Blue Destiny

N-89

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2章

1-高校生の夏休み

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***

「何もうちを継がなくったって、日向はαなんだから、好きなように進学して、好きなように就職したらいいって言っているんですけれどね~」

 夏休み前の個別懇談。
 β家庭に生まれたαを支援するために国が設けた学業支援制度を受け、ソフィア学園に入学した五島日向は、自分の能力の活かし方をわからずにいた。

 人口減少による人手不足を、有能なαで補うために設けられた学業支援制度を利用して、日向はαが多いソフィア学園に通っている。
 β家庭に突発的にαが生まれても、それに見合う学習の機会を与えられなければ、貴重な存在を埋もれさせることになるということで、世帯収入や家族構成などにより、支援が受けられる。
 そのために一般家庭に育った日向でも、元お嬢様学校の私立高校に通えているのだ。

 だが、日向の母は学校に来る度に場違いな雰囲気に圧倒されてしまう。
 ごく普通のβ家庭に育ち、スーパーの経営者の妻と言えども…スーパーで働くオバチャン…。
 まだ、担任がβというだけで安心できるが、なぜ我が子は、βばかりのクラスに居て、仲のいい友達がΩなのか…?わからないことだらけで戸惑う。

「クラスのムードメーカーとして頼もしい存在ですよ。私もついつい頼りにしてしまいます。成績も…αコースへは行けませんでしたが、それでも申し分ない成績です」
 小田と、日向の母。β同士の当たり障りのない話に終始する懇談…。

 自分の能力がどれだけのもので、どんなことができるのかなんて全然わからない。
 何をすればいいのか…?何をしたいのか…?
 どうすれば答えが出るのか……?

――α…ったって……性欲持て余す獣ってだけで、結局勉強しなきゃ学力もあるわけじゃないし。…体力だけはあるけれど…。

「興味のあるところでは…経済学部?K大か…N大か……。頑張ればT大も狙えなくはないぞ」
「じゃぁ…その辺りで、秋の模試の結果次第で決めたいと思います」
 そろそろ、ある程度方向を決めなければならないのはわかる。そのために、とりあえず…の方向を決めてみた。


 βばかりが住んでいる地域の小・中学校で、βに囲まれて育った日向にはαらしく生きるとはどういうことなのかわからない。

 小学校卒業前の第二性検査で『α』と判定されてから、周りの人たちの態度が一変した。自分の中では何も変わらないのに、何か凄いものを見るような、偉い人に接するような周りの人たちの態度…。
 テストでいい点を取れば「αだから」、スポーツが出来れば「αだから」とすぐに言われる。

 いつしか「五島日向だから」と言われなくなったことが悲しかった。
 ソフィア学園に入り、上には上がいたことで「αだから」と言われなくなったことにホッとした。

 今まではαだから優秀だと言われていたのに、αよりも優秀なΩや性別不明がいた!
 性別なんて関係ないじゃないか!
 
 …でも、結局、進路を決める段階になると「αだから…」と言われる。


 ウイルス・ショック以前のまだ第二性検査も行われていなかった時代、αの社会に嫌気が差してβとして生きたαがいた。
 どうやら日向の曽祖父がそうだったらしい…。
 そして、祖父もαなのではないか?と思うことがあった。

 曾祖母も祖母も、祖父の兄弟も、父も父の兄弟もみんなβだったが、隔世遺伝で日向がαとして生まれたのかもしれない。
 祖父も齢なので今更検査するつもりはないが、若い頃はαの特徴を持っていたと言う。

 祖父の兄弟も、祖母も、新型ウイルスが流行したときに感染し、亡くなっていた。
 αやΩには感染しないと言われたウイルス…。
 祖父はまだ幼かった自分の息子たち、つまり日向の父と父の兄弟を守りながら、家族の看病をしていたが感染することはなかった。

