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第18話 メイドたちの去就◆ヴァレンタイン家当主視点
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息子のルーカスから、ヴァレンタイン家に仕えているメイドたちを解雇してほしいと言われた時、私は耳を疑った。一体全体、何があったというのか。
「パーティーを台無しにしたのは、あのメイドたちの怠慢が原因。リリアンが望んでいるのです。彼女たちを解雇するしかない、と」
ルーカスはそう言って、私を説得しようとする。だが、私はすぐには納得できなかった。メイドたちは長年ヴァレンタイン家に仕え、献身的に働いてくれていた。それが、たった一度のパーティーの失敗で解雇だなんて。
「ルーカス、一方的に決めつけるのはよくない。メイドたちの言い分も聞かなければ」
私はそう諭し、メイド長のアナスタシアを呼び出した。真相を知るために、両者の話を聞く必要がある。
「で、ですが!」
まだ説得を続けようとするルーカスを部屋から出した後、アナスタシアが入ってくる。私は早速、彼女に事情を尋ねた。
「アナスタシア、ルーカスが主催したパーティーの失敗について、詳しく話を聞かせてくれないか」
「はい、エドワード様」
アナスタシアは頷くと、切々とした口調で説明を始めた。
「実は、リリアン様からの無理な要求が相次ぎ、私たちは応えるのに必死でした。装飾の変更を何度も求められ、用意する料理の品数も次々と増えていきました。挙げ句の果てには、パーティー当日の朝になって、全てを一から作り直せと言われたのです」
私は息を呑む。リリアン嬢からそこまで無茶な要求があったとは。
「おまけに、準備期間はどんどん短くなっていきました。それでも完璧なパーティーを成功させろと、リリアン様は仰るのです。正直申し上げて、最初から不可能な注文でした。メイドたちは疲れ切って、モチベーションも下がる一方。こうなることは、目に見えていたのです」
アナスタシアの目には、悔しさと無念さが浮かんでいた。その話が事実であれば、悪いのはどちらなのか明らか。そして、彼女が嘘をつくなんて考えられない。
「ヴィオラ様がいらっしゃった頃は、こんなことには決してなりませんでした。お嬢様は私たちの意見にも耳を傾けてくださり、無理のない計画を立ててくださいました。ですが、リリアン様は……」
そこで言葉を切ったアナスタシアは、俯いてしまう。彼女の沈黙が、全てを物語っていた。
私は息子の話よりも、アナスタシアの説明の方が信憑性があると感じていた。パーティーの失敗の原因は、メイドたちではなく、リリアン嬢とルーカスにあったのだ。だとすれば、メイドたちを解雇するのは筋違いだろう。
そう考えた矢先、アナスタシアが切り出した。
「エドワード様、パーティーが失敗に終わったのは紛れもない事実です。ならば、メイド長である私が責任を取るのが道理。どうか、私を解雇していただけませんか」
「何だと……?」
私は絶句する。まさか、アナスタシア自らが解雇を望むとは。
「……ヴァレンタイン家には、もうお仕えできません。このままでは、リリアン様の身勝手な振る舞いに、私は耐えられそうにないのです。将来が見えないというのも正直なところ。ヴァレンタイン家にいる限り、大変な思いをするだけでしょう」
アナスタシアの言葉には、強い決意が込められていた。ヴァレンタイン家への忠誠心も、すっかり失せてしまったようだ。
賢明な彼女のことだ。状況を冷静に判断した上での、賢い選択なのだろう。
「……わかった。望み通り、解雇としよう。ただし、他にもヴァレンタイン家を去りたいと考えている者がいるなら、一緒に連れて行ってくれ。私からの提案だ」
「エドワード様……」
「これまで皆によく仕えてもらった。その恩には、ちゃんと報いねばな。しばらくは困らずに暮らせるだけの金は用意しよう。新しい人生を、少しでも後押しできれば」
「ありがとうございます」
アナスタシアは感極まった様子で感謝の言葉を口にしながら、何度も頭を下げた。
こうして、ヴァレンタイン家を去ることを望むメイドたちが集められることになったのだが。
――その数の多さに、私は愕然とした。
全体の約8割。ほとんどのメイドたちが、ヴァレンタイン家の屋敷を離れることを希望しているというのか。
「まさか、ここまで……」
私は茫然と呟く。息子たちの評判は、これほどまでに落ちていたのか。はたして、ヴァレンタイン家の未来はどうなってしまうのか。
私は、メイドたちがしばらく暮らせる程度の金と、新天地への紹介状を用意した。長年の勤めを終えた彼女たちが、早く新しい暮らしを始められますようにと願って。
だが、大量の離職者を出したことで、ヴァレンタイン家の運営には多大な支障が生じることになるだろう。
新しいメイドたちを雇い、教育していくには、相当の時間と労力を要する。息子たちの安易な言動が招いた事態。私にも、反省すべき点は多い。
ヴィオラ嬢を切り捨て、リリアン嬢をヴァレンタイン家に招き入れてしまったこと。そして、ルーカスが主催するパーティーでの失敗でメイドたちを解雇することになってしまったこと。それを、私は見過ごしてしまった。ここまで、事が大きくなるなんて予想していなかった。軽く考えていた。
