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呪われた伯爵編
アステル様との昼食
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今更だけど、こんな不気味 (※マスクの事)な顔の人を見ても不自然に思わなかったのは謎だ。魔法のせい、と言われても、知ったばかりのあたしにとっては納得できない。
「アステル様、あの……よろしければ、マスクを取っていただけます? ここにはあたし以外、誰もいませんし」
「うん? こっちの方が怖がらせずに済むと思ったんだけど」
「慣れるためにも素顔の方がいいと思います」
そうか、と頷くと、アステル様はベリベリッとマスクを剥がした。牛のような、人間ではあり得ない造りの素顔が露わになる。どう考えても頭とマスクの大きさが合わない。
「不思議なマスクですねぇ……」
「認識阻害と擬態の魔法がかかっている。どんなにでかい頭でも、被ると普通サイズにまでなるし、周りの人間からすれば空気のように気にならなくなる。一度見破られればもう効かないけどね」
へえぇ……あたしの変装なんて問題にならないくらいすごい。これ、貰えないかしら? 誰からも認識されなくなるのは困るけど。
「この魔法は、アステル様が?」
「いや僕には魔法は使えないよ、あくまで管理するだけ……。ディアンジュール伯爵領にいる魔道具職人に頼んで作ってもらったんだ」
魔道具職人! そんな専門職があったなんて。火時計といい、こんな便利な道具を生み出せるのなら、さぞかし財政が潤ってそうだな。ん? 伯爵領って確か……
「ディアンジュール伯爵領については少し調べたのですが、あの厳しい環境の中で暮らしていけるのですか?」
「ああ、それについては追々説明するよ。まずは昼食にしよう」
確かに……もうペコペコだ。アステル様が用意していたシートを床に敷いてくれたので、そこに座り、あたしはランチボックスを開けた。
「本当は図書館は飲食禁止なんだけどね」
「この場所も、魔法なのですよね?」
「そう、空間魔法といって、本来あるはずのない場所に別の空間を作り出したり、繋げたりできるんだ。ここに入るために、数冊の本を入れ替えただろう? あれが魔道具であり、空間を開く鍵にもなっているんだ」
「なるほど」
話しながらランチボックスからサンドウィッチを取り出して頬張る。男爵家では財産の少なさから、なるべく自分たちで出来る事はする、という方針の下、いくつか家事を教わりできるようになっていた。料理はまだまだ上手くはないんだけど、昨日のおかずをパンに挟むくらいなら簡単だ。
ふとアステル様の方を見ると、リンゴを齧っている。年頃の男子生徒が、あれで足りるのかしら? いやそれより……
(どう見ても、牛が食べてるようにしか見えない……)
瞳が赤い事を除けば、銀髪に青白い肌、何より頭付近にある耳と角。五歳くらいの頃に男爵領で小さな牧場の視察について行った時を思い出す。草をもしゃもしゃしている姿って和むのよね。
「……エリザベス嬢? じっと見つめられると食べづらいんだが」
「はっ!! ご、ごめんなさい。リンゴを食べているアステル様が牛のように可愛くて、つい……」
「牛……」
復唱するように返されて、あたしはとんでもなく失礼な事を本人を前にして言っていたのに気付いてしまった。いくら化け物と呼ばれ慣れているとは言え、婚約者にまでそうは言われたくないわよね。
「ち、違うんです。決してバカにする意図があったのではなくて……」
「大丈夫、分かっているよ。この姿は確かに『牛』を模している。しかし変わっているな、牛が可愛いだなんて……」
「可愛いですよ。草を食んでいる姿は何時間でも見ていられます」
う、アステル様から呆れているような雰囲気が……いや、あたしだって分かってるけども。食事中の牛を撫でたり頬擦りしようとしたら、嫌がるからやめろって怒られたっけ。
「でも本物の牛じゃないんですから、ジロジロ見るのは不躾でしたね。申し訳ありません」
