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プロローグ

公爵家からの勘当

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 バシャッ!

 冷たい水をかけられ、強制的に意識が引き戻される。ドレスはみすぼらしい囚人服に変わっていて、胸には包帯が巻かれていた。じくじくと傷口が痛み、痣がどうなったのかなんて怖くて確かめる気にもなれない。

 そして鉄格子の前には、憤怒の表情をしたお父様が立っていた。

「とんでもない事をしてくれたな……出来損ないだとは思っていたが、ここまで恥知らずとは思わなかったぞ」
「……お父様、あれは」
「黙れ!! 貧乏男爵から引き取って、貴族教育も施してやったというのに、恩を仇で返しおって! 先ほど、陛下にはお伝えしておいたからな。エリザベスは最早、公爵家の者ではございませんと」

 つまりわたくしは、勘当された訳だ。婚約も破棄され、家も追い出され……絶望しかない状況なのに、何故か心をすり抜けていく。わたくしは他人事のように、お父様から投げ付けられる罵倒を受け止めていた。
 そこに、ひょいと義弟のジュリアンがお父様の背中から顔を出す。作られたわたくしと違い、プラチナブロンドの髪もアメジストの瞳もお義母様そっくりのジュリアンは、わたくしの有り様を覗き込んで愉快そうににやける。

「父上、義姉上はどうやら自分の置かれた状況をまだ理解していないようですよ。沙汰がどうなったのか伝えに来たのでしょう?」
「ああ、そうだった……よく聞け、エリザベス。ラク=ハイド殿への殺害未遂の件は、証拠不十分のため保留となった。お前の容疑が晴れた訳ではないが、自分のせいで死人は出したくないとラク殿が懇願した結果だ。感謝するのだな。
だが真犯人が誰であれ、異世界の客人への迫害を止められなかったのは王太子の婚約者であるお前の責任として、婚約は破棄された。我々公爵家はこの件に一切関与していないとして、お前を勘当する事にしたのだ」

 お父様はあの断罪劇の顛末を語られたけれど、やはり意味が分からない。何故、ラク様迫害の責任がわたくしにあるのだろう? ラク様のお世話は殿下自らが請け負うので、絶対に関わってくるなと言われていたのに。(もちろんわたくしは逆らえるはずもなく、従ったのだが)
 どうやら殿下もお父様も、何としてもわたくしを悪者に仕立て上げたいようだ。

「本当ならばお前の怪我が治り次第、市井に放逐したいところだ。しかし王妃様から、学業を修める事だけは学園の規律だと言われてな……忌々しいが学費はあらかじめ入学時に納めてあるから、卒業までは通え。
それと、卒業後はディアンジュール伯爵との婚約が決まっている。これは王命であり、平民になったからと言って覆らんから、心するように」

 王立学園……王侯貴族だけでなく、平民も学力次第で特待生として通えるので、城内にも平民出身の文官がいたりする。が、その中でも異世界から来たラク様は特例中の特例だった。何せ読み書きからして初めてだったのだ。ここ一年で何とか身に付けはしたもののまだまだ不慣れで、殿下は本気で彼女をわたくしの後釜に据えるつもりなのか疑問だ。今は他人の心配をしている場合ではないが。

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