゥニーズという名の妹が居た。しかし、彼女と比べて無能と評価されるようなことは無いと思うのだが。アルフレッドが何を言っているのか、私には分からなかった。
妹と比べて、私が無能? 何を比較して言っているのか。
「あら。まだ、お話の途中でしたか?」
「いや、大丈夫だ。部屋に入ってきてくれ、ドゥニーズ。一緒に話そう」
「えぇ、わかりました」
婚約についての話し合いに、なぜ妹を巻き込んだのか。そもそもなぜ、この屋敷に居たのだろうか。ドゥニーズも、何の疑問もなく部屋の中に入ってきた。
色々と、理解が追いつかない。
部屋の中に、私の妹のドゥニーズがアルフレッドの両親たちと談笑しながら入ってきた。そんな彼女を見て、笑顔になるアルフレッド。完全に、彼女に惚れているようだった。なるほどね、と私は納得する。
「エヴリーヌお姉様、私がアルフレッド様の新しい婚約者になります。彼の両親も、既に了承済みのことです。なので、お姉様もつべこべ言わずに納得して下さいね」
「……」
アルフレッドの座っている席の隣に腰を下ろし、将来の公爵貴族夫人気取りで私のことを見下し、勝ち誇ったような表情を向けてくるドゥニーズ。
「ドゥニーズ……。また、ですか?」
また私のことを羨んで、私のものを奪い取ったのか。
昔から、羨ましいと思ったら強引にも奪い取るというワガママな一面があった妹。まさか、婚約者の相手まで奪ってくるとは予想外だったが。
「いいえ、違いますわ。アルフレッド様が、お姉様ではなく私のことを選んでくれたのです」
だから、奪ったワケじゃないということらしい。婚約破棄の責任も、自分じゃないと主張している。したたかな妹だった。
ただ、なぜアルフレッドが急に心変わりしたのか。どうやって根回しをしたのか。婚約の破棄だなんて、気楽にやって良いことではない。よっぽどの事情がなければ、普通は認められない。
突然何故、婚約破棄を言い渡してきたのか。その理由は、すぐに判明した。
「君が今までに主催をしてきた社交界で披露して評判だったアイデアの数々は、妹のドゥニーズから奪い取ったものらしいな」
社交界とは、貴族や上流階級の名家などの人々を集めて交流をする場だ。参加者に楽しんでもらうため、私は今までに色々なアイデアでパーティーを盛り上げてきた。参加者の評判も、かなり良かった。
もちろん、アイデアは私が考えたもの。妹から奪い取った、なんて事実は無い。
「ドゥニーズが温めていた斬新なアイデアを、お前は自分が主催したパーティーで、オリジナルだと言って披露していたらしいな。妹のアイデアを無断で使って、評価を得るなんて酷い女だ」
「私が、お姉様よりも先にアルフレッド様に提案をしたんですよ! それを、私からアイデアを奪って先に披露してしまった! これじゃあ私が、お姉様からアイデアを盗んだって言われちゃう……」
ドゥニーズが言ったことが、事実ではないか。
どのアイデアの事について言っているのか、私には分からなかった。
次に呼ぶ音楽隊に、新たな試みをやってみようと考えていたアイデアについてか。それとも、今までにない料理の提供方法か。他にも色々、前回のパーティーで試してみたことがあった。
私よりも先に提案したということは、おそらく私が日頃から思いついたことを書き出していたアイデアノートを、妹が盗み見たのだろう。
そもそも、時系列がおかしい。
先に考えていたというアイデアを、数日後に行ったパーティーで披露したと彼らは言う。けれども、ならば私はもっと以前から考えついていただろうに。どんな事でも準備をする期間が必要なのに、思いついたからといってすぐ出来るものでもないのになぁ。
妹やアルフレッドは、それを分かっていないのか。
「貴様のやっていたことは、妹の後追いにしか過ぎなかったということだ!」
「……アルフレッド様、一旦冷静になってから私の行動とドゥニーズの行動について考えてみて下さい」
「見苦しいぞ! 今まで優秀だと思っていたが、私のことを騙していたとはな!」
私が説明しようとすると、彼は顔を真っ赤にさせて怒った。話を聞こうとしない。これでは、説得は無理だ。
「ようやく、真実が明らかになりましたわね。私の真似事をするばかりのお姉様は、見ていて滑稽でしたわ!」
「……」
ドゥニーズが高笑いして、優越感に浸っていた。私の妹は、こんなにも愚かだったかしら。初めて知った彼女の一面に、私は困惑する。アルフレッドに婚約破棄されたことよりも、戸惑っているかもしれない。
「私との婚約破棄は、まだ正式に発表してませんよね?」
「あぁ、まだだ。しかし、すぐに全国の貴族たちが知ることになる」
「そうなれば、私がアルフレッド様の婚約者に戻ることはありませんが、よろしいのですか?」
「ふん! 必死だなエヴリーヌ。お前は、自分が無能だというのに公爵夫人の立場を奪われるのが気に入らないらしい。真実を知った今、誰も婚約してくれないと不安になっているようだな!」
そうじゃないんだけど。忠告しようとしても、アルフレッドは聞く耳を持たない。ここまで言われるのなら、もうどうでもいいかな。
「そうですか、分かりました。アルフレッド様、ドゥニーズと幸せに過ごせるように祈っております」
私は、妹のドゥニーズに婚約者のアルフレッドを奪われた。だけど、あまり気にはしていなかった。
婚約者として数年間一緒に過ごしてきた私の発言より、アルフレッド様は婚約相手の妹であるドゥニーズの言葉を信じていた。彼女のほうが、私よりも優秀だと信じていた。
その時点で私は、彼との婚約が破棄になってくれて良かったと思った。元婚約者となった人が、どうなろうが構わないと思えるようになっていた。
それよりも、妹のドゥニーズがどうするのか不安だった。
妹のドゥニーズは、分かっているのかな。奪い取るよりも奪った後の方が、色々と大変だということを。今まで何度も繰り返してきて、学んでくれただろうか。
いや、学んでいたのなら婚約相手を奪い取るなんてことはしないだろうな。
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