 そして、曽祖父がβが多く住む地域で始めた『ごとうスーパー』を祖父が継ぎ、父が継ぎ、今に至る。

 それが、五島家だった。

***


「…ってなわけで、どっかの経済学部。αだからって期待されても、どうしていいかわかんねーっつーのにさぁ~」
 と、日向は、蒼と乃亜に夏休みの宿題を教えてもらいながら、個別懇談の内容を話した。

 衣料量販店で購入した、よくあるTシャツに太めのジーンズ姿でも、やや筋肉質な広い背中に、180㎝を超える長身だとαらしく見え……なくもない。
 前髪がツンツン立っている短髪は、少し茶色がかっているのでソフィアの制服を着ていない時はヤンキーに間違えられる。大きく温かな眼差しと、筋の通った大きな鼻が整ったイケメン。茶色い瞳は光の加減で琥珀色にも見える。
 αの中に居れば、βのようにも見えてしまう日向も、βの多い街中を普通に歩けば、振り向く人がいるくらいのαらしい高校生だった。
 今までは何気なくスーパーの手伝いをしていたが、最近はαっぽさが増してきたため、親に「目立ちすぎるから店の手伝いじゃなくてバック―ヤードの手伝いして」と奥へ引っ込められることもしばしば…。

「だってさぁ~、結局俺らの学年はアオとノアがワンツーじゃん?頭いい悪いに性別関係なくね?…まぁ俺は、体デカイし、体力ある分…力仕事なら引き受けるけど?って思うのよね」

 一馬のマンションのリビングで、高校生3人がローテーブルの上に教科書や参考書を広げ、夏休みの宿題の問題集に向かっている。
 蒼と乃亜はほぼ終わりに近く、日向は難しい問題だけが残っている状態。

 夏期講習を終えて、正真正銘の夏休みだというのに、旅行に行く予定も何もない受験生は、エアコンの効いた涼しい部屋の中で宿題を片付けようと、午前中から集まっていた。
 受験生ではない乃亜は、部屋の主が海外出張中なのをいいことに、一昨日から蒼の部屋に泊っている。

 日向が、おやつに…と言って持ってきた皮ごと食べられる種なしブドウが、テーブルの上に乗っていた。

「よし!ひーちゃんも、一馬さんに進路相談だ!」
 乃亜が、宿題に飽きてスケッチブックを出し、デッサンを始めながら言う。

「…蒼はどこ受けるの?」
 日向も勉強に飽きてきた。

「僕は…T大の法学部。滑り止めでS女子大。…来年の受験が厳しかったら一浪してもいいから…とは言われたけど、いろいろと世話になっている分際で浪人生になったら居心地悪いから頑張る」
 問題集を閉じて、次の宿題に取り掛かっている。サラサラと流れるような英文を、宿題のプリントに書き込みながら蒼は答える。

 それを見て、日向は、
「アオなら余裕じゃん…」
 と、呻く。自分はまだ、英語の宿題に手を付けていなかった。

「ん~、この前まではね。でも、今はそうじゃないんだ。こうして誰かと一緒に勉強していれば気が紛れて大丈夫なんだけど、1人で夜に勉強していたらもぉ…全然勉強どころじゃないんだよ。薬飲んだら確実に寝ちゃうし」
 蒼が顔を赤くして俯くと、日向は何か悪いことを言ってしまったような気分になる。
「ごめん…俺、そんな悩みはないのにな」

「ん?いいよ。αはαで…悩みが多いよな」
 困惑気味の日向に、蒼はフフッと笑いかける。
「あの、力の見せ付け合いが……何とも…エグイ…」
 蒼が身震いしてみせると、日向は苦笑いをした。

 自分だって睨み返せるくらいの力は持ちたいのに、どうも、そういったα同士の争いは苦手だ。すぐに身を引いてしまいたくなる。
 一馬は蒼を守るためなら、1歩も引かずに強いαも睨みつけ威嚇するのだろうなと、自分もそんな強さを持てたなら乃亜を守れるのだろうか…?と、日向の頭の中を過ぎる。
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