うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

文字の大きさ
136 / 166
第5章 戦争

防衛戦(山) 3

しおりを挟む
「ふあっ!」

 素っ頓狂な声をあげて、セラ様が飛び起きた。
 そのまま、セラ様は眼をこすりながら周囲を見回すと、思わず飛び上がった。

「こ、ここっ!どこですか?」

 視界に僕を見つけたセラ様は、肩を寄せ合って眠っていたテントから、突然の周囲の変化に驚きを隠せないようだった。
 それもそのはずだ。
 寝返りもつけないテントから、今のセラ様は、真っ白なシーツとフワフワの布団に包まれていた。
 寒さに耐えなければならない地面とは違い、室内には赤々と暖炉の中で火が燃えている。

「おはよう。ごめんね、実はセラが眠っている間に問題があって、長距離転移したんだ」

 僕はセラ様に告げると、その問題の主であるマルティに向き直る。

「だ、誰ですか!?その方」

 僕の視界に隠れていたマルティを見つけたセラ様が、眼を丸くする。

「勇者パーティーにいるマルティって子だよ。ちなみに、あのテントの中で僕を殺しに来てた」

僕の言葉に、セラ様の表情が凍りついた。

「──遅い。本当に、ローガンに会わせてくれるの?それに、信じられないけどどうやってレーベンまで飛んだの」

 あのテントの中で、ローガンの名前を聞いた時とは打って変わって、氷の様な視線でマルティは僕を睨みつける。

「待てって。こんな夜中の訪問だよ?直ぐには準備できないって。それと、レーベンまで飛んだのは、単に僕の魔力が長距離転移を可能にするくらい膨大だってことだよ」

「⋯⋯ありえない。人3人を数百キロもある場所に個人で転移させられるなんて」

 まぁ、短距離転移でさえも困難な世界だ。
『魔王』を名乗るリズでさえ、入念な下準備。マーキングによるポータルの設置。莫大な魔力を貯めることができるメナフからもらった鎌を使用することで、ようやく一人を転移させることができくらいだ。
 単独で3人、それも寸分違わずにレーヴァテイン城に転移するともなれば、マルティが信じられないのも無理はない。

 ──コンコンコン

 3回のノックと共に、室内の扉が開かれた。

「──『魔王』!!」

 扉から現れた人物を見て、マルティが飛び出そうとした。

「待てって」

 僕は、マルティよりも素早く動くと、その腕を掴んで床へと押し倒す。
 流石は『斥候』でもあり、暗殺術にも長けているだけである。『希望の剣』の目的、討伐対象である『魔王』のリズと認識するや否や、マルティは目的を果たすために、自分の命をも厭わずに飛び出した。

「ユズキ、久々に会えたのは嬉しいけど、いきなり命を狙う女を連れてこられたらビックリよ」

 実は、レーヴァテインに着いてから、『念話』でマルティのことを話していたので、リズは知っているのだが、余裕たっぷりの表情でリズは、マルティに向かって笑いかけた。

「あら、いきなり襲おうとするなんて。ローガンはそんなことを教えていたの?」

 うわ~、煽るなぁ。
 僕が内心、真っ青になる。

「黙れ!魔王がローガンのことを語るなっ!」

 僕の身体の下でマルティが叫ぶ。

「黙りなさいっ!!」

 ピシャンッ!と、場を制する一声が室内に響いた。
 リズの後ろから発せられた鋭い声はローガンのものだ。
 覇気を含んだ声は、ビリッと室内の空気を震わせ、窓ガラスが音を立てる。

「ろ、ローガン!」

 叫んだのはローガンを視認したマルティだ。
 ローガンは、リズの後ろから遅れて室内に入ってきた。
 うん、久々に会うとやっぱりホッとするね。

 ローガンはリズと僕に一礼すると、足早にマルティの元へと歩み寄った。僕はローガンからの並ならぬ迫力を感じ、マルティから身体を放した。

 眼をハートにさせているかのような、立ち上がったマルティの前でローガンは、いきなり右手を振り上げたが、その手をグッとこらえると、右手を振り下ろすことはせず、クルリと僕達に向き直ると深々と頭を下げた。

「この度の御無礼。誠に、申し訳ありません!しかし、マルティをこの様に育て上げたのこそ、他ならぬ私でございます。罰するなら、私を罰して下さい!」

「──そんなっ!ローガン。ローガンは謝ることなんて、何もしてないよ!」

 マルティが、ローガンの腕を握る。

「──いえ、目的の為には常に冷静沈着であること。普通の年頃の女性が抱く様々な感情を、パーティーの為にと押し殺させていたのは、他ならぬ私です。そのため、マルティは私に対してしか感情を表出できないようになってしまった」

「だから!ローガンに会えるように精一杯頑張ったの!ジェイク達がローガンをパーティーから抜けさせたのも、私がいないときを狙ってだった」

 感情を爆発させる彼女の姿は、先程までの振る舞いからは想像もできない。マルティは、実年齢よりも遥かに幼くなってしまったかの様に想いを吐き出した。
 その様子を見ていたリズが思わずたじろいだ。

「ま、まぁ。少し意地悪な言い方をしたのは謝るわ。それに、私達の為に尽力してくれてるローガンを罰したら、私が悪者になっちゃうじゃない。──ただ」

 リズはそう言うと、魔力を集中させる。

 ──ガタッ、ガタガタ

 溢れ出る膨大な魔力に室内の机やテーブルが音を立てて動いた。

「うっ」

 絶対的な力の差。
 そして、僕に譲渡されたレベルで、レベル99まで高められた魔力を確認したマルティにとっては絶望的な物に感じたのだろう。
 顔から血の気を失くしたマルティは、ペタッと床に座り込んでしまった。

「私を殺そうとは思わないことね。それに、私を殺しても何も問題は解決しないことを、よくローガンからお聞きなさい。それとユズキ、余り時間はないのでしょ?話さないといけないことがあるからついてきて。あ、セラも一緒に来て、余り楽しくない話だけど、お茶とお菓子くらいなら出せるわ」

 ヒラヒラと手を振るリズに、僕は一連のやり取りにオドオドしていたセラ様の手を取ると、扉へと向かった。

「ユズキ殿──」

「僕も大丈夫。マルティは、しっかりと任務を果たそうとしただけなんだ。その代わり、本当のことを教えてあげて」

 僕の言葉に、微かにローガンは肩を震わすと、再び深々と頭を下げた。

「えぇ、勿論でございます」

 ここは、ローガンに任せて大丈夫だろう。
 訳が分からないといった風に混乱した表情のマルティをその場に残し、僕はセラ様の手を握ったまま、リズの後を追いかけた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...