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Episode2
窘める勇者
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「よう、ザートレ。聞いて驚け。そのチビ、ラスキャブの知り合いらしいぜ」
「うるさい。お前の方がチビだろ」
「あ? オレは魔法で身体を縮めてるだけで、本当はお前よりもでかいんだよ、バーカ」
アーコとマント少女の子供染みた口喧嘩はともかく、ラスキャブの事を知っている点にはすこぶる興味が湧いた。ある意味、ルージュよりもアーコよりも謎が多い奴なのだから致し方ない。
少女の身のこなしで、そこそこの戦闘スキルを持っている事は予想できた。事実上の挟み撃ちを喰らった中で、警戒の仕方がしなやかだ。内心はきっと焦りと画策とがごちゃ混ぜになっているだろうに、それを表に出さないのは一介の戦士として感心する。
「なあ、お前。ラスキャブの過去を知っているなら、教えてくれないか?」
「黙れ! 『囲む大地の者エンカニアン』の指図は受けない。ラスキャブを好き勝手にしやがって!」
そう言い放つと、少女は一直線にオレに飛び掛かってきた。両手に持った担当が躊躇うことなくオレの喉を狙う。
しかし、その刃に殺気がまるで乗っていない事にオレが真っ先に気が付いたのは、少女の誤算だろう。狙いは他にある。そう感じた刹那、少女を覆っていたマントが膨らんだかと思うと、布を貫いて鋭い槍の様な何かが飛び出してきた。
もしもルージュに元の力を返して貰っていなかったのなら、ひょっとしたら喰らっていたかもしれない。だが、完全に実力を発揮できる今となっては、左右どちらかに避けるか考えるくらいの余裕を持って対処できる。
奥の手を躱された少女は大きく動揺した。それを見逃さず、オレは踏み込んできた足を引っかけて脇をすり抜けた。つまづきながら何とか受け身を取ったものの、少女はゴロゴロと路地を転がっていった。それでもすぐさまに闘志に燃えた瞳でこちらを一瞥してきたのに、オレは少し興奮を覚えた。ビリビリと肌で感じる闘気は決して嫌いじゃない。
見ればマントを突き破って出てきていたのは、少女の尻尾だった。それも先端に毒針を持つ蠍の尻尾だ。甲虫を思わせる外骨格を持つラスキャブと同族というのは間違いなさそうだった。
「ちくしょう」
少女はさも怨めしそうにオレを見た。そして自分がこのような状況になっても取り乱そうとも自分の心配をする素振りすら見せないラスキャブを見て、記憶喪失という戯言はひょっとしたら真実なのかもしれないとも思い始めていた。
オレは数歩だけ歩み寄ろうと思ったが、相手の警戒心を解きたいがためにそれを自制した。
「オレ達に戦う意思はない。事情があって一緒に旅をしているが、無理矢理連れまわしてはいないし、隷従させてる訳でもない」
「お前がラスキャブの頭をいじくって洗脳してる可能性だってあるだろ。アタシはそういう登録印があることだって知ってるぞ」
「それは知らなかったが、首に付けているのはこの世界の規則に従って、魔族連れでも余計なトラブルを生まないようにしているだけだ。とにかく、お前が思っている様なぞんざいな扱いはしていない。頼むから一度話をさせてくれ」
オレの本心が少しは伝わったのか、少女は僅かながら警戒を解いていくれた。
すると空腹だったのか少女の腹がぐぅぅぅ、っと盛大に鳴った。人気のない路地に、それは嫌でも響き渡った。すぐさま少女の顔は真っ赤に染まっていった。涙ぐんだ目と赤い顔をしたまま、それでもオレに短剣を突き付けてきてるのは、攻撃の意思か照れ隠しかは知れない。
腹の音が収まると、今度は「ギャハハ」という下品な笑い声がこだました。横目で見ればアーコが逆さまになりながら、腹を抱えて笑っていた。
「飯を食いに行こうか? オレ達の事も話すから、そっちも話を聞かせてくれ」
