うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第5章 戦争

最後の戦い 6

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 ゆっくりとセラ様の上体が崩れ落ちる様に前へ倒れ込む。慌てて俺はその細い身体を抱きとめる様に手を伸ばした。

「セラ!」

 ぽすっと、生気を失った身体が俺の両手に収まった。

「メーシェ!!」

 フーシェが怒りの声をあげた。  
 その声は鋭く感情的であり、今にもフーシェは双剣『アースブレイカー』を振るわんばかりの勢いに満ちていた。

『状態異常を感知!』

 脳内のセライが声をあげた。
 その警告が表すように、セラ様を撃ち抜いたメーシェ本人は、感情のない虚ろな表情で崩れ落ちたセラ様を眺めていた。
 セライの声を確認し、俺は直ぐにメーシェに向かって『抵抗力譲渡』をかけた。
 まるで糸が切れたかのように、メーシェはグラッと身体を傾けると、そのまま倒れ込んでしまった。

「くははははっ!!我の方が上手だったようだな!そやつには、予め強力な暗示をかけておいたのだ。神を見たら殺せとな!!ついに──ついに我は神をも殺すことに成功したのだ!」

 ──嘘だろ?
 こんな簡単に、セラ様が死ぬなんて。

「セラ様!」

 俺はセラ様の首元を触った。
 本来あるはずの脈は触れることなく、その顔はメーシェの覚醒に安堵した優しい笑みを浮かべたまま、セラ様はその瞳を開けることはなかった。

「メナフ!!」

 呆然とする俺に変わり、リズが怒りの咆哮をあげた。
 魔力が渦巻き、大気が震えた。

「『断罪の影』!」

 リズの叫びと共に、漆黒のギロチンの刃が空中に浮かぶと、刃はリズの腕の一振りによってメナフの頭上から振り下ろされた。

「『神砕き』!!」

 フーシェが唱えると、一際大きな『神喰らいゴッドイーター』が出現した。
 球体の『神喰らいゴッドイーター』が、突如パカリと開いて口を開いた形になると、地面ごとメナフを飲み込むために迫った。

「ふむっ、我の目的は達成された!ここで退場させてもらうこととしよう」

 満面の笑みを浮かべながら、メナフはリズとフーシェの攻撃を交わした。
 レベルそのものの増加と『進化』による恩恵、圧倒的な戦闘センスは、フーシェやリズが持っていたレベル的な優位性をなくしていた。

「では、さらばだ」

「──させる訳ないだろ」

 確かにメナフは、リズとフーシェより戦い慣れているのかもしれない。戦闘センスといえば、俺とは比べ物にならないだろう。
 だからこそ、ここでメナフを逃す訳にはいかなかった。

 俺は短距離転移を行うと、メナフの背後に回る。その首を掴むと、力一杯に地面へと向けて投げ飛ばした。

 ──ズドンッ!!

 地面にメナフの身体がめり込んだ。
 俺の心は怒りを通り越し、冷静なまでにメナフを倒すべく行動を開始していた。

「カハッ⋯⋯忌々しい、神の寵愛を受けただけにすぎぬ俗物が!!」

 リズに斬られ、メナフの残り4枚となった翼全てが俺の一撃によって、根本や途中から折れていた。

「死ね」

 手にする剣に魔力を通す。
 刀身が、込められた魔力に耐えきれなくなり弾け飛んだ。魔力は形を纏い、赤黒く光輝く刀身を形作る。

 属性とは無縁の、ただ暴力的に敵を滅するためだけに凝縮した魔力の塊。
 俺はその一撃をメナフに向かって振り下ろす。

 大気をも削り取るが如くの一撃がメナフに当たる直前、何かがメナフの身体を覆った。

 ──!!

 耳をつんざく様な爆音、そして同時に俺の手には巨大な岩に剣を突き立てたかのように固い感触が跳ね返ってきた。

「クソッ!なんだこの力は!?」

 全力で放った一撃が防がれた事に俺は驚愕した。
 赤黒い刀身は、メナフの身体にまで到達することはなく、メナフの身体から発せられる高密度の魔力の壁によって阻まれていた。

「──ほう。これはどういうつもりだ?女神、アマラよ」

 メナフ自身、自分の身体に起こったことには理解が必要だったようだ。
 メナフは、俺の一撃に自身の魔力を込めた拳で打ち付けた。刀身が呆気なく破壊されると、俺の身体はメナフの拳から放たれた魔力の余波によって吹き飛ばされた。

「クッ!」

 態勢を立て直し、俺は地面に着地する。
 メナフの上空を見上げると、顔には恍惚とした表情の女神、アマラの姿があった。

「アマラ!まさかお前が!?」

 俺は腰の『魔法袋マジックポーチ』から、新たな剣を取り出すとアマラに向かって構えた。

「ふふっ、怖い顔。つい先日は仲良くお話した仲じゃない。──さて、魔王メナフよ。よくぞ、私が直接手を下すことのできない神を殺せたわね。今の力は、私からのささやかな褒美よ」

 メナフとアマラが幾らか接点があることは予測していた。そうでなければ、グリドール帝国とメナフの動きの連動性に説明がつかなかったからだ。
 アマラは帝国側には『ラクサス教』という媒体を通じて勇者達の洗脳を施し、更には戦いには直接関わらないまでも、この世界には存在し得ないレベル100以上の兵器を供与していた。

 だがメナフの話ぶりからは、メナフは女神アマラという存在を認識していた。
 つまりは、アマラにとってメナフはセラ様を倒すための本命であったということだ。そうでなければ、リスクを冒してまで、直接的にメナフとコンタクトを取ることはなかっただろう。

「チッ、余計な真似を。施しを授けた様だが、我はいずれはお前達の世界をも手中に収める者であるぞ」

 メナフは、意図しないアマラからの力の譲渡に少し苛立ちを覚えたようだった。
 しかし、アマラはそんなメナフの怒りに対して涼しい顔を見せた。

「私はあの忌々しいセラを消してくれたことに、とても満足しているの。──でも、そこのユズキと貴方のレベル差は圧倒的。少しくらい対等にしてあげないと、不公平とは思わない?」

「セラは、あんたの事を本当に慕っていた!なのに、アンタは殺したいがために、セラをこの世界の住人に殺させた!!」

 俺の怒りの声を、毛ほども感じていないようにアマラは笑った。

「あら?神が神に直接手を下すのは、神の世界では大罪よ。だけど、失敗を起こしてセラはこの世界に封じられた。たまたま、そこで神を殺す能力を持った者にセラは殺された。これは、あくまで事故なのよ」

 いけしゃあしゃあと、自分は直接手を下していないことを強調するアマラの姿に、俺は湧き上がる怒りを抑えるのに精一杯であった。
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