31 / 42
第31話 王国へ
しおりを挟む
王都へ向かう道を、複数台の馬車が走っていた。
私とジャスター様は、隊列の真ん中付近を走る一番豪華な馬車に乗っていた。前と後ろの馬車には、帝国の貴族が数名同行している。王国が主催するパーティーに参加するため。さらにその周りにも馬車があり、世話係の使用人が数十名、護衛の兵士が数百名という大所帯で移動していた。
他国に出向くのには、十分な準備と警戒が必要だと思う。けれどこれは、ちょっと過剰だと思うような数。そんな集団を指揮するのがジャスター様だった。
「王国にプレッシャーをかける、ということですか」
「それもある。君が集めてくれた情報によると、予想していた通り王国は困っている状況らしい。そこで私たちが余裕を見せて、帝国を攻めようという気持ちを萎えさせる。捨て身でも無理だと思わせるぐらい、帝国の余裕を見せておきたい」
「なるほど」
ジャスター様の考えを聞いて、納得する。私が集めた情報も有効に活用してくれているみたい。役に立てたようで、嬉しいと思った。
「戦争は起こさない。帝国の今の方針は、内政に力を注ぐこと。今は、余計な戦いで資源や人材をすり減らしたくない、ということですね」
おそらく、戦争になっても帝国が負けることはない。だけど、損害は出てしまう。前にも話し合った今後の方針について、変更はない。帝国が主導権を握れるように、舵を取る。
「その通り。君たちが帝国へ来てくれたおかげで、特に今は優秀な人材も集まっているから」
「そんなに評価してくれるなんて、彼女たちも嬉しいでしょう」
「正当に評価しているのさ。そして、君のことも評価しているよエレノラ」
「嬉しいです」
ジャスター様に褒められて、とても嬉しい。やっぱり彼は褒め上手。
「ところで、エレノラ。どういう気持なんだ? 生まれた国に戻ってきて、何か感じるものはあるかい?」
「うーん、そうですね……」
何気ない質問に、私はじっくりと考える。今、自分がどういう気持ちなのか。何を感じているのか。馬車から見える風景を眺めた。この辺りは通ったことがある道ね。見覚えのある景色。もう少しで、王都に到着する場所。
それを見て思うこと。
「懐かしいとは思いますが、帰りたいという気持ちは、もうありませんね」
「そういうものか」
自分でも驚くぐらい、冷めていた。もしかしたら、生まれ育った王国の景色を見て帰りたいという気持ちが湧いてくるかもしれないと思っていた。でも、そんな気持ちは一切なかった。むしろ、早く帝国に帰りたいと思う。
そう。帝国に帰りたい。私は、そう思った。
ここはもう、自分の居るべき国じゃない。私はジャスター様と一緒に居たい。そんな思いが強いからだろう。
これからどうなるのか。無事に任務を終えて、何事もなく帝国に帰れたらいいな。それが、今の私の正直な気持ちだった。
私とジャスター様は、隊列の真ん中付近を走る一番豪華な馬車に乗っていた。前と後ろの馬車には、帝国の貴族が数名同行している。王国が主催するパーティーに参加するため。さらにその周りにも馬車があり、世話係の使用人が数十名、護衛の兵士が数百名という大所帯で移動していた。
他国に出向くのには、十分な準備と警戒が必要だと思う。けれどこれは、ちょっと過剰だと思うような数。そんな集団を指揮するのがジャスター様だった。
「王国にプレッシャーをかける、ということですか」
「それもある。君が集めてくれた情報によると、予想していた通り王国は困っている状況らしい。そこで私たちが余裕を見せて、帝国を攻めようという気持ちを萎えさせる。捨て身でも無理だと思わせるぐらい、帝国の余裕を見せておきたい」
「なるほど」
ジャスター様の考えを聞いて、納得する。私が集めた情報も有効に活用してくれているみたい。役に立てたようで、嬉しいと思った。
「戦争は起こさない。帝国の今の方針は、内政に力を注ぐこと。今は、余計な戦いで資源や人材をすり減らしたくない、ということですね」
おそらく、戦争になっても帝国が負けることはない。だけど、損害は出てしまう。前にも話し合った今後の方針について、変更はない。帝国が主導権を握れるように、舵を取る。
「その通り。君たちが帝国へ来てくれたおかげで、特に今は優秀な人材も集まっているから」
「そんなに評価してくれるなんて、彼女たちも嬉しいでしょう」
「正当に評価しているのさ。そして、君のことも評価しているよエレノラ」
「嬉しいです」
ジャスター様に褒められて、とても嬉しい。やっぱり彼は褒め上手。
「ところで、エレノラ。どういう気持なんだ? 生まれた国に戻ってきて、何か感じるものはあるかい?」
「うーん、そうですね……」
何気ない質問に、私はじっくりと考える。今、自分がどういう気持ちなのか。何を感じているのか。馬車から見える風景を眺めた。この辺りは通ったことがある道ね。見覚えのある景色。もう少しで、王都に到着する場所。
それを見て思うこと。
「懐かしいとは思いますが、帰りたいという気持ちは、もうありませんね」
「そういうものか」
自分でも驚くぐらい、冷めていた。もしかしたら、生まれ育った王国の景色を見て帰りたいという気持ちが湧いてくるかもしれないと思っていた。でも、そんな気持ちは一切なかった。むしろ、早く帝国に帰りたいと思う。
そう。帝国に帰りたい。私は、そう思った。
ここはもう、自分の居るべき国じゃない。私はジャスター様と一緒に居たい。そんな思いが強いからだろう。
これからどうなるのか。無事に任務を終えて、何事もなく帝国に帰れたらいいな。それが、今の私の正直な気持ちだった。
431
あなたにおすすめの小説
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。
BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。
だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。
女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね?
けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
無実ですが、喜んで国を去ります!
霜月満月
恋愛
お姉様曰く、ここは乙女ゲームの世界だそうだ。
そして私は悪役令嬢。
よし。ちょうど私の婚約者の第二王子殿下は私もお姉様も好きじゃない。濡れ衣を着せられるのが分かっているならやりようはある。
━━これは前世から家族である、転生一家の国外逃亡までの一部始終です。
婚約者を奪われるのは運命ですか?
ぽんぽこ狸
恋愛
転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。
そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。
終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。
自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。
頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。
そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる