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「でさ、なんでいつも女子といるんだよ」

 暖に再び尋ねられる。

 一緒にいたくている訳じゃない。いったい誰のせいで女子から小突き回されていると思ってるんだ。

 琥珀は心の中で悪態をついた。けど、口にはしない。それはまだ琥珀の中に残っている暖の親友としてふさわしくない行為だった。

「男同士の友情ごっこは止めて、今度は男の女の友情ごっこでもするのか?」

「は? なんだよそのごっこって」

「違うのか?」

「暖はずっとそんなふうに思ってたのか?」

 暖は琥珀から目を逸らすと、ボソリと吐き捨てるように言った。

「血の誓いなんて、子どもの遊びじゃないか。俺たちもう高二なんだからさ」

 ショック過ぎて言葉が出てこなかった。

 けれど琥珀の内側で激しい感情が大爆発を起こしているのは確かで、それは振動となって身体に伝わってきた。

 琥珀はわなわなと震えながら、どうにか言葉を絞り出した。
「ひ、ひどいっ! 暖なんか、暖なんて、ぜ、絶交だ!」

 言った端から後悔した。

 けれど、琥珀がそう言うのを待っていたかのような暖の仄暗い目が、琥珀をあとに引けなくした。

 琥珀は弾けるようにその場から駆け出した。琥珀と暖の一メートルの距離がどんどん離れていく。

 好きな女の子ができたら男の友情なんてどうでもいいのかよ、この薄情者! そんな男、こっちから願い下げだ! 暖の馬鹿! どアホ! 

 他にもたくさんの言葉で暖を罵った。

 罵る度に一段、自分が低いところに堕ちていくように感じた。底なし沼のような泥沼にはちゃんと底があって、そこにはコロンと琥珀の本音が転がっていた。

 暖の馬鹿、どアホと罵っても、琥珀は暖が好きだった。

 友として、そして友という言葉だけでは収まりきれない、誰よりも大切な人として、琥珀は暖が好きだった。




 終業式が終わると、琥珀はこっそり教室を出た。

 クリスマスイヴの今日、クラスの男子たちは暖の恋を応援しようとやる気満々で、女子たちはそれを妨害しようと躍起になっていた。

 女子たちに捕まったら最後、どんな目に合わされるか分かったもんじゃない。最近では男子までもが琥珀に暖の親友としてもっと協力しろと、圧力をかけてくるようになっていた。

 校舎の外に出ると、校庭は雪で真っ白に覆われていた。

 綿雪が綿の大ボスのような雪雲からどんどん地上に送り出されてくる。

 歩きながら、ときどき傘に降り積もった雪を揺すり落とした。

 琥珀の足取りが重いのは、雪のせいだけではない。

 イヴの今日、家で一人でいたら姉たちに暖のことをアレコレ聞かれるに違いない。

 頭の中は暖でいっぱいなのに、暖のことを口にするのは嫌だった。

駅の前を通りかかった時、ふと、あのお兄さんたちのことを思い出した。

 二人に会ったのはこんな雪の日だった。

―世界一大切な人だよ。

 眩しいものを見るかのような目をしていたお兄さん。

 琥珀は家とは反対方向に歩き出した。

 その足が向かった先は青龍山だった。
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