うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第5章 戦争

防衛戦 (山) 2

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「準備いいぞ!」

 合図と共に、僕は魔法を発動する。

 ──ズズンッ

 地鳴りが起こり、山肌の一角が崩れ落ちて街道を塞いだ。

「ヒュー、凄いもんだな」

 ベスが崩落した崖を、僕の隣から見下ろし呟いた。

「土魔法の応用だね。アルティナの使う『ガイアニードル』が土地を隆起させることに使っているのと、反対のことをやったんだ」

 街道はしっかりと塞がれており、これでトナミカへ進軍するには、この土砂を除かなければまともに前に進むことは困難だろう。
 問題はグリドールの魔法使いが、土魔法を使って土砂を除去することくらいなのだが、この効果だけでも、海上戦力との合流に間に合わないようにするには充分なはずだ。

 ほぼ丸一日、グリドールが通る道に細工を施す準備に明け暮れた僕達は、今の作業をもって、ようやく街道を塞ぐことに成功していた。
 仲間達は既に陣地を作り、街道沿いの崖の上に身を隠している。グリドールが来る平野部に面する場所には、斥候スキルを持った『城壁の守護者』の仲間が偵察のために張り付いていた。

 ピッ、ピピピッ

 突然、耳に笛の音が聞こえてきた。

「これは?」
「シッ!」

 僕の質問を、ベスは手で制すると遠くから聞こえてくる笛の音に聞き耳を立てた。

 笛の音は、一回止むと再び先程と同じリズムでもう一回繰り返した。

「斥候からの連絡だ。『敵、集結中、確認、距離、20キロ』か。俺も笛を吹くから、ユズキ、少し待ってろ」

 ベスはそう言うと、聞こえてきた笛のリズムを2回繰り返した。

「凄いね。20キロ先なんて見えるんだ」

「まぁな。道具を使っているとはいえ、斥候スキルは俺達とはレベルが違う。この夕方前に20キロ地点なら、グリドールなら今日中に10キロの地点まで来て野営をするかもな。そして、この街道に入ってくるのは明日だろう。俺達も見張りに任せて早めに休息を取ろう」

 ベスの言葉に僕は頷く。
 セラ様は『城壁の守護者』が拠点を構えるテントで僕を待っている。本当は連れて来たかったが、罠を仕掛けるポイントまでの道程が険しいため、断念したのだ。

 移動を開始すると、ベスは木々のツタや藪の中を滑る様に進んでいく。
 途中で木につけた目印を元に、一度しか通っていない経路を真っ直ぐにテントへ向かって進んで行った。その身のこなしに感心しながら、僕達は30分程足早に移動すると、拠点のテントがまで戻ってくることができた。

 僕がテントの中へと入ると、直ぐにセラ様が飛びついてきた。

「お帰りなさい!ユズキさん!」

 僕はセラ様の頭を優しく撫でると、後ろに立っている人物に気付いた。

「フフッ、セラは本当にいい娘ね。準備が忙しくてあまり構ってあげられなかったけど、私も楽しく過ごさせてもらったわ」

 セラ様に優しく微笑むのはアルティナだ。
 手元には何やら紙の束が握られており、これからの戦いに向けた準備を進めていることが見て取れた。

「アルティナさん、ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げるセラ様に、アルティナはヒラヒラと笑顔で手を振ると、僕の後から入ってきたベスの元へと向かっていった。
 直ぐに、リーダーであるベスへと現状を報告し始めたアルティナ達に軽く会釈をすると、僕とセラ様はテントを出た。

 それから、僕達はベスのパーティーが作った夕食を頂くと、仮眠をするために個人用のテントにセラ様と入った。
 別々のテントに分けることも考えたが、敵襲があった時にセラ様一人だけでは、僕が対処できない。
 心配しすぎだとベスは言ったが、何が起こるか分からないため、別々で行動することはなるべく避けたかった。

 男女が一緒に個人用テントに入ることに、何か言われるかとも思ったが、僕の表情を察したアルティナは、「しっかり守るのよ」とだけ言うのみだった。

「──狭くないですか?」

 正直、寝返りが打てない程スペースに余裕はない。
 テントと言っても、雨露が凌げる程度に頭上に生地を貼った程度だ。地面には、水を弾く布の上に毛皮を敷いているだけで、冷え切った地面は、僕達の熱を奪おうと冷気の触手を伸ばしてくる。しかし、ピッタリと身を寄せ合う様にセラ様が隣にいるお陰で、室内はほんのりと暖かい。

「大丈夫だよ。セラこそ大丈夫?」

「はい、あ。もう少しくっついても大丈夫ですよ」

 ピタッと肩と肩がくっつくと、ほんのりと熱が伝わってきて、セラ様の体温がポカポカと伝わってきた。

「ふふっ、人のぬくもりって、温かいですね。──ユズキさん、お休みなさい」

「うん、お休みなさい」

 僕は返事を返すと瞳を閉じた。
 人肌の温もりが眠気を誘う。ふわりふわりと眠気に誘われ、意識が漂う中、隣から規則正しい寝息が聞こえてきた。
 セラ様が眠りに落ちたのだ。

 ──!

