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第9話 ※バティステト視点
※※バティステト視点※※
「わざわざ来てもらって、すまないね」
「いえ。問題ないです」
俺はエヴリーヌの実家を訪れて、彼女の父親と対面していた。様々な報告や相談、今後について話し合うために。
今回が初めて、ではない。エヴリーヌとの婚約が決まってから、既に何度か会談は行っていた。毎回、彼女の実家で。だが今日は少し珍しくて、俺と彼女の父親の2人だけ。エヴリーヌは居ない。
貴族の階級としては対等だけれど、向こうのほうが歳上だった。なので気を使って対応するようにしている。エヴリーヌの父親でもあるから。
「あの子は、ちゃんと役に立っているかな?」
「えぇ。とても、助かっています」
「それは良かった」
「今度は、エヴリーヌも一緒に連れて来ます」
「楽しみにしているよ」
会談を終えると、彼女の父親に別れを告げて俺は部屋を出る。執事が屋敷の外まで案内してくれるというので、彼の後について黙々と廊下を歩いていた。
「あっ!」
「ん?」
誰かの驚く声が聞こえてきた。振り向くと、エヴリーヌによく似た見た目の女性が走り寄ってくる。俺の方へ真っ直ぐと、接近してきた。あれはエヴリーヌの妹だろうと、すぐに分かった。顔は少し似ているが、服装や化粧の感じが違っていたから。
彼女とは、初めて顔を合わせることになる。話には聞いていたけれど、まだ会ったことが無かった。
「こんにちは。エヴリーヌお姉様の婚約相手である、バティステト様ですよね?」
「……あぁ、そうだ」
気安く話しかけられた。普段なら対応するのも面倒で無視するような相手だけど、エヴリーヌの妹だから最低限だけ反応しておく。
「私、妹のドゥニーズです。よろしくおねがいしますね!」
「お、お嬢様……!」
挨拶が終わったら、別に話すこともない。さっさと立ち去ろうとした時に、彼女がグイッと体を寄せてくる。馴れ馴れしく、媚びるような雰囲気で。近くで控えていた執事も、止めようとするが無視する妹。
「あっ」
接触しないように俺は、サッと後ろへ下がった。彼女は驚いて、行き場を無くした手を空中でブラブラとさせている。
「もう! なんで避けちゃうんですか? せっかくなので、仲良くしましょうよ」
「先に言っておくが」
「え?」
「別に、お前と仲良くしようとは一切考えていない」
「ひっ!?」
少し強めに睨んだだけで、彼女は短く悲鳴を上げると尻餅をついた。軟弱者だな。彼女の瞳を見て、すぐに理解した。媚びて、ウソを付くような者の目だ。部下として配属されてきたなら、真っ先に修正が必要な人間だった。
母親を早くに亡くして、甘やかされて育ってきたと聞いている。同情するべき点はあるけれど、それでも酷い。エヴリーヌの妹とは、とても思えない酷さだ。
「申し訳ない、怖がらせてしまったか。女性の扱いには慣れていなくてな」
「……」
目の前で倒れている彼女が、すがるような目で俺を見てくる。何を求めているのか分かる。だけど、手は差し伸べない。無駄で面倒な絡み合いは、勘弁してもらいたいから。
たとえ、エヴリーヌの妹だったとしても。
「君、彼女の世話をしてやってくれ。私は、このまま帰らせてもらう」
「え? あ、は、はい!」
案内をしてくれていた執事に後始末を任せて、俺は屋敷から出た。待機させていた馬車に乗って、すぐに自宅へ帰る。
このまま俺の存在を恐れて、関わり合いを避けてくれたら良い。俺に必要なのは、エヴリーヌだけだから。
「おかえりなさい、バティステト様」
「ただいま」
「お父様との話し合い、問題はありませんでしたか?」
「あぁ。何も問題は無かった」
出迎えてくれたエヴリーヌに、必要なことだけを報告する。彼女の父親との会談は何事もなく、無事に終わったと伝えて安心させる。
「任せてしまって、申し訳ありません。本来なら私も一緒に行くべきなのですが」
「問題ない。今日の話し合いは君が居なくても差し支えない内容だったから。それに君には、パーティー開催の準備の方に専念してもらいたい」
「ありがとうございます。パーティーの準備は任せて下さい」
パーティー開催の日が迫ってきている。エヴリーヌが屋敷の使用人やメイドたちを指導したり、作業を指揮して順調に準備を進めていた。社交界についてのノウハウが無いフィヨン家にとっては、とても頼もしい存在だった。
「そうだ!」
「ん? どうした」
何かに気が付いて、エヴリーヌはパンと1度手を叩くと紙の束を取り出してきた。それを、俺の目の前に差し出す。
「バティステト様、これを」
「これは?」
「今回の参加していただく方々の資料です。目を通しておいて下さい」
「わかった。確認しておく」
「パーティーの最中、どういった人物なのか把握しながら万全な接待をするために、しっかりと覚えておいて下さい。とても大事なことですから」
「……なるほど。覚えよう」
大量の情報がまとめられた資料を手渡された。名前と年齢はもちろん、家格や交流関係、食べ物や娯楽の趣味趣向に最近没頭しているモノなど。それが百名分ほど。
この量の情報を覚えないといけないのか。なかなか過酷で、大変そうだった。
けれど彼女は全力で、パーティー開催の事前準備を進めてくれていた。俺が彼女に指揮を任せたから。
