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1章
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「えっ?!ちょっと待って。ノアの最初のお見合い相手って、あの東郷さんだったよね」
蒼は遠くに居ても目立つ東郷一馬の顔と乃亜の顔を交互に見て言う。
「うん」
乃亜は、シレっとした顔をしている。
「えっ…じゃぁ……やったの?」
声を潜めて乃亜の耳元で聞く。
乃亜はプッと吹いて笑い出した。
「そう言うと思った。いいな~アオは純粋で」
乃亜が楽しそうに蒼にじゃれつくと、その姿を見つけた東郷が2人に寄って来る。
「一馬さんは、ボクに手を出さなかった。ずーっとボクのお喋りに付き合って、いつの間にか眠って、気が付いたら服着たまま朝だった」
東郷が来る前に、返ってきた質問の答え。
「楽しんでいるかな?」
身長は190㎝を越えているであろう大きな体が、小柄な高校生2人の前に立ち、見下ろす。
「ボクはそれなりに。アオはお疲れだけど」
乃亜が物怖じせずに堂々と返事をする。
「ああ~、君がお友だちの緑川蒼君。…確か……、妹さんのエスコートだったのでは?」
ゲストの情報は全部頭に入っているのだろうか?
「やっと、お会いできましたね」と、東郷の方から蒼に手を差し出す。
怖い人だと言われているが、確かに乃亜が言うように優しく微笑んで握手を求めてきたので、蒼もその手を握り返した。
「はっ…はじめまして!」
緊張で声が上ずる。と同時に、心臓がバクバクと鼓動を早め、今にも口から飛び出してきそうだ。
「そんなに緊張しなくても、取って食べたりしないよ。……ん?」
東郷は会話で和ませようとしたが、蒼と握手をした手を離して、掌を確認するように見つめた。
蒼も、掌を見つめる。
熱い。
握った手から伝わる熱さが全身を駆け巡る。
――あれ?緊張し過ぎて、熱出した?
「こういう華やかな場所は初めてなので、人酔いしたのかもしれません。ちょっと隅で休んでいます」
苦笑いをして答える。
将来の事とか進路の相談を誰かにしている場合ではない。まずは場所に慣れなくては…と焦り、汗が首から胸へ、脇から背中へと伝い落ちる。
「休める部屋もあるから、必要であればスタッフに遠慮なく声を掛けて」
と、東郷は体を軽く屈めて蒼に言うと、乃亜に向き直る。
「良い青田はありましたか?」
乃亜が東郷と会話を始める。
「ソフィアの生徒会長と副会長にお会いできたのが、今夜の最大の収穫かな?」
と、軽くウインクをする。
「運命の番探しなんて言って、ホントは有能な人材を青田買いしているんでしょ?」
「ははっ。乃亜君は鋭いね。結婚相手なんて、そのうち見つかればいいのに、周りがうるさくてね。番探しを名目にすれば、若い子を集めやすい」
東郷が声のトーンを落として乃亜に言う。
「やっぱりね~。なにロマンチックなこと言い出したんだろうと思ったら…」
対等に東郷と話をしている乃亜に驚きつつも、そんなことが出来る幼馴染を蒼はうらやましく感じた。自分は挨拶を交わすだけで精一杯…。
手に残る東郷の熱さと香りで、脳が痺れる。
サンダルウッドとパチュリを混ぜたような深みと渋みのあるオリエンタルな香りをベースに、爽やかでホッとするベルガモットのような香り…。ついつい手に残る香りを嗅いでしまう。
――落ち着くな…東郷さんの匂い…。
「乃亜君、1曲どうかね?」
蒼がぼんやりしている間に、東郷は乃亜をダンスに誘っていた。
パーティも終盤、ほぼほぼ全員に挨拶を終えたらしく、みんなそれぞれ気の合う人と談笑していた。
東郷が乃亜に手を差し伸べると、乃亜は、
「喜んで」
と、その手を取った。
蒼は乃亜をまぶしそうに見送り、壁にもたれかかった。
――熱い…。のぼせたかな?