『起きろ!』

 眠っていたのは、数時間経ったのか、まだセラ様が眠って数分しか経っていないのか。
 脳内にセライの大声が響いて、僕の意識は覚醒した。

「くっ!」

 まだ暗闇の中、像を結ばない視界の代わりに、空気の流れを感じて僕は咄嗟に手を伸ばす。

「──キャッ!」

 左手が腕と思わしき物を掴み、伸ばした右手が何か柔らかい物に触れた。
 極小さい叫び声に、相手が女性だと僕は理解した。

『任せろ』

 僕の手に残った疑惑の感触を振り払う様に、セライが叫ぶ。
 脳内で発せられるセライの言葉と『最適化オプティマイズ』された身体の動きに従って、僕は狭いテント内で身を翻すと、侵入者を組み敷いた。

 そのまま、右手で対象の口を覆う。
 ギュッと左手に力を込めると、侵入者は痛みに耐え兼ねて、その手に握られた凶器を落とした。

「動くな」

 僕は隣に眠っているセラ様の無事を確認する。
 ドサッという小さな音しか響かず、室内の動きにセラ様は身をよじらせたが、その眼を開けることはなかった。
 寝息が聞こえてくることに僕は安堵しつつ、僕は、身体の下で動けなくなっている侵入者を押さえる力を強めた。

最適化オプティマイズ』された視力が、テントの中のほぼ暗闇の中の光を集め、視界が侵入者の顔を捉えた。

 フワッと風が吹き、テントの幌がほんの少しめくれた。
 外の月明かりが差し込んだ僕の目に写ったのは、日本や東南アジアの人々に多い特徴の黒髪と瞳。
 くりっとした瞳は意思の強さを感じさせ、何も語らないと僕に目で訴えかけていた。

「──『斥候』のマルティだな」

「──殺せ」

 有無を言わさない返答に、僕は内心予想通りだと確信した。
 勇者パーティーの『斥候』、マルティは僕が偽った出生先、正真正銘のムラクモ生まれであり、その性格は冷静沈着。
 命令された任務は、顔色一つ変えずにこなす。
 それが、彼女だ。

「いや、君は殺さない」 

 僕の言葉に、マルティの表情が更に強ばる。
 年は僕よりも幼いように見えるが、その冷たい瞳には凄みすら宿らせ、僕に彼女が潜って来た修羅場の数を感じさせた。

「──なら」

 グッと奥歯を噛み合わせようとした彼女の口に僕は咄嗟に指を突っ込む。
 任務を失敗した時の最後の手段。自決は、彼女の最後の機密防衛の手段だ。ローガンから聞かされておいてよかった。
 僕は心底ホッとする。

「んっ!」

 生憎、彼女のレベルでは僕の指を払いのけることはできない。
 悔しそうな表情を浮かべ、話し合いに応じる気配のないマルティに、僕は使いたくなかったが、最後の手段に出ることとした。

「こんな所で死ぬな。僕はローガンのパーティーだ、ここで死んだらローガンに会えないぞ。でも、生きているなら、ローガンに会わせてやってもいい」

 僕の言葉に、ビクッとマルティの身体が震えた。
『ローガン』、その言葉を聞いたマルティは、まるで氷から水になったのではないかというくらいに、表情を緩ませ、頬を赤らめると身体をモジモジとよじった。

「──嘘」 

 言葉とは裏腹に、先程までの冷酷な態度は何処へ行ったのやら、恋に焦がれる少女の様に、マルティの黒い瞳がうるうると輝きを増した。

『斥候』のマルティ。
 年齢16歳、5歳の頃から偵察や暗殺術を教え込まれたムラクモの御庭番衆。その実力は女性でありながら、男性では出入りのできない所へと赴き、各種情報を仕入れる天才である。

 ただ一点、そんな彼女にも弱点があった。

『あ、あの⋯⋯ユズキ殿。お恥ずかしいお話ですが、マルティは、年上の男性を好む趣味がありまして──。そして、彼女の理想全てに当てはまるのが、どうやら私の様なのでございます』

 僕はレーベンで聞いていた、ローガンの言葉を脳内で再生していた。

 イケオジであり、既婚者であるローガンに禁断の恋心を持つくノ一。それが、勇者パーティー『斥候』のマルティの正体であった。

「ローガンに会わせて、嘘なら死ぬから」

マルティのポーッとした表情には、最早先程までの自決を決心した確固たる意志は存在しない。

なんで、こんなに勇者パーティーは曲者ぞろいなんだろう?
心の中でため息をつきながら、恋する暗殺者から僕は身を離した。
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