魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode2

想う勇者

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 アーコ達のファッションショーはピオンスコも加わり、更に一時間続いた。流石に店の者に悪い気もしたので、ミラーコートの他、一人一人に髪飾りや指輪のようなアクセサリーを選んでもらってまとめて購入した。



 店を出た後にアーコがほくそ笑みながら、



「ザートレ、わかってるじゃねーか」



 と、言ってきた。



 四人とも頻りに触ったり、眺めたり、翳してみたり、と楽しんでくれているので、決して悪い気はしなかった。



 だが、俺としては買い物を済ませてからアーコとピオンスコに頼みたいことがあったので、少々タイミングとしては間が悪い。まるでご機嫌取りのために買い与えた様な形になってしまうから。



 それでも、明朝の出発までには済ませておきたい事なので仕方なく尋ねた。戦闘と違ってこういう事は相手の出方がまるで分らないので恐々だが、とにかくオレとしては素直に考えを伝えるほかない。



「なあ、このタイミングはおかしいとは思うが、アーコとピオンスコに相談がある」



「ん?」



「何? ザートレさん」



「悪いが二人にも魔族の登録印を付けさせてもらえないか?」



 登録印がないと町の出入りの度に説明が必要になったり、町を自由に出歩けなかったりと不便が多い。さっきの服屋でも登録印の話が出たところを考えると、こんな規模の町にすらも規則が行き届いているという事だ。二人のプライドもあるだろうが、何とか飲み込んでもらいたい。



 ところが、オレの不安も他所に二人はあっけらかんと返事をしてきた。



「それもそうだな。余計なトラブルは避けたいし」



「アタシもザートレさんが困んないようにしてくれれば、何でもいいよ」



「そ、そうか?」



 すんなりと聞き入れてもらって肩透かしな気にもなったが、揉めないんだったらそれに越したことはない。



「俺とピオンスコも首に印を付けるのか?」



「多分な。ルージュたちと初めて登録申請をしたときは、目立って分かり易いから首に付ける奴が多いと聞いた」



「へえ」



「何だ、その顔は」



「良かったな、ザートレ。女のペットが二人も増える」



「・・・馬鹿を言え」



 流行りか規則かは知らないが、改めて言われると魔族に首輪をつけて従えると言うのは、妙な気分になる。これまでの道中を振り返って見ても、魔族と自分たちを対等に扱っている『囲む大地の者エンカニアン』は半分にも満たない。大半の者は印の他、更に鎖でつないだり、ボロを着せたり、あまつさえ地に伏せて歩かせているような輩も見受けられた。



「この仕組みを始めに作った奴は、中々に嗜虐的な奴だな。隷属させる側の心理や行動パターンをよく知っていると見た」



 オレの思考がルージュにも伝わったのか、そんな事を呟いた。



「このシステムのせいで、「魔族を使役する」という観念がすんなりと受け入れられたのだろう。同族の奴隷を使うよりも心は痛まぬ。何せ敵対している種族なのだから、中には生かしていやっているだけ感謝しろと言わんばかりの者もいる」



「不思議なのは、どう考えたって格下な『囲む大地の者』にも付き従っている奴がいるってところだよな。俺達みたいに共通の目的があったり、実力が劣っているから従僕してるんなら話は分かるけどよ」



 よくよく考えてこなかったが、オレが失っていた八十年の間に一体何が起こったというのだろうか。情勢は変わるのが常とは言え、少々度が過ぎているというか、すんなりと受け入れ慣れない妙な不安感が募る。



 とは言え、一度決まってしまった流れに逆らうと言うのも中々に難しい。



 登録印を付けるだけで余計な災難を防げるのは確かなのだから、今は大人しくその流れに乗るのがいいだろう。



 オレ達はギルド組合に足を運び、早速二人分の登録を行った。宿に戻って商隊に一人追加で連れができた事を伝える。先のドリックスの一件で、オレ達の評価は頗る良かったので嫌な顔一つされずに受け入れて貰った。



 明日からは再び野ざらしの日が続く。



 屋根の有難味を噛みしめながら、宛がわれた部屋で英気を養っていたのだが、相変わらずベットを使う者はおらず、その様子を見てアーコが、



「馬鹿みてえだな」



 と呟く。それを受け流してオレは浅い眠りについた。それでもルージュに本来の力や感覚を返して貰っていたので、オレにとっては十二分な休息となったのだった。
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