とあるカップルの恋愛が順調すぎたはずなのに、突然別れて青春迷走ストーリーに

ルカカ

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第8話 桜の下の約束

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 梨花の足は、涼太の家に向かって突き進んでいた。バスを降り、夕暮れの住宅街を走る。
 桜の花びらが舞う道を、涼太の家の木造の門が見えるまで、梨花の心臓は止まらなかった。

 優太の死の真相、涼太が自分を遠ざけた理由、すべてを理解した今、梨花は涼太に伝えたいことが溢れていた。
 もう一度、涼太のそばにいたい。あの日のビンタを謝りたい。そして、涼太を一人で抱え込ませたくない。

 インターホンを押す手が震えた。ドアがゆっくり開き、涼太が現れた。少し乱れた髪、驚いたような目。
 梨花を見つめるその顔は、ライブの夜の優しい涼太と、別れの日の冷たい涼太が混ざったようだった。

「梨花…? どうしたんだ、急に。」

 涼太の声は静かだった。梨花は深呼吸し、言葉を絞り出した。

「涼太…優太さんのこと、聞いたよ。駅で、君の友達が話してて…。優太さんが、自分で命を…って。」

 涼太の目が揺れた。梨花は涙をこらえ、続けた。

「それに、あの日のこと…3月14日、君を叩いたこと、ほんとにごめん。君がそんな気持ちでいたなんて、知らなくて…。」

 涼太は目を伏せ、苦しげに笑った。

「いや、俺が悪かったんだ。梨花を傷つけて、突き放して…。それに、俺、もう人を大切にしていける自信がない。俺は…人を傷つけるだけだから。」

 その弱音に、梨花の胸が締め付けられた。涼太の声は、優太を失った罪悪感で震えていた。
 梨花は我慢できなかった。無意識に手が動き、鋭い音が響いた。

 パンッ! 

 涼太の頬に、梨花の手が当たった。

「あっ、ご、ごめん! 謝ったそばから…でも、我慢できなくて! しょうがないでしょ、だって…だって、涼太が私の世界一好きな人を否定するんだから!」

 梨花は自分でビンタしたことに慌て、顔を真っ赤にしてあわあわした。
 涼太は「え。」と目を丸くし、頬に手を当てながら梨花を見つめた。
 その目に、初めて見る光が宿った。梨花は涙をこらえ、言葉を続けた。

「私は、涼太と優太さんの間で何があったか、具体的なことは知らない。もしかしたら、涼太にも悪い点があったのかもしれない。
 でも、涼太は悪いだけの存在じゃないよ。優太さんが、前に話してくれたことがあるの。」

 梨花は、優太から聞いた話を思い出した。
中学時代のサッカーの試合。
 優太が退場してチームが負け、チームメイトから「自分勝手なことすんなよ」と責められた時。まだ小さかった涼太が、ピッチに走ってきて叫んだ。

「相手のチームがプレーが荒いせいでお前らボロボロになってただろ! 仲間を傷つけたことが許せなくて兄ちゃんは怒っただけなんだ。自分勝手なことなんかするもんか!」

 優太は笑いながら、梨花にこう話していた。

「小っ恥ずかしくて本人には言えないけど、涼太がいなきゃサッカー続けてなかったかもしれない。俺にとっては弟ってだけじゃなくて、俺が困ったときに助けてくれる存在なんだ。」

 梨花は涼太の目を見つめ、声を震わせた。

「ね、涼太。君は自分では意識してなくても、優太さんにいろんなものを与えてた。悪い点よりも何倍も優太さんの希望になってたの。それに…私にとっても、涼太は私を救ってくれる存在なんだよ。」

 梨花の声は涙で詰まった。

「覚えてる? ママが死んじゃって、私が絶望してた時。涼太がどんなことをしてくれたか。ハンカチを貸してくれて、デザートを分けてくれて、

『つらいときは俺に言えよ』

 って言ってくれた。あの思い出の全部が、私の人生を救ってくれたんだよ。それに、この間のライブの夜、襲われそうになった時だって。涼太が助けてくれた。いつだって、涼太は身近な誰かを支えてくれる、優しい人間なんだよ。」

 梨花は涙を流しながら、叫ぶように言った。

「だから…そんな涼太のことを、悪く言わないでよ!」

 涼太の目から、涙がこぼれた。彼は膝をつき、顔を覆って泣き崩れた。

「そっか…俺は、傷つけるだけの存在じゃなかったんだ。ちゃんと、兄貴の…梨花の支えになれていたんだな…。」

 梨花は涼太の前にしゃがみ、優しく微笑んだ。

「当たり前でしょ、バカ。」

 涼太は涙をぬぐい、梨花を見上げた。その目は、かつての優太のような温かさを取り戻していた。

「梨花、ほんとにありがとう。俺もお前に救われた。もうバカみたいに人を遠ざける必要がないって、気づかせてくれた。」

 涼太は立ち上がり、梨花の手を握った。

「なら、もう何にも迷わない、いつもの俺として言わせてくれ。
 俺は梨花が好きだ。心の底から大好きだ。俺は不器用だから、また迷うかもしれない。でも、お前とだったら乗り越えられる。絶対に。だから、一生お前のそばにいさせてほしい。」

 梨花の心臓がドクンと鳴った。涙が止まらず、笑顔で答えた。

「私も、涼太が好き。私もたくさん迷うことになるかもしれないけど、涼太とだったら正しい方向に進んでいける。一生そばにいてください。」

 涼太は梨花を強く抱きしめた。梨花もその腕にしがみつき、二人は桜の木の下でキスをした。涼太の唇は温かく、梨花の心を満たした。涼太は心の中で誓った。



「もう二度と、梨花を離さない。」



 桜の花びらが二人の周りを舞い、夜の空に溶けていった。二人の新しい約束は、過去の傷を癒し、未来への希望を灯していた。
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