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第12話

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 クリストフ様に降参を促す。だけど彼は口を閉じ、私の顔を睨みつけてくるだけ。彼の握る剣は半ばからポッキリと折れていて、既に勝敗は決まっている。それを彼は理解しようとしていないのか。

「どうしました?」
「……」

 黙り続ける彼の行動を見て、私は首をかしげる。負けを認めるのは悔しいだろうと思うが、降参を口に出さないと試合は終わらない。それがルールだ。

 だから私は問いかけた。一体、何をしているのかと。早く降参してくれと。なのに黙っている。試合を見ていた観客たちも困惑して、歓声の声が段々と変わっていく。ザワザワと、観客席が騒がしくなっていった。

 しばらくしてから、ようやく口を開いたクリストフ様。だけど、求めていたものと違う言葉を彼は放った。

「なぜ、手加減しない!」
「え?」
「約束が違うじゃないか!」
「は?」

 手加減とは、どういうことなんだろう。事前に約束なんてしていない。だけど彼は怒って、私を責めてきた。約束を破ったと言って。

「ジョスリーヌが言っていたぞ! 俺が勝てるように試合では手加減してくれると、君は約束したんだろう!?」
「妹から、そんな話は聞いていませんよ。そもそも真剣な勝負で手加減するなんて、ありえません」

 記憶を少し振り返ってみても、そんな話を聞いた覚えは全く無かった。聞いていたとしても、絶対に拒否するだろう。なぜ私が、了承したという話になっているのかも謎だった。

「てめぇ、八百長したのか!」
「卑怯者ッ!」
「男らしくないぞ!」
「それでも、次期騎士団長かよっ!」

 私達の会話は当然、観客席にも届いていた。そして、クリストフ様を批難する声が飛び交う。暴動が起きそうなほどの熱気が、観客席で巻き起こる。

 観客たちを見て、マズイというような表情を浮かべたクリストフ様。その反応は、遅すぎると思うけれど。怒りで、周囲の状況を見失っていたのだろうか。

「くっ!」
「おい、逃げるな!」
「説明しろ!」
「今まで、そうやって勝ち上がってきたんだろ!」

 舞台上から逃げるようにして去っていったクリストフ様。その背中に、観客たちが罵詈雑言の嵐を浴びせかける。

 えーっと、私はどうしたらいいんだろうか。

 1人になった舞台上で、しばらく立ち尽くしていた。さっさと立ち去ったほうが、良かったのかな。観客席は、まだ騒がしい。会場は悪い意味で盛り上がってしまい、次の試合に進めそうにない。

「皆様、落ち着いて下さい!」
「落ち着けるかよー!」

 大会の運営が舞台上に出てきて説明を始めた。

「セレスティーヌ嬢は、こちらに」
「あ、はい」

 説明が行われている横で、私は運営スタッフに誘導されて舞台から降りた。大会の続きは行われるのだろうか、心配だった。

 とりあえず、妹のジョスリーヌに話を聞きに行く。クリストフ様を応援するため、会場に来ていると思う。どこに居るのか、探さないと。
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