「いや、怖がったり笑われるよりはいい。ただ、照れ臭くて……」
紅潮させた頬を掻くアステル様を、思わず可愛いと思ってしまったあたしは……やっぱりまだ牛だと思っているのかしら? いけない、いけない。
「アステル様、あの……よろしければ、マスクを取っていただけます? ここにはあたし以外、誰もいませんし」
「うん? こっちの方が怖がらせずに済むと思ったんだけど」
「慣れるためにも素顔の方がいいと思います」
そうか、と頷くと、アステル様はベリベリッとマスクを剥がした。牛のような、人間ではあり得ない造りの素顔が露わになる。どう考えても頭とマスクの大きさが合わない。
「不思議なマスクですねぇ……」
「認識阻害と擬態の魔法がかかっている。どんなにでかい頭でも、被ると普通サイズにまでなるし、周りの人間からすれば空気のように気にならなくなる。一度見破られればもう効かないけどね」
へえぇ……あたしの変装なんて問題にならないくらいすごい。これ、貰えないかしら? 誰からも認識されなくなるのは困るけど。
「この魔法は、アステル様が?」
「いや僕には魔法は使えないよ、あくまで管理するだけ……。ディアンジュール伯爵領にいる魔道具職人に頼んで作ってもらったんだ」
魔道具職人! そんな専門職があったなんて。火時計といい、こんな便利な道具を生み出せるのなら、さぞかし財政が潤ってそうだな。ん? 伯爵領って確か……
「ディアンジュール伯爵領については少し調べたのですが、あの厳しい環境の中で暮らしていけるのですか?」
「ああ、それについては追々説明するよ。まずは昼食にしよう」
確かに……もうペコペコだ。アステル様が用意していたシートを床に敷いてくれたので、そこに座り、あたしはランチボックスを開けた。
「本当は図書館は飲食禁止なんだけどね」
「この場所も、魔法なのですよね?」
「そう、空間魔法といって、本来あるはずのない場所に別の空間を作り出したり、繋げたりできるんだ。ここに入るために、数冊の本を入れ替えただろう? あれが魔道具であり、空間を開く鍵にもなっているんだ」
「なるほど」
話しながらランチボックスからサンドウィッチを取り出して頬張る。男爵家では財産の少なさから、なるべく自分たちで出来る事はする、という方針の下、いくつか家事を教わりできるようになっていた。料理はまだまだ上手くはないんだけど、昨日のおかずをパンに挟むくらいなら簡単だ。
ふとアステル様の方を見ると、リンゴを齧っている。年頃の男子生徒が、あれで足りるのかしら? いやそれより……
(どう見ても、牛が食べてるようにしか見えない……)
瞳が赤い事を除けば、銀髪に青白い肌、何より頭付近にある耳と角。五歳くらいの頃に男爵領で小さな牧場の視察について行った時を思い出す。草をもしゃもしゃしている姿って和むのよね。
「……エリザベス嬢? じっと見つめられると食べづらいんだが」
「はっ!! ご、ごめんなさい。リンゴを食べているアステル様が牛のように可愛くて、つい……」
「牛……」
復唱するように返されて、あたしはとんでもなく失礼な事を本人を前にして言っていたのに気付いてしまった。いくら化け物と呼ばれ慣れているとは言え、婚約者にまでそうは言われたくないわよね。
「ち、違うんです。決してバカにする意図があったのではなくて……」
「大丈夫、分かっているよ。この姿は確かに『牛』を模している。しかし変わっているな、牛が可愛いだなんて……」
「可愛いですよ。草を食んでいる姿は何時間でも見ていられます」
う、アステル様から呆れているような雰囲気が……いや、あたしだって分かってるけども。食事中の牛を撫でたり頬擦りしようとしたら、嫌がるからやめろって怒られたっけ。
「でも本物の牛じゃないんですから、ジロジロ見るのは不躾でしたね。申し訳ありません」
「いや、怖がったり笑われるよりはいい。ただ、照れ臭くて……」
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