後になって事情を知り、対処することしか出来ていない。当主である私が。息子のルーカスを自由にさせすぎてしまった。しかし、今になって後悔しても遅いだろう。もう、そうなってしまったのだから。
ならばせめて、ルーカスに爵位を継いだ後に少しでも負担を減らせるように、今のうちにヴァレンタイン家の問題を減らしておくしかないだろう。
「パーティーを台無しにしたのは、あのメイドたちの怠慢が原因。リリアンが望んでいるのです。彼女たちを解雇するしかない、と」
ルーカスはそう言って、私を説得しようとする。だが、私はすぐには納得できなかった。メイドたちは長年ヴァレンタイン家に仕え、献身的に働いてくれていた。それが、たった一度のパーティーの失敗で解雇だなんて。
「ルーカス、一方的に決めつけるのはよくない。メイドたちの言い分も聞かなければ」
私はそう諭し、メイド長のアナスタシアを呼び出した。真相を知るために、両者の話を聞く必要がある。
「で、ですが!」
まだ説得を続けようとするルーカスを部屋から出した後、アナスタシアが入ってくる。私は早速、彼女に事情を尋ねた。
「アナスタシア、ルーカスが主催したパーティーの失敗について、詳しく話を聞かせてくれないか」
「はい、エドワード様」
アナスタシアは頷くと、切々とした口調で説明を始めた。
「実は、リリアン様からの無理な要求が相次ぎ、私たちは応えるのに必死でした。装飾の変更を何度も求められ、用意する料理の品数も次々と増えていきました。挙げ句の果てには、パーティー当日の朝になって、全てを一から作り直せと言われたのです」
私は息を呑む。リリアン嬢からそこまで無茶な要求があったとは。
「おまけに、準備期間はどんどん短くなっていきました。それでも完璧なパーティーを成功させろと、リリアン様は仰るのです。正直申し上げて、最初から不可能な注文でした。メイドたちは疲れ切って、モチベーションも下がる一方。こうなることは、目に見えていたのです」
アナスタシアの目には、悔しさと無念さが浮かんでいた。その話が事実であれば、悪いのはどちらなのか明らか。そして、彼女が嘘をつくなんて考えられない。
「ヴィオラ様がいらっしゃった頃は、こんなことには決してなりませんでした。お嬢様は私たちの意見にも耳を傾けてくださり、無理のない計画を立ててくださいました。ですが、リリアン様は……」
そこで言葉を切ったアナスタシアは、俯いてしまう。彼女の沈黙が、全てを物語っていた。
私は息子の話よりも、アナスタシアの説明の方が信憑性があると感じていた。パーティーの失敗の原因は、メイドたちではなく、リリアン嬢とルーカスにあったのだ。だとすれば、メイドたちを解雇するのは筋違いだろう。
そう考えた矢先、アナスタシアが切り出した。
「エドワード様、パーティーが失敗に終わったのは紛れもない事実です。ならば、メイド長である私が責任を取るのが道理。どうか、私を解雇していただけませんか」
「何だと……?」
私は絶句する。まさか、アナスタシア自らが解雇を望むとは。
「……ヴァレンタイン家には、もうお仕えできません。このままでは、リリアン様の身勝手な振る舞いに、私は耐えられそうにないのです。将来が見えないというのも正直なところ。ヴァレンタイン家にいる限り、大変な思いをするだけでしょう」
アナスタシアの言葉には、強い決意が込められていた。ヴァレンタイン家への忠誠心も、すっかり失せてしまったようだ。
賢明な彼女のことだ。状況を冷静に判断した上での、賢い選択なのだろう。
「……わかった。望み通り、解雇としよう。ただし、他にもヴァレンタイン家を去りたいと考えている者がいるなら、一緒に連れて行ってくれ。私からの提案だ」
「エドワード様……」
「これまで皆によく仕えてもらった。その恩には、ちゃんと報いねばな。しばらくは困らずに暮らせるだけの金は用意しよう。新しい人生を、少しでも後押しできれば」
「ありがとうございます」
アナスタシアは感極まった様子で感謝の言葉を口にしながら、何度も頭を下げた。
こうして、ヴァレンタイン家を去ることを望むメイドたちが集められることになったのだが。
――その数の多さに、私は愕然とした。
全体の約8割。ほとんどのメイドたちが、ヴァレンタイン家の屋敷を離れることを希望しているというのか。
「まさか、ここまで……」
私は茫然と呟く。息子たちの評判は、これほどまでに落ちていたのか。はたして、ヴァレンタイン家の未来はどうなってしまうのか。
私は、メイドたちがしばらく暮らせる程度の金と、新天地への紹介状を用意した。長年の勤めを終えた彼女たちが、早く新しい暮らしを始められますようにと願って。
だが、大量の離職者を出したことで、ヴァレンタイン家の運営には多大な支障が生じることになるだろう。
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後になって事情を知り、対処することしか出来ていない。当主である私が。息子のルーカスを自由にさせすぎてしまった。しかし、今になって後悔しても遅いだろう。もう、そうなってしまったのだから。
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