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01.提案
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「急に呼び出して、申し訳ない」
「話って、何でしょうか?」
「ここに居るアメリに、君の婚約者としての立場を譲ってほしいんだ」
「は?」
ある日、婚約者であるランベルト王子に呼び出されたので彼の執務室を訪ねてみると、そんな事を言われた。
私は、予想もしていなかったことを言われて、唖然とする。
他の女性に、婚約者の立場を譲る? ランベルト王子は、そう言ったのか。
「申し訳ありません、エリザベート様。平民だった私なんかが、貴女の立場を譲ってもらうだなんて……」
そう言っているのは、最近ランベルト王子が新しく愛人にした令嬢の1人だった。目を潤ませて、申し訳なさそうにしている。
縮こまっているアメリの様子を気にする、ランベルト王子。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、アメリ。エリザベートはとても優しい女性だから、きっと分かってくれるよ」
「本当ですか? ランベルト様」
「あぁ、本当さ」
「よかったです!」
私の目の前で、2人がイチャイチャし始める。鬱陶しくて仕方がない。なぜ、私はランベルト王子に優しいなんて思われているのか。きっと分かってくれると、勝手に私の気持ちを代弁しているのか。理解できなかった。
「アメリは可哀想な子なんだ。元平民だったというのに、ある日いきなり貴族として振る舞うように厳しくされて。誰かが、この子を守ってやらないといけないんだよ」
「ランベルト様……」
キリッと真剣な表情で、そんな馬鹿なことを言ってのけるランベルト王子。それを見て、うっとりしたような表情を浮かべる、アメリという令嬢。
つまり、婚約者として庇護下に置こうということなのだろう。王族の婚約者という立場を得て、他の貴族に文句を言われないようにするため。
そんなことのために、婚約者の立場を譲れと言っているのか。
そもそも、平民が貴族の家に引き取られたのなら、教育されるのはあたり前のことだと思うけど。
むしろ、元平民が教育を受けられるありがたさを感じていないのか。疑問だった。
「どうだろう? 譲ってくれるかな?」
「お願いします、エリザベート様!」
「……ッ!」
頭を下げて、一生懸命にお願いされる。彼女は、自分がやっていることを理解しているのだろうか。
ランベルト王子は、私が快く婚約者の立場を譲ると思っているのか。
ケーキを分けてほしいとお願いするような気軽さで、婚約者の立場を譲ってくれと彼女たちは言っている。冗談ではなく、本気で言っている。
それなら、私の判断は。
「つまり、婚約破棄するということですね?」
「いや、そんな、婚約を破棄する、とまでは言っていないが」
「じゃあ、どういう意味ですか?」
「つまりだな、アメリを俺の新しい婚約者にしたいだけで」
「ならば、今の婚約関係は破棄しないといけませんよ」
「そ、そうだな。うん」
ランベルト王子は理解しているのだろうか。私との婚約を破棄することによって、今後どうなるのかを。でも、関係ないか。彼が現状を理解していなかったとしても、私のやることは決まった。
「わかりました。婚約破棄の手続きを進めておきます」
「本当か!? ありがとう、エリザベート」
「ありがとうございます、エリザベート様」
何度も頭を下げて、感謝の言葉を繰り返すランベルト王子たち。
私はただ、婚約破棄の手続きをすると言っただけである。彼らに感謝されるようなことではない。
「やったな、アメリ!」
「やりました、ランベルト様!」
2人が喜んでいる。
この先、様々な困難が待ち受けているというのに気楽なものだ。だけど私は、何も忠告しなかった。黙って彼らの今後を、見守るだけ。
「話って、何でしょうか?」
「ここに居るアメリに、君の婚約者としての立場を譲ってほしいんだ」
「は?」
ある日、婚約者であるランベルト王子に呼び出されたので彼の執務室を訪ねてみると、そんな事を言われた。
私は、予想もしていなかったことを言われて、唖然とする。
他の女性に、婚約者の立場を譲る? ランベルト王子は、そう言ったのか。
「申し訳ありません、エリザベート様。平民だった私なんかが、貴女の立場を譲ってもらうだなんて……」
そう言っているのは、最近ランベルト王子が新しく愛人にした令嬢の1人だった。目を潤ませて、申し訳なさそうにしている。
縮こまっているアメリの様子を気にする、ランベルト王子。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、アメリ。エリザベートはとても優しい女性だから、きっと分かってくれるよ」
「本当ですか? ランベルト様」
「あぁ、本当さ」
「よかったです!」
私の目の前で、2人がイチャイチャし始める。鬱陶しくて仕方がない。なぜ、私はランベルト王子に優しいなんて思われているのか。きっと分かってくれると、勝手に私の気持ちを代弁しているのか。理解できなかった。
「アメリは可哀想な子なんだ。元平民だったというのに、ある日いきなり貴族として振る舞うように厳しくされて。誰かが、この子を守ってやらないといけないんだよ」
「ランベルト様……」
キリッと真剣な表情で、そんな馬鹿なことを言ってのけるランベルト王子。それを見て、うっとりしたような表情を浮かべる、アメリという令嬢。
つまり、婚約者として庇護下に置こうということなのだろう。王族の婚約者という立場を得て、他の貴族に文句を言われないようにするため。
そんなことのために、婚約者の立場を譲れと言っているのか。
そもそも、平民が貴族の家に引き取られたのなら、教育されるのはあたり前のことだと思うけど。
むしろ、元平民が教育を受けられるありがたさを感じていないのか。疑問だった。
「どうだろう? 譲ってくれるかな?」
「お願いします、エリザベート様!」
「……ッ!」
頭を下げて、一生懸命にお願いされる。彼女は、自分がやっていることを理解しているのだろうか。
ランベルト王子は、私が快く婚約者の立場を譲ると思っているのか。
ケーキを分けてほしいとお願いするような気軽さで、婚約者の立場を譲ってくれと彼女たちは言っている。冗談ではなく、本気で言っている。
それなら、私の判断は。
「つまり、婚約破棄するということですね?」
「いや、そんな、婚約を破棄する、とまでは言っていないが」
「じゃあ、どういう意味ですか?」
「つまりだな、アメリを俺の新しい婚約者にしたいだけで」
「ならば、今の婚約関係は破棄しないといけませんよ」
「そ、そうだな。うん」
ランベルト王子は理解しているのだろうか。私との婚約を破棄することによって、今後どうなるのかを。でも、関係ないか。彼が現状を理解していなかったとしても、私のやることは決まった。
「わかりました。婚約破棄の手続きを進めておきます」
「本当か!? ありがとう、エリザベート」
「ありがとうございます、エリザベート様」
何度も頭を下げて、感謝の言葉を繰り返すランベルト王子たち。
私はただ、婚約破棄の手続きをすると言っただけである。彼らに感謝されるようなことではない。
「やったな、アメリ!」
「やりました、ランベルト様!」
2人が喜んでいる。
この先、様々な困難が待ち受けているというのに気楽なものだ。だけど私は、何も忠告しなかった。黙って彼らの今後を、見守るだけ。
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