魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode5

軽口をたたく勇者

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 アーコに導かれるままにオレ達は東側にあるという宿屋の跡を目指した。道すがら街の様子を観察するが、やはり西側よりは損傷が少ない。しかし獣に荒らされた痕跡や風化して腐り落ちている町並みはほとんど一緒だった。

「ほらここだ」

 ものの数分歩いたところでアーコが止まった。指さした先には二階建ての建物がある。劣化しているが確かに他の建物に比べれば幾分マシな状態で残っている。念のため警戒しつつ、オレ達は宿の中に入っていった。目下の目標は厨房だ。調達した食料を保存食に調理する予定だが、設備があるのとないのでは難易度がかなり変わってくる。

 アーコの魔法で照らしてもらいつつ、踏むたびにギシギシと音の鳴る廊下を進んでいく。狼の姿でなかったらうっかり踏み抜いていたかもしれない。

「ぬおぉっ!?」

 その時後ろからとても素っ頓狂な声が聞こえた。振り返ると最後尾を歩いていたルージュが腐った床板を踏み抜いて右足をとられているルージュの姿があった。

 普段は絶対に見せないような間の抜けた姿にオレ達はおかしさが込み上げてきたが、理性が笑いを打ち消す。しかし、遠慮なく笑い飛ばす奴もいた。

「ギャハハハ! だっせえ」
「ぐっ」

 不覚を取った事に負い目を感じているのか、ルージュは珍しく言い返さない。

「このパーティで一番重たい女が決まったな」
「黙れ。子供と浮かんでいる痴れ者と比べるな」
「剣に戻ったら刀身を削ってダイエットさせてやるよ。ありがたく思いな」

 ルージュはアーコの事を無視すると足を強引に引き抜いてオレに近づいてきた。そしてそっとオレの頭に触れると瞬く間に首飾りに変化した。

 誰とも話すつもりはないという意思表示だろうか。そう思うとオレは居ても立ってもいられず、思わず本心を口走った。

「オレは今までのどの剣よりもお前の重みがしっくりと来ているぞ」

 そういうと首飾りがジャラっと音を立てた。それがどういう意味なのかは分からなかった。狼の姿になると口が軽くなるのはやはり考えものだろうか。

 やがてオレ達は目当ての厨房に辿り着く。埃を被ってはいるが表の装いを思えば当初の予想以上にいい状態だった。調理器具もそのままに残っているし、この分なら少し家探しすれば備蓄食料も見つけられるかも知れない。

 が、探索は後回しにすることにした。土地勘がない以上、あとは夜明けを待ってからでも遅くない。オレ達は比較的まともな部屋を見繕うと、朝になるまでの間に少しだけ仮眠をとる事にした。
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