ならば俺も、本気で挑まないと失礼だろうな。そう思った俺は、彼女の指示通りにパーティー参加者たちの情報を全て頭に叩き込んだ。
「わざわざ来てもらって、すまないね」
「いえ。問題ないです」
俺はエヴリーヌの実家を訪れて、彼女の父親と対面していた。様々な報告や相談、今後について話し合うために。
今回が初めて、ではない。エヴリーヌとの婚約が決まってから、既に何度か会談は行っていた。毎回、彼女の実家で。だが今日は少し珍しくて、俺と彼女の父親の2人だけ。エヴリーヌは居ない。
貴族の階級としては対等だけれど、向こうのほうが歳上だった。なので気を使って対応するようにしている。エヴリーヌの父親でもあるから。
「あの子は、ちゃんと役に立っているかな?」
「えぇ。とても、助かっています」
「それは良かった」
「今度は、エヴリーヌも一緒に連れて来ます」
「楽しみにしているよ」
会談を終えると、彼女の父親に別れを告げて俺は部屋を出る。執事が屋敷の外まで案内してくれるというので、彼の後について黙々と廊下を歩いていた。
「あっ!」
「ん?」
誰かの驚く声が聞こえてきた。振り向くと、エヴリーヌによく似た見た目の女性が走り寄ってくる。俺の方へ真っ直ぐと、接近してきた。あれはエヴリーヌの妹だろうと、すぐに分かった。顔は少し似ているが、服装や化粧の感じが違っていたから。
彼女とは、初めて顔を合わせることになる。話には聞いていたけれど、まだ会ったことが無かった。
「こんにちは。エヴリーヌお姉様の婚約相手である、バティステト様ですよね?」
「……あぁ、そうだ」
気安く話しかけられた。普段なら対応するのも面倒で無視するような相手だけど、エヴリーヌの妹だから最低限だけ反応しておく。
「私、妹のドゥニーズです。よろしくおねがいしますね!」
「お、お嬢様……!」
挨拶が終わったら、別に話すこともない。さっさと立ち去ろうとした時に、彼女がグイッと体を寄せてくる。馴れ馴れしく、媚びるような雰囲気で。近くで控えていた執事も、止めようとするが無視する妹。
「あっ」
接触しないように俺は、サッと後ろへ下がった。彼女は驚いて、行き場を無くした手を空中でブラブラとさせている。
「もう! なんで避けちゃうんですか? せっかくなので、仲良くしましょうよ」
「先に言っておくが」
「え?」
「別に、お前と仲良くしようとは一切考えていない」
「ひっ!?」
少し強めに睨んだだけで、彼女は短く悲鳴を上げると尻餅をついた。軟弱者だな。彼女の瞳を見て、すぐに理解した。媚びて、ウソを付くような者の目だ。部下として配属されてきたなら、真っ先に修正が必要な人間だった。
母親を早くに亡くして、甘やかされて育ってきたと聞いている。同情するべき点はあるけれど、それでも酷い。エヴリーヌの妹とは、とても思えない酷さだ。
「申し訳ない、怖がらせてしまったか。女性の扱いには慣れていなくてな」
「……」
目の前で倒れている彼女が、すがるような目で俺を見てくる。何を求めているのか分かる。だけど、手は差し伸べない。無駄で面倒な絡み合いは、勘弁してもらいたいから。
たとえ、エヴリーヌの妹だったとしても。
「君、彼女の世話をしてやってくれ。私は、このまま帰らせてもらう」
「え? あ、は、はい!」
案内をしてくれていた執事に後始末を任せて、俺は屋敷から出た。待機させていた馬車に乗って、すぐに自宅へ帰る。
このまま俺の存在を恐れて、関わり合いを避けてくれたら良い。俺に必要なのは、エヴリーヌだけだから。
「おかえりなさい、バティステト様」
「ただいま」
「お父様との話し合い、問題はありませんでしたか?」
「あぁ。何も問題は無かった」
出迎えてくれたエヴリーヌに、必要なことだけを報告する。彼女の父親との会談は何事もなく、無事に終わったと伝えて安心させる。
「任せてしまって、申し訳ありません。本来なら私も一緒に行くべきなのですが」
「問題ない。今日の話し合いは君が居なくても差し支えない内容だったから。それに君には、パーティー開催の準備の方に専念してもらいたい」
「ありがとうございます。パーティーの準備は任せて下さい」
パーティー開催の日が迫ってきている。エヴリーヌが屋敷の使用人やメイドたちを指導したり、作業を指揮して順調に準備を進めていた。社交界についてのノウハウが無いフィヨン家にとっては、とても頼もしい存在だった。
「そうだ!」
「ん? どうした」
何かに気が付いて、エヴリーヌはパンと1度手を叩くと紙の束を取り出してきた。それを、俺の目の前に差し出す。
「バティステト様、これを」
「これは?」
「今回の参加していただく方々の資料です。目を通しておいて下さい」
「わかった。確認しておく」
「パーティーの最中、どういった人物なのか把握しながら万全な接待をするために、しっかりと覚えておいて下さい。とても大事なことですから」
「……なるほど。覚えよう」
大量の情報がまとめられた資料を手渡された。名前と年齢はもちろん、家格や交流関係、食べ物や娯楽の趣味趣向に最近没頭しているモノなど。それが百名分ほど。
この量の情報を覚えないといけないのか。なかなか過酷で、大変そうだった。
けれど彼女は全力で、パーティー開催の事前準備を進めてくれていた。俺が彼女に指揮を任せたから。
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