異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

文字の大きさ
69 / 189
神界派閥抗争編

69 魔法共生菌、無害化計画

しおりを挟む
 特効薬を開発後、ニーナとセシルは産休に入った。
 神魔研究所の特効薬研究班はポーリンや他の使徒達だけで研究を続けている。

 一方、神魔基礎研究班もミルルが抜けてポセリナたち使徒によって運営されていたが、神魔力融合現象の発見後は『魔法共生菌による神界リセット無効化の信ぴょう性について』というレポートを纏めたのが最後で本来の基礎研究に戻っていた。
 彼らが纏めたレポートは悪魔の証明こそ出来ないが『魔法共生菌が神界リセットをキャンセルした証拠はない』という意見書の一部として採用された。

「おや、リュウジさん珍しいですね」

 俺が神魔基礎研究班に顔を出すと、いち早く見つけたポセリナが声を掛けて来た。

「ポセリナさん、ご無沙汰してます。忙しいですか?」
「ほほっ、単調な日々の繰り返しですよ」つまり、順調と言うことかな?

「それより、リュウジさんがわざわざ来たところを見ると、何か面白いことを思いついたんですか?」

「えっ? いや、面白いかどうかはわかりませんが。魔法共生菌が研究しやすくなるかも知れません」
「ほぉ。では、お茶を用意しましょう」

 ポセリナが真面目に話を聞くときは、いつもお茶を用意してくれる。

  *  *  *

 ポセリナの淹れてくれるお茶は美味しい。
 使徒は中性的と言っても皆同じというわけではない。男女差の中央値的な使徒もいれば、ポセリナのように体系は女性的で言動は中性的という使徒もいるのだ。
 ポセリナの場合は性格も女性的かも? これって、自分で決めるんだろうか? それとも時間がたてばみんな同じになるんだろうか?

「美味しい」俺は、一口飲んで思わず言った。
「ありがとう」と言って、ポセリナも満足そうに笑って一口飲んだ。

「それで、研究しやすくなるというのは?」
「はい。今、魔法共生菌を厳重に管理しているのは、人間に感染して生気を吸う危険性があるからですよね?」
「はい。そうですね」

「より具体的に言うと人間にダメージを与える機能が無くなれば、つまり普通の共生菌のようになれば厳重に管理しなくても済みます。堂々と研究できるわけです」
「はい」

「あるいは、人間に感染さえしなければいいわけです」
「そうですね」

「これは、私がいた世界の話ですが、そういう生物の性質を変化させる研究をしていました。遺伝子を操作することで」
「なるほど。遺伝子ですか」

 話はすんなり理解して貰えたようだ。つまり、知っているらしい。

「なんとか、魔法共生菌の遺伝子を操作出来ないでしょうか? 人間に悪影響を与える部分か、あるいは人間を選ぶ部分を人為的に作り変えることが出来れば、問題は解決すると思うんです。この世界で遺伝子操作が可能であればですが」

 しばらく考えこむポセリナ。もしかして専門外だった? それとも無謀な思い付きだったか?

「ふむ。遺伝子操作ですか」
「やはり、難しいでしょうか?」

「そうですね」ポセリナさん、さらにしばらく考えてから言った。
「遺伝子操作そのものは、ここでも可能です」
「本当ですか!」

「ただ、その危険な遺伝子がどれなのかを確定する作業は時間が掛かるかも知れませんね。一か所とは限りませんしね」ポセリナは難しい顔で言った。
「やはり、そうですか」

「それと。その遺伝子を無効にしても同じように生きていけるかどうかですね」ポセリナは遠くを見るような目で言った。
「なるほど、人間の代わりが必要になる?」確かに、生きる環境は必要だろう。
「ええ、無駄に能力を獲得しているハズはないですから」

「なるほど。生命として生きる環境が必要な訳ですね」
「そうです。それと、今いる菌を駆逐できないと意味がありません」
「確かに、それもありますね。ん~、やっぱ素人考えではうまくいかないか」

「いえ、そうとも限りませんよ。少なくともやってみる価値はあるでしょう」ちょっと明るい表情になって言うポセリナ。

「ウリス様に成功する確率を調整して貰おうかな」
「可能ならば……ね」

 にっこり笑って応えたポセリナだったが、その後ブツブツと独り言を始めた。ん? これは自分の世界に入ってしまったかも? この人、こうなるとちょっと戻って来ないんだよなぁ。
 俺は、その美しくも凛々しい容姿に見惚れつつも、期待を込めて待っていた。

「はっ。すみまん。ボクまた自分の世界に」
「いえ、大丈夫です」

「ちょっと、思い付いたことなどありますので、いろいろ試してみます。ヒントをありがとうございました」
「はい。ではまた伺います。お茶、ごちそうさまでした」
「はい。それではまた」

 ポセリナは、心はもうここにない風だった。頭をフル回転させてるんだろうか。うまく行ってほしい。

  *  *  *

 研究室を出ようとしたら、ポセリナの同僚の使徒ピルーセに呼び止められた。

「リュウジさん、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」

「実は、私も神魔動アシスト自転車を使ってみたいんです」
「え? 使徒さんって転移でどこにでも行けるでしょ?」
「はい。でも街で買い物もしてみたくて。すみません」

 なるほど、目立っちゃうからな。

「あ、全然オッケーですよ。そうか、そんなこともあるんだ。じゃ、何台かあったほうがいいのかな?」
「ああ、良かった。二台あれば十分かと」

「そうですか。でも、それを見て乗りたくなる方も出るでしょうから、三台用意しましょう」
「いいんですか? よろしくお願いします」
「はい、待っててくださいね」

 ちょっと小柄なピルーセさんを見てると、なんとなく後輩みたいな気持ちになっちゃうんだよね。たぶん俺の何倍も生きてるんだろうけど。

 研究所に来てくれてる使徒には、地上界に降りて不自由もあるだろうから少しでも楽しみがあるなら融通してあげたいと思っている。
 そういえば、神様と言っても何でも知ってるわけじゃないって言ってたもんなぁ。使徒ならなおさらだ。地上界に来たら地上界を楽しんでほしい。
 うん、これからはもっと希望を聞くことにしよう。俺が作ったものを使ってくれるのは、もちろん嬉しいし。

 そういえば、中性的な使徒さんに、年齢とか聞いても失礼にならないかも知れないな? こんど聞いてみるか? いや、止めとこう。たぶん、やばい結果しかない気がする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。

さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。 荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。 一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。 これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。

処理中です...