話し合いに同意したのか、それとも食事にありつけることに同意したのか。いずれにしても少女は本当に小さく、コクンと頷いてくれた。
「うるさい。お前の方がチビだろ」
「あ? オレは魔法で身体を縮めてるだけで、本当はお前よりもでかいんだよ、バーカ」
アーコとマント少女の子供染みた口喧嘩はともかく、ラスキャブの事を知っている点にはすこぶる興味が湧いた。ある意味、ルージュよりもアーコよりも謎が多い奴なのだから致し方ない。
少女の身のこなしで、そこそこの戦闘スキルを持っている事は予想できた。事実上の挟み撃ちを喰らった中で、警戒の仕方がしなやかだ。内心はきっと焦りと画策とがごちゃ混ぜになっているだろうに、それを表に出さないのは一介の戦士として感心する。
「なあ、お前。ラスキャブの過去を知っているなら、教えてくれないか?」
「黙れ! 『囲む大地の者エンカニアン』の指図は受けない。ラスキャブを好き勝手にしやがって!」
そう言い放つと、少女は一直線にオレに飛び掛かってきた。両手に持った担当が躊躇うことなくオレの喉を狙う。
しかし、その刃に殺気がまるで乗っていない事にオレが真っ先に気が付いたのは、少女の誤算だろう。狙いは他にある。そう感じた刹那、少女を覆っていたマントが膨らんだかと思うと、布を貫いて鋭い槍の様な何かが飛び出してきた。
もしもルージュに元の力を返して貰っていなかったのなら、ひょっとしたら喰らっていたかもしれない。だが、完全に実力を発揮できる今となっては、左右どちらかに避けるか考えるくらいの余裕を持って対処できる。
奥の手を躱された少女は大きく動揺した。それを見逃さず、オレは踏み込んできた足を引っかけて脇をすり抜けた。つまづきながら何とか受け身を取ったものの、少女はゴロゴロと路地を転がっていった。それでもすぐさまに闘志に燃えた瞳でこちらを一瞥してきたのに、オレは少し興奮を覚えた。ビリビリと肌で感じる闘気は決して嫌いじゃない。
見ればマントを突き破って出てきていたのは、少女の尻尾だった。それも先端に毒針を持つ蠍の尻尾だ。甲虫を思わせる外骨格を持つラスキャブと同族というのは間違いなさそうだった。
「ちくしょう」
少女はさも怨めしそうにオレを見た。そして自分がこのような状況になっても取り乱そうとも自分の心配をする素振りすら見せないラスキャブを見て、記憶喪失という戯言はひょっとしたら真実なのかもしれないとも思い始めていた。
オレは数歩だけ歩み寄ろうと思ったが、相手の警戒心を解きたいがためにそれを自制した。
「オレ達に戦う意思はない。事情があって一緒に旅をしているが、無理矢理連れまわしてはいないし、隷従させてる訳でもない」
「お前がラスキャブの頭をいじくって洗脳してる可能性だってあるだろ。アタシはそういう登録印があることだって知ってるぞ」
「それは知らなかったが、首に付けているのはこの世界の規則に従って、魔族連れでも余計なトラブルを生まないようにしているだけだ。とにかく、お前が思っている様なぞんざいな扱いはしていない。頼むから一度話をさせてくれ」
オレの本心が少しは伝わったのか、少女は僅かながら警戒を解いていくれた。
すると空腹だったのか少女の腹がぐぅぅぅ、っと盛大に鳴った。人気のない路地に、それは嫌でも響き渡った。すぐさま少女の顔は真っ赤に染まっていった。涙ぐんだ目と赤い顔をしたまま、それでもオレに短剣を突き付けてきてるのは、攻撃の意思か照れ隠しかは知れない。
腹の音が収まると、今度は「ギャハハ」という下品な笑い声がこだました。横目で見ればアーコが逆さまになりながら、腹を抱えて笑っていた。
「飯を食いに行こうか? オレ達の事も話すから、そっちも話を聞かせてくれ」
話し合いに同意したのか、それとも食事にありつけることに同意したのか。いずれにしても少女は本当に小さく、コクンと頷いてくれた。
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