蒼は遠くに居ても目立つ東郷一馬の顔と乃亜の顔を交互に見て言う。
「うん」
乃亜は、シレっとした顔をしている。
「えっ…じゃぁ……やったの?」
声を潜めて乃亜の耳元で聞く。
乃亜はプッと吹いて笑い出した。
「そう言うと思った。いいな~アオは純粋で」
乃亜が楽しそうに蒼にじゃれつくと、その姿を見つけた東郷が2人に寄って来る。
「一馬さんは、ボクに手を出さなかった。ずーっとボクのお喋りに付き合って、いつの間にか眠って、気が付いたら服着たまま朝だった」
東郷が来る前に、返ってきた質問の答え。
「楽しんでいるかな?」
身長は190㎝を越えているであろう大きな体が、小柄な高校生2人の前に立ち、見下ろす。
「ボクはそれなりに。アオはお疲れだけど」
乃亜が物怖じせずに堂々と返事をする。
「ああ~、君がお友だちの緑川蒼君。…確か……、妹さんのエスコートだったのでは?」
ゲストの情報は全部頭に入っているのだろうか?
「やっと、お会いできましたね」と、東郷の方から蒼に手を差し出す。
怖い人だと言われているが、確かに乃亜が言うように優しく微笑んで握手を求めてきたので、蒼もその手を握り返した。
「はっ…はじめまして!」
緊張で声が上ずる。と同時に、心臓がバクバクと鼓動を早め、今にも口から飛び出してきそうだ。
「そんなに緊張しなくても、取って食べたりしないよ。……ん?」
東郷は会話で和ませようとしたが、蒼と握手をした手を離して、掌を確認するように見つめた。
蒼も、掌を見つめる。
熱い。
握った手から伝わる熱さが全身を駆け巡る。
――あれ?緊張し過ぎて、熱出した?
「こういう華やかな場所は初めてなので、人酔いしたのかもしれません。ちょっと隅で休んでいます」
苦笑いをして答える。
将来の事とか進路の相談を誰かにしている場合ではない。まずは場所に慣れなくては…と焦り、汗が首から胸へ、脇から背中へと伝い落ちる。
「休める部屋もあるから、必要であればスタッフに遠慮なく声を掛けて」
と、東郷は体を軽く屈めて蒼に言うと、乃亜に向き直る。
「良い青田はありましたか?」
乃亜が東郷と会話を始める。
「ソフィアの生徒会長と副会長にお会いできたのが、今夜の最大の収穫かな?」
と、軽くウインクをする。
「運命の番探しなんて言って、ホントは有能な人材を青田買いしているんでしょ?」
「ははっ。乃亜君は鋭いね。結婚相手なんて、そのうち見つかればいいのに、周りがうるさくてね。番探しを名目にすれば、若い子を集めやすい」
東郷が声のトーンを落として乃亜に言う。
「やっぱりね~。なにロマンチックなこと言い出したんだろうと思ったら…」
対等に東郷と話をしている乃亜に驚きつつも、そんなことが出来る幼馴染を蒼はうらやましく感じた。自分は挨拶を交わすだけで精一杯…。
手に残る東郷の熱さと香りで、脳が痺れる。
サンダルウッドとパチュリを混ぜたような深みと渋みのあるオリエンタルな香りをベースに、爽やかでホッとするベルガモットのような香り…。ついつい手に残る香りを嗅いでしまう。
――落ち着くな…東郷さんの匂い…。
「乃亜君、1曲どうかね?」
蒼がぼんやりしている間に、東郷は乃亜をダンスに誘っていた。
パーティも終盤、ほぼほぼ全員に挨拶を終えたらしく、みんなそれぞれ気の合う人と談笑していた。
東郷が乃亜に手を差し伸べると、乃亜は、
「喜んで」
と、その手を取った。
蒼は乃亜をまぶしそうに見送り、壁にもたれかかった。
――熱い…。のぼせたかな?
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